第69話 せいこん?
部屋の中にいるキャロライン以外の視線が、トコトコと歩き回る楽しそうなキャロラインにそそがれている。
「ドライよ。キャロラインがミレニアムの……そうなのだな?」
「鑑定ではそう、ですね……最初に鑑定したときには家名が出なかったので驚きましたが間違いはないと思います。それで……どうしましょう」
「すぐにでも使いを向かわせるべきなのだが……ドライの鑑定以外でも確証が欲しい。そうだな……もしミレニアムの王女であるなら聖痕があるはずだ」
「……」
「歴史的にも稀な事なのだが、聖魔法を生まれ持ったものには体のどこかに聖痕が現れるとされている」
聖痕ってイエス・キリストが磔で受けた傷と同じところに出るとかだったよな。
「そして行方不明のミレニアムの王女にも生まれ出でたときにその聖痕が腰にあったそうだ」
あれ? 両手足とかじゃないのか? あとはロンギヌスの槍で刺されたわき腹とか。
まあ、この世界ではイエス・キリストはいなかったはずだし、聖痕の痕が別の場所にあってもおかしくはないか。
「これは行方を探すためにミレニアム女王国から正式に知らせが来たものだ」
「なるほど。俺の鑑定でも最初はキャロラインとしか出なかったから、もしかするとステータスを隠す何かの必要性があったのかもしれませんね」
「そうだな。私もお忍びで出るときは隠しているからな。だがキャロラインに関してはおそらく……いや、今は関係の無いことか」
なにかを言いかけて言葉を濁した王様は、俺からキャロラインに視線を移し、真剣な顔で声をかけた。
「……キャロラインよ、少し聞きたいことがあるのだが」
「っ! ……え? あ、こ、これは王様。失礼いたしました。それでお聞きしたいこととは」
楽しそうに歩き回っていたところを、突然呼び掛けられたからか、ぴょこんとその場で飛び上がった。
そっとこちらを向くと、みんなが見ていたからか、ビクッと震え固まってしまったが、なんとか返事をすることはできたようだ。
「キャロライン、正直に答えてほしい。聖痕はあるかね?」
「え? せ、せいこん、ですか? せいこんとは何ですか?」
「聖痕とは体のどこかにアザのような紋様だ。キャロライン、見覚えはあるだろうか」
「え? えっと、あの、はい。そ、その恥ずかしいところなのですが……腰に星の形をしたアザのようなものがございます」
そう言いつつ少し体をひねったあと、俺たちに見せるように腰に手をまわし、手を添えた。
息を飲む王様二人と父さんとイルミンスール伯爵様。
この四人は聖痕がどこにあるのかを知っているから、その知っていた場所に手が置かれたことに驚いているのだろう。
「……当たりだ。すぐにでも報せなければならんな。おい! 宰相を学園に――いや、王城に帰る! 今すぐ馬車をまわせ!」
部屋の外に向かって王様が叫ぶと、外で護衛していた人たちが動く気配がした。
「あ、あの、私、なにかいけなかったのでしょうか?」
「いや。キャロラインはなにもやってはいないから安心しなさい。そうだな……子供たちはこの後教室に戻らねばならんのだったな」
「はい。その予定ですけど」
「ならば終わり次第、皆で王城に来てもらおう」
「みんなで、ですか?」
「ああ。それとここでのことは他言禁止とさせてもらう。良いな」
そう言いながら立ち上がる四人。王様二人が先頭で扉に近付くとタイミングよく扉が開かれた。
「わかりました。またあとで」
退出する四人の背中に返事だけして、俺たちと、まだ目を覚まさないアンジェラは豪華な部屋に取り残されてしまった。
「とんでもないことになったわねドライ」
ファラが服をつまみ、くいっと引っ張る。
「そう、だな……。まあ、今俺たちが悩んだり考えても仕方がないよな……。なら俺たちも教室に戻ろうか」
それからしばらくアンジェラが目を覚ますのを待ってから教室に移動することにした。
先頭を行く俺の後ろでは、ずっと気絶していたアンジェラにはリズが何があったか、喋っても良い範囲で説明している。
キャロラインは右のファラとは逆の左側を歩いているんだが、傷がなくなる前にしていた格好をしている。らしい。
手袋をして、見えていた足もスカートの丈を元に戻し、首は襟を立てて首も隠してしまっている。
なんでもここしばらくはこの格好だったので、肌を見せるのが恥ずかしいそうだ。
ということはあの部屋に入ってくるときは凄く恥ずかしかっただろうな……。
王様も俺たちに見せるためとはいえ、せめて片手だけとかにすれば良かったのに、たぶん王様が治ったところを見たいから無理を言ったんだろうなと想像がつく。
でも今回、傷は綺麗に治せたはず。だからいつかはみんなと同じ格好でいられるようにしたいので頑張るとのことだ。
……そのうち慣れるだろうとは思うけど、女の子にそんな傷を負わせるとか、本当になにを考えてるんだあの転生駄目勇者は。
それもミレニアム女王国の王女だぞ? って原作に無かったから知らないのは仕方がないのか?
いや、そんなこと無いな。王女だろうと平民だろうとやっちゃ駄目なことだ。
そう考えると……リズのように、俺も何回か空に飛ばそうかな……。
「そうだドライ。教室に帰ったらまたあの二人がいるのよね?」
「そうだった……完全に忘れてたよ」
「でもヒエン王子殿下の方は大丈夫じゃない? 壇上で私たちが何者なのか思い出したようだし」
「そう言えばそうだな――って騒がしくないか?」