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第40話 当然のごとく

「――っと、これが低級から上級までの回復ポーションの材料だ。どうだ? 簡単だろ。ならひとつ挑戦してみろ」


 ポートマンさんはそう言うと小さな中華鍋を二つ棚から取り出し、猫じゃらしそっくりな薬草一束とあわせて俺たちの前に置いてくれる。


「さあやってみな。錬金術のスキルを持っていようが最初は誰でも失敗する。持ってなくてもやってるうちにスキルに覚醒するヤツもいるから何事も挑戦だ」


 そう言ってバケツサイズの小樽に入った水を持ってきてくれた。


「わかりました。リズ、やってみよう」


「ですわね。まずはお水ですわ、どれだけ入れればよろしくて?」


「薬草一束に対してこのカップ一杯だ。この街にもある錬金術ギルドがあった隣の店に行けば一本用から十、五十、百本用ってのが売ってるぜ。家で練習するなら買って帰りな。まだ売れ残ってるか、取り寄せもできるはずだからよ」


「わかりました」


 だいたい100ccくらいか? まあ怪我して一気飲みするならあまり多くても困るしな。


 小樽から水を掬い自分の前にある鍋に水をそそぎ、薬草一束、十本あった。それを放り込み、魔力を手のひらに集めていく。


 リズも俺にならって準備完了だ。魔力が集まり手が光はじめる。ポートマンさんはそれを見て――


「いいぞ! そこで『錬金』とスキルを唱えながら魔力をグワーって鍋にそそぎ入れろ! 薬草が溶けきるまでグワーだ」


 ――気合いの入った声に背中を押されて俺たちは同時に声を出し、ポートマンさんが言う『グワー』とイメージして魔力をそそぎ始めた。


 リズの胸からイスが『二人とも気合よ! ぐわーよ!』と言って応援してくれてる。


「「錬金!」」


 するとどうだ、みるみるうちに薬草が水に溶け始める。


「は?」


 ポートマンさんが変な声を出したけど、今は集中だ。


 緑色になっていく鍋の中の水。たぶん三十秒もしないうちに薬草が無くなり、さっきポートマンさんが作った低級回復ポーションと同じ色に変わった。


 リズは――よし、同じだ。鑑定……おお、ちゃんと低級回復ポーションになってる。


 思ったより簡単だったけど、効率は良くないよな。ポートマンさん以外の錬金術師がいないとなると、大量生産は厳しい。


 何とかしなきゃだよな……それを邪魔してるのが俺の悪名ってのが難点過ぎるよ……。


「できましたわね。ポートマン様、出来はいかがですか?」


「………………お前ら、天才か? それとも俺を騙して実は錬金術師だったってことなのか?」


 俺たちの前で固まってるポートマンさんがそんなことを言う。


 超越者の効果だと思うけど、そんなことを知らないポートマンさんには驚くべきことなんだな。そういえば誰でも失敗するって言ってたし。


「錬金術は見たのも挑戦したのも初めてでしてよ」


「俺も初めてだ。ポートマンさんの教え方が上手いからじゃないかな」


「そ、そうなのか? 同期の奴らには『お前は教え方が下手だ』と言われていたんだが……」


 あ、うん。説明はアバウト過ぎだからかな。最初は『グワー』ってなんだよ! と思ったけど、やったらできたしそこはオッケーとしておこう。


 だけど俺とリズはたまたま上手くいっただけで、通常ならそう言われるのもわかる気がする。ポートマンさんは感覚派みたいだしね。


「しかし一回目で成功させたなんて聞いたこともねえぞ。お前らは錬金術の申し子かもしれねえな」


「申し子だなんて大袈裟ですわ」


「だな。たまたまですよ、たまたま」


「そうなのか? いや、ほうほう、ん? これは……う~ん、出来映えは完璧だ。こりゃ低級回復ポーションに関しては、もう俺が教えられることはねえみてえだな」


 俺たちの鍋を覗き込み、匂いを嗅いだり、小さなスプーンみたいなもので味見したり、透明なガラスの小瓶を取り出して移し入れて色を確認してそう言った。


 鑑定でわかっていたけど、錬金術師本人に認定されるとやっぱり嬉しいな。


 それに当初の目的も達成できた。瓶詰めされた低級回復ポーションを渡してもらい、浄化をかけたくなったけど、ポートマンさんの前では止めておこう。


「ありがとうございます。低級があればいざというとき心強いですからね」


 冒険者として、これからダンジョンなんかでレベルを上げていこうと思ってる。


 聖魔法はなるべく見せないようにしないと駄目だから、ポーションは必要だったのが買わなくてすむ。あ、毒消しとかもあった方がいいか。


「ポートマンさん、毒消しなんかも同じ作り方なんですか? 俺たち冒険者だからあると助かるんですけど」


「毒消しか? 今は素材がねえな、あんまり必要なもんでもないだろ? なんせクリークの街にあるダンジョンにも魔の森にも毒を使ってくる魔物はポイズントード以外ほとんどいないってことだからな」


「そうなんだ、知らなかったです」


「まあ毒消しもだが、状態異常を治すポーションは基本で覚えておきたいからな、近いうちに仕入れておこう、そうだな、今から注文しておけば明日には届くか……お前ら、今日は終いだ、明日も今日くらいに来い、用意しておいてやる」


「あ、ありがとうございます」


「おう、じゃあ俺はちと冒険者ギルドに素材採取の依頼を出してくるぜ! お前らは勝手に帰ってろよ、じゃあまた明日な!」


「え? あの? ……ええ~行っちゃったよ」


「行っちゃいましたわね。ところでドライ、浄化ポーションはこの低級回復ポーションを浄化すれば作れるのですわよね?」


「ミラさんはそう言ってたね、やってみようか」


「やりましょう! せーのでやりますわよ?」


「うん。行くよ――」


「「せーの!」」


「「浄化!」」


 結果、俺とリズの持っていた低級回復ポーションが透き通る緑色に変化して、浄化ポーションができた。


 そこでリズのお母さんに飲ませようって、イルミンスール伯爵家の別荘、こじんまりしたお屋敷にお邪魔することにした。

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