第67話 聖女の復活
「あの……わたしがドライ様の婚約者? それに治してしまうとはいったい」
「ああ、キャロライン、これは機密事項なんだがドライも聖魔法が使える。欠損部分も治せる再生もだ」
それを聞いたキャロラインは目を丸くして、口をポカンと開けたまま固まってる。
「あ~、王様、説明するよりやっちゃいますよ。ほら、リズ。リズはその練り終えた魔力で一緒にやろうね」
『イスもお願いね。三人ならしっかり治せると思うし』
『ほいほーい。がんばるよー! まっかせてー!』
イスはオッケー。リズも右こぶしには空間が歪んで見えるほど魔力が集まっていた。
放っておくと、バタバタと増え出した婚約者ごと王様を殴りかねない。
そっと膝の上のアンジェラを隣に下ろし、立ち上がりチュッとリズの頬にキスをして、手を引き立たせた。
「も、もう、ドライったらこんな人前で……お返しですわ」
リズも抱きついて来ながらキスを返してくれた。よし、なんとか臨戦態勢からは脱したな。
「ほらリズ、今朝会ったヤツに怪我させられた同級生の怪我を治すよ」
キャロラインが座るソファーのところまで近づくと、キャロラインの手を取り、優しく、ヒキツレ、色が変わってしまった手の甲をそっと撫でるリズ。
「こんなに酷いお怪我をあの無礼者に……お可哀想ですわ。傷ひとつ無いお姿に戻せるよう全力で再生させますわよ」
涙をためたリズの横で俺も空いているキャロラインの手を取り、優しく両手で挟むようにして準備完了だ。
「うん。せーので、やるよ。キャロラインさん、少し体が熱くなったりモゾモゾとこそばがゆかったりすると思いますけど、少しだけ我慢してくださいね」
「いつもの『せーの』ですわね。わかりましたわ。キャロライン様。すぐにお綺麗なお肌に戻して差し上げますからね。行きますわよ」
「え? あの、いったい、あなた方は――」
何か聞きたそうだけど、先にやっちゃおう。
「行くよ! せーの!」
「「再生!」」
「きゃ! 眩しい!」
腕や足の欠損ではないので、そこまで魔力を込めなくても大丈夫だとは思うけど、リズの魔力に合わせてしっかりと魔力を注ぎ込む。
部屋の壁に俺たちから放たれた眩しい光によって影が濃く映る。
やっぱり魔力を込めすぎか。ここまで光るのははじめてだよ。
でも、怪我の方は順調だな。ならばあとはこのまま治してしまうだけだ。
手にしたキャロラインの指の先からボコボコだったケロイドが消え、肌の色が再生されていく。
「――っ!」
息を飲むキャロラインは真っ白に再生されていく肌から目を離せないようだ。
手首を越え、服の下の肌は見えないけれど、少しして首元の皮膚も再生され始めた。
よしよし順調だ。服に隠れたところにも傷ひとつ残さないためにもさらに魔力を込めてやろう。
「聖魔法の再生……こんなに優しい魔力なのですね」
何かぽつりと口を開いたようだが聞き取れなかったけど、スカートの裾から見えた足の怪我も消え始める。
開始から約五分。キャロラインの体から悪くなっていたところをすべて再生し終えた。はず。
もう、再生用の魔力がキャロラインに入っていかないから終わりでいいだろう。
「終わりですキャロラインさん。たぶんもう普通に歩けると思いますけど、少し立って確かめてもらえますか?」
「え、も、もう? で、ですがこんなに短時間で再生が終わるなんて……」
「キャロライン様。心配しなくても大丈夫ですわ。ほら、お立ちになってくださいませ」
そういって二人でエスコートするようにキャロラインをソファーから引き上げる。
自分の足でしっかりと立つキャロラインを見ても、ふらつきもないし動作も自然だと思う。
「凄い。どこも突っ張ったり痛みも無い……」
「ほら、手を繋いだまま少し歩いてみましょう」
「そうだな、筋力が落ちているかもしれないし、支えるのは俺たちに任せて」
両足が無くなった元冒険者の人を再生させたときは、約一年間寝たきりだったので、すぐには立てなかった。
おそらくキャロラインも数ヶ月動きづらい生活をしていたはずだから、変な癖がついているかもしれない。
「凄い。膝の痛みがまったく無いです。アーシュのヤツにストーンバレットを右膝に撃ち込まれてもう普通に歩くのは無理だと思っていたのに……」
あの勇者、そんなことまでやってたのかよ。ヒロインだぞ?
「なんてことを。ドライ、あの不敬な男は野放しにしてはいけませんわ」
「そうだな。なにか対策しないとマズイよな」
だけど魔王は勇者にしかとどめをさせないのが問題だ。なんとか改心させて魔王だけでも倒してもらわないと駄目だ。
いくら俺が複合魔法が使えても、倒しきることはできないはずだ。勇者の称号が無いものには倒せないって原作にもあったしな。
最悪、俺が魔王を倒せる寸前まで弱らせて、倒させるしかないか。面倒だけど……。
キャロラインに意識を戻すと、しっかりとよどみ無く足を運び、部屋を歩いている。
「大丈夫そうですね。では手を離しますから、今度は一人で歩いてみたり、してもらえますか?」
「どこかおかしなところがあれば遠慮無く言ってくださいませ。わたくしとドライでしっかりとお治しいたしますから」
「はい」
きゅっと握られていた手から力が抜け、離れていく。
うん。まったく問題は無さそうだな。
キャロラインは数歩歩き、くるりと向きを変えたり、片足立ちしたり、ぴょんと弾んだり、色々試している。
「凄い。まるでなにも無かったかのようです。完全に元通りです! ありがとうございます! ドライ様! エリザベス様!」
「どういたしましてですわ」
「治せて良かったよ」
とととっと小走りで部屋の端から戻ってきたと思ったら、俺とリズの手を取り涙を流しながら感謝の気持ちを伝えてきた。
「くははは! ドライ、やれるとわかっていたが、見事だ!」
王様の笑い声と拍手が背後から聞こえた。
「これで準備は整った。ドライ、エリザベスよ。今日からお前たちは聖騎士。キャロラインもアンジェラの従者として頼む」
「は、はぁ……わかりました」
「承知いたしましたわ」
「もちろんファラフェル王女もアンジェラの友人として仲良くしてもらえると助かる」
「カサブランカ王に頼まれなくとも、婚約者同士ですもの。ドライを中心に仲良くしたいと思っているから心配ありませんわ」
完全復帰したかどうかキャロラインのステータスを見ると、称号に聖女の横に、リズとファラにもあるドライの婚約者が表示されていた。
まだソファーで眠るアンジェラの称号にもあるじゃん……。
入学初日だと言うのに、色々ありすぎだろ……。
聖騎士リズは絶対渡さないと頑張ってきたけどさ……。
勇者の奥さんになるはずだった賢者アンジェラと聖女キャロラインの婚約者になってしまってるし……。
あ、入学式と言えば……この後起こるリズが暗殺者に襲われるイベントはどうなるんだろ……。