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第57話 飛ぶ原作主人公(勇者)

「馬鹿とはあなたのようなもののことですわ!」


 バチン!


「へぶっ――」


 リズの左手が動いたと思った次の瞬間、アーシュは俺たちの右斜め上に飛んでいた。


「あ、やっちゃいましたわ」


 グシャ――と長い滞空のあと重力に引かれ、ちょうど門柱と門柱の間に顔から落ちた。


「いや、今のはあっちが悪いし気にしなくていいよ。それより俺のことで怒ってくれたのが嬉しいかな」


「ドライを貶めるようなことを言うんですもの。つい。それで、どういたしましょうか」


「ん~、とりあえず学園の中に入れておこうか。ここはさすがに邪魔になるだろうし」


「ですわね。不快なものを皆様が踏んだり躓いたりするといけません。本来なら衛兵を呼びたいところですが……」


「は、はは、そこまではしなくていいんじゃないかな」


 うつ伏せで見えないけど、たぶんアーシュの頬には手形が残ってると思う。


 だけど、手加減スキルが仕事を多少してくれたみたいだな。手加減無しなら、飛距離はこんな数メートルではきかないだろうし。


 うつ伏せのアーシュの片足を持ち……もう片方の手はリズと繋いでいて、放してくれないのでしかたないよね。


 門柱の裏にでも置いておこうと引きずり始めたところに声がかけられた。


「少しよろしいか?」


 振り替えると、さっき絡まれていた人たちだった。


「えっと、コイツを門柱の裏に退けてからなら多少は大丈夫ですよ」


「すまない。お手伝いします」


 おそらく先輩も空いている足を手にとり、二人でアーシュを学園の敷地内に引きずり込んだ。


 ……喋り方変だな? 怖がられてる?


「ここでいいかな。それで、お話とは?」


「お二方にはご挨拶が遅れました。私はクリーク辺境伯様の寄子。インメント子爵家嫡男、ルース・フォン・インメントと申します」


「インメント子爵家! そうでしたか! インメント子爵家の領地には行ったことがあります! 海、いいですよね!」


 浄化の旅でインメント子爵領に行ったときは、海の幸に感動したものだ。


「ありがとう。自慢の領地です。そしてその領地の危機を事前に――」


「しぃー、えっと、それはまだ」


 口の前で人差し指を立て、言葉を止めてもらう。ルースさんが口走りかけたことは、まだ箝口令が敷かれていて公にしちゃ駄目なことだ。


「あ、そうでした。すまない」


 はは、変な喋り方になってる。寄子の子供が寄親の子供と話すときは緊張するよな。


「あの、ルースさんは確か……先輩ですよね? だったら俺は後輩だし、普通に喋っても大丈夫ですよ」


「ですわ。ルース様。わたくしはエリザベス・フォン・イルミンスールと申します。わたくしにも普通でよろしくてよ」


 リズがそう言うとルース先輩はコクリと頷く。


「お気遣いすまない。ではお言葉に甘えさせていただくことに。……あのとき、母が熱病だったのだ。だからドライ殿とエリザベス嬢の二人には感謝しかない。本当にありがとう」


「そうだったんですね、良くなってくれたなら幸いです」


「それでルース様。この馬……ものは何者ですの?」


 馬鹿って言いかけてるよ……。だけどコイツ、転生者だろうけど、なにを考えてるんだ?


「このものは元平民で、持つスキルが歴代の勇者のものと認定され、光の勇者として教会により発表されたロホ男爵家の養子で、アーシュ・フォン・ロホと言い――」


 そうか、確か光魔法と限界突破って勇者のテンプレスキルを持っていたはず。


 アーシュはそのスキルで、聖騎士となったリズとその護衛対象者のカサブランカ王国の王女。この王女も賢者と呼ばれ、さらに聖女を仲間にして魔王を倒すんだよな。


 そして三人を娶り、カサブランカの王に成り上がるってのが原作だ。


 なんだけど……魔王、倒せるのか? いや、倒せるんだろうけどコイツにこの国を任せる?


 ……無理だろ? いや、確か原作通りに進む強制力ってのがあるって読んだ気がする。


 ……だけど、リズを見る限り、アーシュを見ていた顔は心底嫌そうな感じだったし……。


「――我々が門を入ろうとしたところ、後ろからいきなり突き飛ばされ、謝罪を求めていたんだが……あとは見ていた通りだ」


「それは……災難でしたね」


「ああ、まったくだ。しかし、少し面倒なことになるかもしれない」


 まあ、そうだよな。勇者認定されるってことは良い想い出がない教会関係ってことだ。


 五年前の肉祭り、じゃなくてスタンピードを起こしたと思われる転移で逃げた人物も教会関係だと思ってるし。


 入学式もまだ始まってないっていうのに、いきなりこれとか……大丈夫か?


「多少はあると思いますが、そう大事にはならないと思いますわよ」


「え? あ、そうか。アレまでもうすぐだもんな」


「その通りですわ。そのときになればそのような面倒ごとなど、ね」


「だな。ということでルース先輩。この件はすぐに解決すると思いますよ」


「よくわからないが、ドライ殿たちがそう言うならそうなのだろうな」


「はい。なので俺たちは入学式が始まる前に教室に向かいますね」


「そうだな。同じ学園に通うんだ、その内また会うこともあるだろう。なにか困ったことがあれば味方になると誓おう。ではな」


「はい。そのときはよろしくお願いしますね」


 ルース先輩たちと別れ、あらかじめ決められていた教室に入る。


 同じクラスになるアーシュの姿は当然無い。たぶんまだ気絶したまま校門にいるはずだ。


 それに当然俺とリズは同じクラスだ。だけど原作ではすでに死んでいたはずのファラは……いるかな?


「ドライ! リズ! 一緒のクラスよ!」


 原作を歪めてしまっているし、いるはずのないファラだから、もしかしたら別のクラスかもって思っていたけど……本当によかった。


 立ち上がり、窓際で元気に手を振るファラに手を振り返す。


「ファラ! 久しぶり!」


「ファラ! よかったですわ!」


 数か月ぶりの再会に走って近づきたい気持ちを抑えて窓際に足を向けた。

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ダメだこの主人公(アーシュ)何とかしないと
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