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第60話 放置勇者と驚愕王子

 気絶した勇者が起きる前に、先生だろうか、式が始まると呼びに来たため、その場にいた全員が入学式が行われる場所に移動する。


 先生らしき人は、言うだけ言ってさっさと隣の教室に向かったようだ。床に倒れているアーシュに気づくこともなく。


「気づかず行ったわね。どうする? このまま放っておくのが楽でいいんだけど」


「……だな。このままにしておこう」


「ならそうしましょう。みなさんもそれでいいわよね?」


 ファラが隣国グリフィンの王女と知っているからか、残っているもの全員が首をたてにブンブン振り教室を出ていく。


 誰ひとり助け起こそうとしないままなのが、おそらく校門の出来事をやっぱり知っているんだと思う。こういった噂は広がるの早いはず。


 というか第三者的に見てもあれはない。時間的に全生徒には広まっていないだろうけど……終わったよなこれ。


 校門の時より強めだったから多少のことでは起きないだろうし、何人かは校門の騒ぎも見ているだろうし、この教室で王子とのやり取りも見ていたから……なんとかなるよね。


 勝つ馬に乗るならどうするのがいいか、わかるはずだ。よね? せっかくの入学式だし、変に関わって巻き込まれたくはないだろうし……ね。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 入学式は大きな体育館みたいなところで始まった。


 入学式、前世でも何度か体験しているけど、異世界でもよく似ているようだ。


 色んな人の祝辞や挨拶が何人も何人も……そしてそれはとにかく長い。


 ね、眠い……。だ、駄目だ。寝るな俺。いくら意味もわからない長話だろうと駄目だ。


 ……意味が無い、のかもしれない長話は催眠術のように式場に広がるけど……寝ちゃ駄目だ。


 両隣を見ると、リズもファラも口に手を当てあくびを噛み殺していた。式の挨拶とか、聞く側にとって、眠くなるのは万国共通なのかもしれない。


 その奥の方で座ってるヤツは……完全に寝てるだろ。……おーい、新品の制服にヨダレ垂れてるぞーと起こしてあげたくなるほどだ。


「――続きまして、新入生代表。ヒエン・フォン・カサブランカ第四王子殿下」


「はい!」


 座っていた王子は、その場で大きく返事し、立ち上がって壇上へ向かう。


 背筋が伸び、歩く姿はイケメンなんだけどな……。あんなに残念な性格だとは思わなかったよ。


 あの状態のアーシュが王になった時の宰相だろ? 考えるだけでヤバそうだ。絶対おかしな国政を行うと思う。


 転生者で残念過ぎる勇者アーシュと、選民意識が強く、聞く耳を持たない王子。国のトップにしちゃ駄目な人材だな。


 なら聞かなくてもいいか……でも一応王子の話は聞いておかなきゃだめだよな。


 というか、変なことを言わなきゃいいけど――


「――新入生代表、ヒエン・フォン・カサブランカ」


 王子の暴走は無かった。思っていたより短くまともな新入生代表の挨拶も終え席には戻らず壇上に残る。


 ん? 王子は残るのか? 他の人は元の席に戻っていったのに、なんでだろ。


 司会進行の紹介のあと、王子が残って理由がわかった気がする。紹介されたのが、このカサブランカの王様だ。


 王様は護衛と共に壇上に現れ、残っていた王子を見て『なんで残ってる?』って顔でチラッと見たが、そのまま止まらず足を進めた。


 当然俺たちは席から立ち上がってその様子を見守っている。


 浄化の旅の途中、はじめて会った時も思ったけど、ジョ○ー・デップ似の渋い感じがするイケメンだ。


 王様の後に続いて歩く王子もイケメンではあるんだよな。とりあえず父親似なのは間違いはないだろう。


 壇上の中央に置かれた豪華な椅子の前まで来ると、俺たちの方に向き直り――


「新入生の諸君。まずはカサブランカ王立学園の入学おめでとう」


 よく通る声で学園の歴史の話から始まり、途中から熱病の話に変わった頃、王様と目があった。


 そろそろかな。国をあげての公開前にまずは、学園で名はあかさず、その功績の話()()すると聞いてる。


 だから俺たちは小さく頷いて答えるだけだ。


「――そのものたちはな、今日まさにこの場にいる! 国中を文字通り飛び回り、原因不明だった熱病の根絶をしてくれたのだ!」


 拳を握りしめ、熱くみんなを鼓舞するように声を張る王様。


 ちょ、なに言ってるの王様! そこはまだ言わないって言ってたよね!


 俺は目線を送り、入学そうそう目立ちたくない……いや、結構目立ってしまったかもだけど、それは目立つどころの騒ぎじゃなくなる。なんとか止めなきゃ!


 あわてて腕でバツを作りアピールしたんだけど、『フッ』と笑い話を続ける王様。まさか……。


「そこでだ。熱病を回復に向かわせた四人のものを紹介しよう! 名前を呼んだものたちは壇上に上がってきてもらおう」


 おい! 紹介するってどう言うことだよ! それに壇上に上がるとか聞いてないよ! 冗談でしょ!


 そう言うと、王様はすぅと深く息を吸った後――


「まず一人目は……ドライ・フォン・クリーク! 続けて、エリザベス・フォン・イルミンスール!」


 あ、ああ……。言いやがったよ。


 ニヤリといたずらっ子な笑顔を見せたあと、続けるようだ。その後ろで驚愕の顔をさらしている王子。本当に知らなかったみたいだな……。


「グリフィン王国第八王女、ファラフェル・フォン・グリフィン王女! その従者であり、カーバンクル伯爵家のカイラ・フォン・カーバンクル!」


 ……というか終わった。建国祭の式典で発表するって言ってたじゃん……挨拶の練習とかするつもりだったのに、台無しだよ……。


 俺たちの名前が呼ばれた途端にザワザワと式場内が騒然となり、そのほとんどが動き出すものを見ようとキョロキョロし始める。


 というか、カイラさんも? 学生でもないのに……。


 カイラさんがいる来賓用の観覧席を見ると、遠くからでもわかるくらい顔がひきつっていた。


 その横で父さんが顔を手で覆い、横に首をふっている。


「四人は速やかに壇上へ」


 ニヤリとさらに顔を歪め、まるで『イタズラ成功』と言ってるように口が動いた。


 イタズラ……なんだよこの王様は! まったく警戒してなかったよ! 王子を警戒していたけど、こっちかよ!


「ドライ、どうしますの? この騒然としている中、壇上に上りますの?」


「リズ、あきらめなさい。あの顔は確信犯的に楽しんでるようだし、出ていくしかないわね」


「そうですね。お供いたします」


「「「っ!」」」


 カイラさん! ……そうだ。カイラさんもツヴァイ兄さんのミラさんとよく似た動きが出きるんだった……。


「参りましょう。カサブランカ王がお待ちしておりますので……」


 そう言うカイラさんも凄く嫌そうだ。


 こんなことする王様とは思わなかったよ……あ、そう言えば父さんが『アイツとはよく悪戯したもんだ』と言ってたのを思い出した。


 ……入学式でやるなよ!

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