第44話 孤児院
使用人用の屋敷で、熱を出し寝ていた人を鑑定で調べると、使用人さんの熱もやはり呪いだった。
速攻で浄化ポーションを飲んでもらい、状態異常を消せたんだけど、これで熱病の呪いが流行り始めている可能性が現実味をおびてきた。
クリーク辺境伯家の領地すべてをまずは調べてもらわないと駄目だ。
足掛かりとしてここ、クリークの街からだけど、すぐに治していることは気付かれるだろうな。
「ふむ。呪い、であるか……何を触媒として呪いをかけてるのであろうな」
「そうでございますね。現状エリザベス様のお母様と、クリーク家の使用人が被害者ではありますが、あまりにも接点がありませんので推測もできません」
「わかることはクリーク辺境伯領だけでなく、イルミンスール伯爵妃も、熱病の呪いが発現している事実だけですもんね」
「あ、あの、私の熱が呪い? どうして私のようなものが……」
顔色が良くなった使用人さんは、ベッドからおりて、今度は心配そうな表情に変わった。
ただの熱だと思っていたのに、実は呪いでしたと言われたらそりゃ心配にもなるよな……。
「そうだ、熱が出たのはいつから?」
「三日前でしょうか、休んだ日から調子悪くなりました。休んだ日の次の日は頑張ったのですが、あまりにも熱が上がってきたので」
「三日前の休日、ですか……」
「はい。孤児院の炊き出しの手伝いに行ったので、その疲れで熱が出たものだと」
「孤児院?」
「はい。私は孤児院の出なので、休みの日はよく手伝いに行ってます」
「あ、そういえばお母様も孤児院に行った次の日から、起きあがれないほどの熱が出たのでしたわ」
「そうだったんだ……でもこれで繋がりますね」
「うむ。共通点が孤児院であるか。ならばそこをまず調べるのが良かろうな、孤児院はほぼすべての街や村にあったはずだ」
「ええ。それに孤児院は……」
「で、あるな。よし。お前は今日一日様子見で休むが良かろう」
言葉を濁したってことは、孤児院は教会が関わってるってことか。
「は、はい。治療していただきありがとうございました」
部屋を出て話をするために俺の部屋に移動する。
そして部屋に入る前、地下へ続く階段のところから、何か気付いているみたいに首をかしげていた。
階段も魔法陣で快適仕様にしてるからね、ホコリ一つ落ちていないし、カビが生えていたのも無くなりキレイなもんだ。
「階段からおかしいとは思っていたが……なんだこの部屋は……地下だというのにジメジメした感じがないのである」
「これは……魔法陣。ドライ様、もしかして魔法陣が書けるのでしょうか?」
「その通りですわ。ドライは優秀ですもの」
「はい、もし必要な魔法陣があれば書きますよ、それと魔法陣の本とかあれば嬉しいんですけど」
「魔法陣であるか……ドライ、後で色々と頼むことになるであろうから、魔法陣の書物も手配しておこう」
「わかりました。で、孤児院はやっぱり教会が絡んでるんでしょ?」
「うむ。先ほどの使用人が行ったという孤児院は教会が運営しておる」
「リズのお母さんが行った孤児院はどうなの?」
「教会ですわね。お母様が行ったところは、教会の敷地内にある孤児院でしたもの」
「なら、僕たちでその孤児院を見てきますよ。怪しそうな物を片っ端から鑑定すれば、何で呪いがかかったのかわかるかもしれませんしね」
「ですわね、私たちの今の格好でしたら冒険者にしか見えませんもの」
「ふむ。危険ではあるが、ドライの鑑定が頼みの綱。すまぬが頼む」
「ドライ様、孤児院に行くのでしたら、寄付金を持っていくと怪しまれません。ですので――銅貨が百枚、銀貨一枚分もあればいいでしょう」
ミラさんが小さな机の上に銅貨をストレージから出してくれた。
「冒険者でしたらこの程度の寄付はできると思いますので」
「ありがとう。このお金は今度返すから今は借りておくね。よし。ならさっそく行こうかリズ」
「行きましょう。うふふふ、教会の悪事を潰してやりますわ!」
教えてもらった孤児院に到着したんだけど……。
「お兄ちゃんたち冒険者なんだ! すげー!」
「ねえねえ、僕も冒険者になれるかな?」
「その剣本物だろ? スパッて魔物も切れちゃうんだよね?」
「ま、魔法は使えるんですか? わたし、魔法使いになりたいんです」
「俺も魔法バンバン魔物をやっつけたい!」
「お願い! 俺たちに剣と魔法教えてよ!」
敷地に入った途端に子供たちに囲まれた。十歳の俺たちより小さな子たちばかりだ。
孤児院は十歳までに文字と計算を教えてくれるらしく、冒険者になった時に役立つそうだ。
そうだよな、依頼書が読め、報酬額がわかれば請けやすいしな。
「わ、わかったから、教えてもいいけど、先に寄付金を渡しに行かせてね」
「おお! みんな聞いたか! 先生のところに案内するぞ!」
「おお!」「やったー!」「こっちこっち!」
と、大騒ぎだ。将来、冒険者になってダンジョンや魔の森での討伐や採取をしてくれるようになればクリーク辺境伯領の発展にも繋がる。
俺たちも教えられるほどの実力はないけど、少しでも怪我や命を失ったりしないよう簡単なことくらいは教えられると思うしな。
それに、チラっと鑑定したけど、色々とスキルを持っている子もいたし、期待大だ。
子供たちに案内され、孤児院に入ると真っ白なローブを着た男性がいた。
「先生! この人たちが寄付したいんだってさ」