第58話 主人公の相棒王子登場
「ファラ久しぶり、制服すごく似合ってるよ」
ファラの制服姿も新鮮だ。リズと同様にドレス姿か冒険者の格好がほとんどだったからな。
それに髪の毛も今日は入学式だから気合が入っているのか、編み込み、まとめられ、左肩から前に下ろされている。
うん。ファラも可愛い。
「ファラ、元気そうで何よりですわ」
「もうドライったら。でもありがとう。四か月ぶりかしら? 久しぶりね二人とも元気そうだし――」
『――イスも久しぶり。というか、いつも通りそこなのね』
『ファラ久しぶり。ずっとここだから居心地もいいしねー』
「君たちは誰だね? ファラフェル王女に気安く声をかけおって。不敬であるぞ」
さっきからファラの横にいるから気になっていたんだけど、話を遮るように声をかけてきたこの人って、よく見ると王子様だよな……。
確か飛燕、じゃなくてヒエン・フォン・カサブランカ第四王子だ。
王族の中でも教会派でアーシュの支援者。アーシュが王様になったとき宰相になる人だ。
凄く優秀って設定だったけど、この感じ……痛い子の匂いがするぞ……。っと、挨拶しなきゃだな。
「ヒエン王子殿下、挨拶が遅くなり申し訳ありません。クリーク辺境伯家三男、ドライ・フォン・クリークと申します」
「っ! 王子殿下。わたくしはイルミンスール伯爵家長女、エリザベス・フォン・イルミンスールです」
俺たち二人が名乗ったんだ。それで王族、王子ならファラとの関係は理解してくれるだろう。
俺たちの婚約は父さんからと、イルミンスール伯爵様から王様に報告されているだろうし、それからグリフィン国王からも。
イルミンスール伯爵様は俺たちの婚約にはじめ難色を示していたけど、第八王女が第二婦人でリズが正妻で、さらにはファラのお母さんが帝国の皇女だったことで一気に対応が変わり、今ではイルミンスール伯爵家の誇りだとまで言ってる。
その婚約とアレ、熱病の立役者が俺たちってことは王族なら知っていて当然だもんな。
「そんなことはどうでも良い。命令だ。ファラフェル王女に話しかけるのも近づくのは禁止だ。わかったならすぐに離れるのだ」
うわ、やっぱり痛い子だ……。というか聞かされてないの?
……あれ? 王子がファラのことを頬を赤らめながら見てる……これってもしかして王子はファラのことを? だったら横恋慕ってやつだよ?
「ヒエン王子様。ドライとリズはわたくしの古くからの友人であり、ドライはわたくしの――」
「ああ、腐れ縁でまとわりつかれているのですね、お可哀想に。ですがこのヒエンにお任せを。無礼なやからは私が追い払って差し上げましょう」
話聞かないよ! もしかしたら婚約の話は聞いたけど、右から左ってこと!? それとも俺たちのことだとわかってない?
「なにを呆けておる。さっさと立ち去らぬか無礼者め! 不敬罪で――」
顔をしかめ、腕を振り払いのける仕草をしながら怒鳴り付けてくる。そこへ被せるようにファラ――
「ヒエン王子様! ……お聞きください。二人は古くから仲の良い友人であり、ドライはわたくしの婚約者です。理解されましたか?」
「なにを馬鹿な。辺境の田舎貴族が婚約者? 馬鹿馬鹿しい。土にまみれた男などファラフェル王女には釣り合いません。即刻婚約破棄をするべきです。いや、私がグリフィン王に進言いたしましょう」
勝ち誇ったようにドヤ顔で俺たちを見ているけどさ、まず辺境伯の辺境は田舎って意味じゃないからね。
隣国との国境を護る守護者であり、魔の森の魔物から民を護る剣と盾でもあるんだよ? わかってる?
「話になりませんわ。ドライ――」
『――この馬鹿王子。グリフィン王国どころか大陸全土を救った立役者を知らないなんて、ホントバカね』
途中から念話に変えてきた。
『どうするかなぁ。さすがにって――』
ヤバっ! それは駄目だって!
目の光をなくしたリズの動きだした手を掴み引き寄せ、顔を胸に抱き込んでおく。
「……」
あ、力が抜けたな。それに……匂い嗅いでるよ……。ま、落ち着いてくれるなら思う存分嗅いでいてもらおう。
『……良くやったわドライ。さすがにクソ王子とはいえ、手を出してしまえば、いくら功績があっても首が飛んでしまうわよ。……まったくリズはドライのことになると怖いもの知らずだもんね』
ナチュラルにクソ付けてるよ……まあ、クソ王子だな。
主人公のアーシュが転生者でほぼ間違いなくて性格もヤバそうなのに、ここにきて王子がコレかぁ……。
『リズ。ファラとの婚約破棄も無いし、俺は別に土まみれだって気にしないよ。普通に冒険者してるからよく泥まみれになってるしね』
『……』
『とりあえずドライはリズをなだめていてね』
『ああ。だけどどうするんだ?』
『こうするのよ――』
「――ねえ、ヒエン・フォン・カサブランカ王子。あなたはわたくしの婚約者ドライと友人エリザベスを蔑むのね」
「そんなにかしこまらずヒエンとお呼びくださいファラフェル王女。それに蔑むしかないでしょう。潰しても、いつの間にか湧いてくる平民に毛が生えただけの矮小なものたちなのですから」
ドヤ顔でリズを抱く俺を勝ち誇ったように見てくる。ファラは大げさと言われるくらい首を横にふり、キッ、と王子を睨みながら――
「ヒエン・フォン・カサブランカ王子。あなたはそんな考えなのね。わかったわ。――だったらもう近づかないで!」
「おお! わかって下さいましたか! さあお前たち、聞いただろう。さっさと視界から消えぬか!」
両腕を広げ、満面の笑みを浮かべる王子様。
……駄目だ。完全に自分のことじゃないと思ってるよ。
「いえ、消えるのはあなたよ、ヒエン・フォン・カサブランカ王子。今日この時よりわたくしに近づくことも声をかけることもしないでください。わかりましたか? あなたの言葉を借りると――」
すぅ、と息を深く吸い込み――
「――さっさと私たちの視界から消えて! この事はカサブランカ王にも報告させていただくわ!」