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第38話 当初の予定を忘れてたけど

くしゃいれすわ(臭いですわ)


「何かの薬品の匂いだろうね」


 鼻を摘まみたくなるほどの青臭さや、表現のしようの無い臭い、鼻の奥にツンっとくるものもあれば、腐ってるんじゃないのかと疑ってしまいたくなる臭いまでまざりあって酷い匂いが充満している。


 だけど部屋の中は整然としていて汚れすら見当たらない。おそらくアレだな。


 釜でなにかを煮出しているのか、鍋から紫の煙が出ている。


 その前でポートマンさんが真剣な顔でその鍋から伸びる木ベラを手にしていた。


 錬金術に使う薬品の匂いか――


「ああ! 俺の飯が腐敗してる! くっそー! 教会の奴らが来たからだ! あ、ああ……滅多に手に入らない()材だったのに!」


「「食べ物の匂いなんかい!(ですの!?)」」


 聞くと火加減が難しく、失敗するとこんな匂いになるそうだ。


 ……失敗していない時でも食べるのに勇気が要りそうな食材だな……後で聞いて買ったりしないように気を付けよう。


 鍋は中身が捨てられ、サッと洗ったあと生活魔法のクリーニングを使い、不快な臭いの元は綺麗に無くなった。


「くそ、あとは換気しねえとな。魔法陣まだ動いたか、なっと」


 ブオッ……ブォオオオとちょっと一瞬止まったけど、壁に貼ってあった換気の魔法陣が唸りをあげ、動き出した。


「うるさい魔法陣ですわね……」


「うん、調子悪そうだよな、ほら、あの端のところが破れてるからじゃないかな」


「なんだ、魔法陣わかるのか? そうなんだよ、昨日掃除している時にな、ちょいと引っかけちまったんだ。ま、なんとか動いてくれっから大丈夫っ!」


 ボフン!


「きゃっ!」


「うおっ!」


 壁の魔法陣が大きな音を立てて爆発した。ハラハラと部屋中に舞い飛んだ魔法陣だったものが綺麗な部屋の床に降りそそいだ。


「やっぱ駄目だったか。あははははは!」


 大笑いするポートマンさんだけど、こっちはマジでビビったよ! リズも俺にぎゅっとしがみついてるし。


「……はははっと。くそ、魔法陣高いってのに」


 高いんだ。


「ドライ、ドライが作って差し上げればよろしいのではなくて?」


 俺の胸に顔をうずめながら、『すんすん』と匂いを嗅いでるリズからこもった声でそんな提案が飛んでくる。


 俺の部屋は壁に直接書いたんだよな。ギルドの解体場も直接書かれていたし。


「そうだな、このまま臭い中で話しはしたくないしね。ポートマンさん、魔法陣、よければ俺が書きますよ」


「なに! お前魔法陣が書けるって、錬金術を習いに来たんじゃないのか?」


「いえ、錬金術は錬金術で凄く興味があるので見させて欲しいんですけど、魔法陣は自分用に覚えたんですよ」


「ですの。地下のお部屋なのに凄く快適になりましたのよ」


 そう。地下なお陰で気温が一定なのだ。暑くもなく寒くもない。湿気が一番の大敵だったんだが、魔法陣が解決してしまった。


 だから城に住めと言われたけど移動する気は今のところ無い。それに修行ができる切り株広場にも近いしな。


「あははははは! そりゃいい。自分のためと好きなものためならなんでも覚えられるってもんだ。才能があればだがよ」


 うんうんとうなずいたあと、また豪快に笑うポートマンさん。


「なら頼めるか? 紙は、あったかな……んで、いくらだ?」


「壁に直接書いていいならすぐですよ? 紙だとまた破けちゃったりするかもですし、お金は見学料ってことで」


「何っ! 直接でいいのか! 魔法陣屋に頼んだらめちゃくちゃ高くつくんだぞ? 紙でも結構な金とられるってのに? ただで?」


「はい。なので書いちゃいますね」


 魔法陣が貼られていたところに引っ付いたリズごと移動して、壁に手を伸ばす。


 あとは指先に魔力を集中させて、換気の魔法陣を魔力で書いていく。


「ほう。見事なもんだ、その歳でその魔力操作は大したもんだぞ。俺がお前くらいの時にはそこまでできなかったぞ」


「そうなんですか? リズも一緒くらい魔力操作できるからいいことですよね?」


「ああ、錬金術も魔力操作が上手くねえと駄目なもんしかできねえからな、そっちの嬢ちゃんも、このレベルで魔力操作ができるってことなら将来は錬金術で食っていけるぞ」


 へえ、そうなんだ。でもポーションが作れるようになるんならそうかもしれないな。怪我や病気は避けようとしても全部避けられるものでもないし。


 そんなことを言ってるうちに魔法陣は完成した。ついでだから起動させてみる。


 フヒューンと起動音が鳴った後は耳をすまさないと聞こえない程度の運転音しかしない。


「マジかよ……ここまで静かな換気の魔法陣なんて見たことも聞いたこともねえぞ……」


「ですわよね。ギルドの換気魔法陣もブブブブって言ってましたもの。それなのにドライのお部屋は音がしなくてわたくしも驚きました」


「そうなの? でも静かな方がいいだろ?」


「その通りですわ、床に書いたクリーニングの魔法陣も規格外ですのよ? 部屋の角に書いてありますのに、床一面がピカピカになりましたもの」


「す、すげーなお前、魔法陣屋で大成できるぞ、ゆ、床も頼めるか?」


 そうなのか、でも練習で何も考えずに書いた狩猟小屋の換気魔法陣は音がしてたよな。


 そういえば……うるさくないように静音タイプの換気扇のイメージで魔法陣を書くと静かになってたな。魔方陣は書く人のイメージで変わるのかもしれない。


「いいですよ、場所はどこでも大丈夫ですか? あ、そこですね――」


 そうやってポートマン宅のすべての部屋に魔法陣を書いてから思い出した。


 そういや錬金術を見に来たんだよな……それなのに何やってるんだよ俺たち……。

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