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第56話 原作主人公が現れた

「おはようドライ。行きますわよ」


 リズの制服姿が新鮮だ。ドレスと冒険者の格好は見慣れているけど……。


 頭の先から爪先までゆっくりと視線を動かし、ピントを引いて最後に全体を見る。


 ピンクブロンドの髪を後ろで一つにまとめ、上半身は紺色のブレザーに真っ白なブラウス。


 ブラウスの胸元ははち切れそうになっている……イスもやっぱり行くんだね……。


 下半身はタータンチェックのプリーツスカートっていうのかな、それに白のニーハイソックス……。


「どうかいたしましたか? 制服……似合っておりませんか?」


 可愛いぞ俺の婚約者! 美人過ぎるだろ! っと、落ち着け俺。見惚れてないでまずは挨拶だろ。


「おはようリズ。そんなことない。凄く似合ってるし、可愛いし、いつも通り凄く綺麗だよ」


「も、もう、ドライったら。ドライも制服凄く似合ってますわ。す、凄く格好いいですわよ」


 両手で頬を挟み、くねくねともだえるリズ……思わす抱き締めてしまった。


「ドライ?」


「あ、ごめん。そろそろ出掛けなきゃ駄目だよな」


「ええ。入学式に遅れてはいけませんからね。行きましょう……ちゅ」


 抱き締めていた手を離そうと緩めたところでリズがキスしてくれた。


『二人とも~、本当に遅れちゃうよ~、チューするのはいいけどさ~、間に私がいるの忘れてな~い?』


 リズの胸からイスが間延びした念話を送ってきた。


 リズのは五年たってもささやかなまま、あまり育ってはいない。


 五年経ってもリズのブラウスをはち切れそうにしているのは変わらずイスだ。


 俺は大小関係なくリズのことが好きだからまったく気にしてない。リズは結構気にしているみたいだけどな。


「ごめん、イスのこと潰しちゃってたね。って遅れちゃうな。リズ、行こう」


「ですわね。エスコートはお願いできて?」


「もちろん。俺の婚約者殿。お手を」


 右の手のひらを上に向けて差し出すと、リズが左手をその上に添える。


 部屋を出て玄関でメイドさんに止められ、最後の身だしなみを整えられる。


 王都の屋敷から学園まではすぐだ。貴族街と平民街との間に学園があり、王族以外は基本馬車通学は禁止だ。


「ドキドキしますわね」


「うん。よく考えたら、同じ歳の知り合いってリズとファラだけだったから、楽しみでもあるよな」


「ファラとも久しぶりに会えますから楽しみですわ」


「だけどあの王様がよく、この国の学園に通うのを許したよね」


 おそらく、王様は隙を見つけてこの王都にスエキチで何度も乗り込んでくるんだろうなと確信している。


 っと、それよりそろそろだ。学園に向かう制服のものたちが増え、学園の門が見えてきた。そしてそこに人だかりができている。


 あれだな。教会で勇者認定された原作主人公は。


 入学式の時、貴族の先輩たちに絡まれる最初のイベンドだ。そこで主人公のアーシュを助けるのがリズなんだけど……。


「本当にそうですわよね。お手紙では『嫌いになるわよ』の一言でお許しが出たとおっしゃってましたわ」


 まったく見てないし、気にしてもいないようだ。


 主人公のいる人だかりを避け、少し遠回りをしながら通りすぎる俺たち。


 このまま止めないのかな? 確か先輩たちはイルミンスール伯爵家より下の子爵と男爵だからしぶしぶ身を引いてくれるんだけど……。


「勇者か何か知らないが、男爵家の養子のお前が子爵家嫡男の俺にぶつかっておいて謝りもしないのかキサマは!」


「あー、そういうのいいんで。すぐにあんたらより上の爵位の子が助けに来るからさ適当に俺を囲んでてくれたらいいからさ」


「子爵家嫡男の俺より上だと? それでなぜキサマを助けると言うのだ? 後ろからいきなりぶつかってきたのはキサマだろ!」


「おっ、威勢がいいな。そうだ、別に一発くらい殴ってもいいぜ? お前らが束になってかかってきても。ってか殴られてた方が助ける切っ掛けにいいのか? よし、お前らちょっと俺を殴れ」


 ん? 何か……話が変だな? アーシュってあんな台詞を言ってたか? それにアーシュの方からぶつかっていった?


「なぜ殴らねばならない。キサマが謝ればすむことだろう。ってどこを見ている!」


 あ、こっち、じゃないな、リズを見てるし――


「来た! うひょー! あの女が俺のヒロインか! 想像より美人だぞ!」


「何? 誰が来たと?」


 アーシュに絡んでいた……いや、どう見ても主人公のアーシュに絡まれていた人たちが俺たちに視線を移してきた。


「まあ、校門前で足を止め集まっているなんて邪魔ですわね。ドライ、さっさと避けて構内に入りましょう」


「え? えっと、それでいいの?」


 あれ? 台本だとリズが声をかけ家名を名乗り、この場を納めるはずなんだけど……。


「あのようなものに関わっていては、ドライとの楽しい学園生活がけがれますもの。ほら、行きますわよ」


「……なら、それでいい、か。できれば関わりたくもないしな。よし、放っておこう」


 うん。それがいい。主人公と関わっても俺に良いことは一つもないだろうし、最適解だろう。


「そうそうドライ、入学式が終わったあとはどうしま――」


 止めかけた足を前に進めると――


「待て待て待て待て! どこ行くんだよ! 俺はここだぞ! それにお前誰だよ! 俺のリズとなんで手なんか繋いでんだ!」


 先輩たちを文字通り弾き飛ばし『お前なにを!』と呼び止める声には反応せず、アーシュが俺たちの前に回り込んできた。。


 その先輩たちの一人は門柱にぶつかり、二人は地面に投げ出され、五人は体勢は崩したがなんとか立っている。


 それにギリギリ被害を避けた先輩たちは唖然として固まってしまった。


 おい! それ上位貴族とか先輩とか抜きにして普通にダメだろ!


「いつまで握ってるつもりだ! 手を放せ間男が!」


 アーシュはリズと繋いでる手を叩き落とそうと手刀を振り落としてきた。が、なんだ? 嘘だろ? めちゃくちゃ遅いんだけど……。入学当初とはいえ、主人公だぞ? チートじゃないのか?


 困惑しながらも、リズに触れさせるつもりはないし、余裕で避けてからアーシュを睨みながら言ってやる。


「おいお前、いきなり暴力とかなに考えてんだよ!」


「何をなさるのですか! 見ていれば生徒たちに絡んで暴力をふるい、さらに、わたくしたちにまで暴力をふるうとは正気ですか!」


「いや、リズ、見てただろ? 絡まれてたのは俺で、絡んでたのがあっちな?」


「黙りなさい! それになぜ私をリズと呼ぶのですか! リズと呼んでいいのは家族と、私が認めた者たちだけですわ! あなたには本来の名前を呼ばれるのも不愉快でしかありませんわ!」


「あれ? おかしいな? お前、イルミンスール伯爵家のエリザベスだろ? だったらなんで?」


 コイツ! 呼ぶなと言った側から! リズの目からハイライト消えてるから!


「お、おいお前。まずは謝ろうか……」


「は? なんで俺が謝らなきゃならねえんだ? お前バカだろ? って黒髪黒目……あ! お前あれだろ! ドライって極悪人! ぎゃははははは! やられ役登場ってか? おーい、ここに極悪人がいますよー」


 俺の名前まで知ってるのか。違和感がなんだったのか、やっとわかった気がする。


 この原作主人公、転生者だ……。

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