第6話 兄との遭遇
ぶくぶく太り、腰に剣を携えた貴族服の二人。間違いないと思う。
キャストの方とほぼ同じ体型だし、設定通りハゲ散らかしているし……。
「ひっ、ドライ。お兄様方がいらしたわよ。わたくし、どうしてもあの方たちは苦手ですの」
「みたい、だね」
やはり兄たちで正解のようだ。リズは俺の背中に隠れるように身を重ね、肩口から覗き見てる。
歩いているだけなのに、汗をかき、脇にはシミができている。
というか、この二人、戦うことできるのか? 撮影の合間にも疑問に思っていたけど、映画のキャストはアメフトのプロだった。
それはもうめちゃくちゃ動けた。オーストラリアの海外ロケだったので、撮影の合間にビーチフラッグで対決したけど、完敗。
プールでもクロール、平泳ぎの五十メートル競泳、潜水色々やったけど、さすが全盛期のプロアスリートは運動神経がバグってた。
だけど……目の前に近付く二人は……どう見ても無理だろ。
筋肉じゃなくてぽよんぽよんだ。これじゃ剣術系のスキルがあっても役にはたちそうにない。
一応俺たちは立ち上がり出迎えることにした。
「ふひゅー。ドライ、この様なところで何をしておるのだ? ふひゅー。木剣など持ち出しおって、ふひゅー」
「ぷひゅー。兄上、見ればわかりますでしょう。エリザベスがいるので、ぷひゅー、遊び歩いていたに決まってます。ぷひゅー」
なんだよそれ! 『ふひゅー』と『ぷひゅー』で話がまったく入ってこないんですけど!
落ち着け俺。たぶん――
『こんなところで何してるのだ? 木剣持ってるから練習でもしていたのかな?』
『見た通りですね兄上。遊びではなく、エリザベスと剣術の練習をしていたのでしょう』
ってことだよな! うん。何度言葉を思い出してみてもそう言ってた。はず! だから――
「はい兄上。エリザベスと頑張ってました」
「ふひゅー。怪しい動きをしていると聞き、ふひゅー。見に来てみれば、ふひゅー。無駄足踏ませおって。ふひゅー」
「ぷひゅー。まったくです兄上。ぷひゅー。三度目の朝食を、ぷひゅー。終わらせたところであったのに、ぷひゅー。迷惑極まりない。ぷひゅー」
ふむふむ。今度は――
『怪しい人影を見たと報告があってな、見に来たのだが、お前たちなにか見たか?』
『兄上。これで三度目。早く見つけて終わらせたいものですね』
だな。
しかし侵入者がいるのか、物騒だな。確か隣国と小競り合いが続いてるのが表の設定だった。
裏設定では、クリーク辺境伯家は隣国と内密で繋がっているんだが、……クリーク辺境伯の敷地内に侵入者か、どこの者だろう。
「まぎわらしく、申し訳ありません――っ!」
と、頭を軽く下げ、気づきませんでしたと続けようとしたのに、こめかみに衝撃が走った。
「ふひゅー。一撃か。ふひゅー。弱すぎる。ふひゅー」
「ぷひゅー。まったくですっ!」
「がっ!」
二発目!? なに、何がどうなってる!?
「ぷひゅー。これでは腹ごなしにもなりませぬな兄上。ぷひゅー。そろそろ昼食前の食事ですぞ。ぷひゅー」
二度の衝撃で脳震盪なのか、倒れこんだまま起き上がることさえできない。その頭を暖かいものが包み込まれた。
リズ、か? 凄く、震えている。怖がらせて、しまった、のか……。くそ、守ると、言ったところなのに。
動けドライの身体! 今は俺の身体だろ!
まわる世界で、地面を手のひらが探し当てた。あった。ならあとは肘を伸ばして起き上がるだけだ!
こなくそ!
ガンッ!
そこで意識は遠退いた……ごめん、リズ……。
リズ…………駄目だ! 気絶なんかしてる場合じゃない!
まわる映像でもわかった。剣を鞘付きで振り上げる豚やろうが見える。その剣が俺に向かっていないことも。
まだ手のひらにあった地面の感触がありがたい。地面の位置がわかればあとは――限界まで伸ばすだけ!
ガンッ!
三度目は来るとわかっていた。だから手を伸ばした体勢で踏ん張り、剣を頭で受け止めた。
「嫌ぁああああああ! ドライ! ドライ! 死なないでドライ!」
泣かしちゃった。俺が弱いから。でも、それでも、守らなきゃならない時だドライ!
「ふひゅー。ふん。目標を見誤ったか。ふひゅー。まあよい今日はこれくらいだな。ふひゅー。死なれても別のものを探さなければならんしな。ふひゅー」
「ぷひゅー。ですね兄上。ぷひゅー。エリザベス。ぷひゅー。口答えしたお前へのお仕置きはこの無能が受けたとして許して――ぷひゅー。やるわけ無いだろ! ぷひゅー!」
「リズ!」
真後ろにいるリズに向きを変え、胸の中に引き込んで覆い被さると、背中に容赦ない剣撃が振り落とされた。
「ぐうっ! くうっ! かはっ!」
何度も、何度も。
腕の中では震えるリズ。こんなに怖がらせやがって……。この世界に来て、目標は五年後に生き残る。だったが……決めた。
こんな奴らをのさばらせておいたら駄目だ。俺にかけられた罪状はわかっている。
これまでの罪。これから五年間で犯す罪も。
だったら全部の罪を受けさせ、これからのものはすべて邪魔してぶっ潰してやる!
憧れた堺○人さんが演じた半沢○樹の言葉と役を借りよう。集中だ――――――冷静に怒れ!
――来た。
『やられたら、やり返す。倍返しだ!』