第51話 良い派閥と悪い派閥
翌朝、向かえに来たリズと共に帰っていく王様たちを見送った。
結局俺が王様にって話は誰に聞いても誤魔化すように別の話が始まって聞けてない。大丈夫だよね?
そんなに簡単な話じゃないし、今は忘れておこう。
見送りのあと、南と西の教会を巡り、ついでに孤児院も見てまわってきた。少し時間がかかったけど、お昼前に城に帰ってこれた。帰ってはきたんだけど……。
「……南は呪い無かったな」
「ありませんでしたわね。教会が運営していた二つの孤児院もありませんでしたわ」
「石像がアザゼルじゃなったもんな」
「ラファエル様とおっしゃってましたわね」
ラファエルも知ってる。完全に天使の名前だ。どういうことか聞いてみると――
『それはそれは、よく気づかれましたね。教国という一つの国ですが、大きくはアザゼル派とラファエル派に別れているのですよ。教えはそう変わらないのですがね』
――と、言うことだ。アザゼル派の方が教会の数も信者も多く一位の派閥。ラファエル派は第二位の派閥で、後は細かな派閥がいくつもあるとのこと。
それでよく教国をまとめられるもんだと不思議に思ったが、日本の政党みたいなもんだと納得しておくことにした。
「うん。ということはさ、アザゼル派の教会と、その運営する孤児院に行けばおそらく大丈夫かな?」
「そう、ですわね。一応何ヵ所かはラファエル派と他の派閥の教会も見てまわり、問題なければもうアザゼル派だけでいいと思いますわ」
『ところでドライにリズ、私はその教会巡りについていった方がいいの? それとも待っていた方がいい?』
「あっ、切り株! イス様をつれまわしていましたけど……切り株を食べていたいですわよね」
「そう、だな。イスがいると色々と助かる気がするんだけど……」
『別に切り株は逃げ隠れしないからいいわよ。あなたたちと行動すると飽きないし』
「いいの? なら一緒に行こうよ。リズもそう思うだろ?」
「ええ。これまで通りご一緒したいですわ」
『そう? なら従魔登録はしておいた方がいいかもしれないわね。今の冒険者ギルドでその登録が必要かどうかは知らないけどね』
「リズ、従魔登録とかあるのかな?」
「わかりませんわ。聞いてみるしかありませんわね」
「お帰りなさいませドライ様。ようこそおいでくださいましたエリザベス様。従魔登録はございますよ」
門番さんが話を聞いていたのか、従魔登録があると教えてくれた。それなら早めにしておいた方がいいよな。
「ありがとう。なら、帰ってきたところだけど、冒険者ギルドに行こうか」
「ですわね。そうすればずっと一緒にいられますもの」
ぎゅっとイスを抱きしめる。知ってるもの以外には、リズが自分を抱きしめてるようにしか見えないんだろうけどね。
「お役に立てて何よりです。ですがお客様がお待ちだと連絡が来ておりますので今からまたお出掛けになるのは……」
「あっ、そっか、戻ってくるんだったよ」
「待たせてはいけませんわね。どうせなら三人で行きましょう」
「だな。門番さんありがとう」
「いえいえ。城に入れば案内が待っているはずですので」
リズに手を引かれ門を離れ、ふと思う。王女が来て待ってるとは言わないんだな。所在を知られるとなにが起こるかわからないし。
ファラの兄弟姉が不穏な動きをしている感じだったから、気を付けるに越したことはない。
言われた通り城に入るとメイドさんが出迎えてくれて、そのまま案内されて来賓用の部屋に入ると、冒険者の格好をしたファラとカイラさんが待っていた。
「お帰り。クリークの街の浄化は順調に終わったみたいね」
「ただいま。まあ……順調かな。少し確認しなきゃ駄目なことはできたけど」
「ただいま戻りましたわ。クリークの街には教会が二種類ありましたの」
「二種類? ああ、アザゼル派とラファエル派のことね」
「うん。アザゼル派の教会と孤児院には呪いの石像があって、ラファエル派にはただの石像しか無かったんだよ」
「ならアザゼル派の教会だけこのリストから抜き出して回ればいいわね。カイラ、お願いできる?」
「かしこまりました。少しお時間をいただきますが、孤児院の方はありませんので、そちらも作ってきましょう」
そういって出ていくカイラさん。普通に歩いて出ていった。ミラさんみたいに消えてすぐに現れることはない、普通のメイドのようだ。
「それじゃあさ、待ち時間で冒険者ギルドに行かない?」
「わたくしもカイラも登録だけはしてあるよ?」
「ちょっと従魔登録しようと思ってね。紹介するけど驚かないでね。イス」
リズの首もとからにゅるんと出てきてなぜか俺の頭の上に乗るイス。
「まあ! スライム! ドライ、あなたテイマーのスキルも持っているの!?」
「ううん、テイマーは持ってないけど、ちょっとしたことで仲良くなってね」
「イス様はかの勇者様の従魔でもあったインフィニティスライムのイス様ですの」
「え? あの勇者物語の?」
『そうよ。ユートの従魔だったわ』
「……わたくし、とんでもない方の婚約者になったのね。ふふ、イス様、ドライの第二婦人予定で婚約者のファラフェル・フォン・グリフィンと申します。ファラとお呼びください」
『知ってるわよファラ。あの切り株広場に私もいたんだから。これからよろしくね』
「……あれ? これって念話?」
「うん。念話だね。ファラのステータスにも念話がついたから今覚えたみたいだな」
「…………はぁ。こんな貴重なスキルが私に」
超越者の仕業だけどね。
「これで内緒話もできるし、凄く便利だよな」
「ですわね。それではイス様の従魔登録に行きましょう」
「それはカイラが帰ってきてからにしない? 今回の教会巡りはカイラが私付きのメイドと護衛になるから四人じゃないと、ね」
それもそうか。よく考えたら王女が護衛も無しでふらふらと出歩くのっておかしいもんな。
というか俺たちも一応貴族の子供だから護衛がついてもおかしくない身分……。
この教会の騒動が終わったら、修行の再開しなきゃな。街を歩くくらいなら護衛が必要ないくらいに。
早めの昼食を食べ、帰ってきたカイラさんと冒険者ギルドについたのは、ギルドの食堂が冒険者たちでいっぱいになる時間だった。
「従魔の登録をしたいのですが」
「はい。見当たりませんが……魔物はつれてきていますか?」
「はい。イス」
みにょ~んとリズの胸元からまた俺の頭の上に移動してきたイス。
「あら、スライムですね。では登録する方のギルドカードを――」
「ギャハハハ! コイツ、スライムなんか従魔にしてっぞ!」
あ……テンプ――