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第37話 謎の錬金術師

「帰れ! 何度も断ってるだろ!」


「そういわずに、おとなしくポーション作りをしておいた方が身のためですよ?」


「なんだよそれは! 脅そうってのか! 何を言われようと貴様ら教会のために作るものなどあってもゴミくらいだ! わかったらさっさと帰りやがれ!」


 うん。しっかりトラブルみたいだ。それも教会と。ポーションって言ってるからあの人が錬金術師さんみたいなので、ここは助けに入るのがいいだろう。


 それにしても……錬金術師さんの声、若いな。俺たちと一緒くらいか? それに、あれだけボッタクリーノ商会で大捕り物を繰り広げたのに、教会にはガイツとインが捕まったこと知らないんだろうか。


 それとも……商会の従業員と同じように知らされてないだけかもしれないのか。


 あ、錬金術師さんの方がしびれを切らして殴り掛かりそうだ。よくわからないけど先に手を出すのは駄目だよな。


「リズ、止めるよ」


「はいですわ! そこのあなた、お待ちなさいな! 暴力はいけませんのよ!」


 いや、そう止めるのね……。まあいいか。リズの声にビクリと錬金術師さんも、教会の人も止まってくれたし。


 十メートルほどの距離を早足で詰めて両者の間に滑り込む。当然錬金術師さんも、教会の二人も『誰だこいつ?』って目で見てきたけど、暴力沙汰は止められたようだ。


「……誰だ? お前たちはスラムで見たことないが、その身なりを見ると迷い込んだか?」


 錬金術師さんは俺たちを頭のてっぺんから足の先まで見てそう言ってきた。


「悪いことは言わねえ、スラムは危険も多い、用事がないなら子供は出て行った方がいいぞ」


 そういう錬金術師さんも、近づいてわかったけど、ぶかぶかのローブで体型はわからないし、顔や髪の毛なんかはフードを目深にかぶっていて隠れていて子供だと思うけど、言ってることは大人な感じだし……よくわからないけど、ここは引くわけにはいかない。


「用事はあるんだ。錬金術師さんに少し、ね。ところで何か言い争っていたけど、何かあったのですか?」


「俺に子供が用事? お前たちのお小遣いで買えそうなもんって言ったらそうはないんだが……」


「君たち、私たちが先にこちらのポートマンと重要な話をしていたのです、どうせくだらない話を持ってきただけでしょう。子供はおとなしく去りなさい。言うことをきかないのでしたら……」


「聞かなかった――」


「あら、わたくしたちも脅してきますのね。では自己紹介をしてあげますわ。教会の方とお見受けします。わたくしはイルミンスール伯爵家、エリザベス・フォン・イルミンスールと申します。それに、こちらは――」


 見下すような表情口調で脅してきたので少し言い返そうとしたら、リズが貴族と名乗りを上げた。その途端、顔が引きつり青ざめる。


 それを聞いた錬金術師のポートマンさんもだ。当然のこと、同じように青ざめ固まってしまった。


 冒険者の格好だし、貴族とは夢にも思わなかっただろうしな。


 でも、俺はここで名乗らない方がいい。クリークの街どころか王国中で悪い噂になってるし。話がややこしくなりそうだもんな。


「リズ、俺はいいよ。教会の方、貴族として今日は錬金術師のポートマンさんに会いに来てます。くだらなくはないですよ」


 そこまで言うと分が悪いと感じとったのか――


「私どもは急用を思い出しましたので、失礼いたします!」


 ――そう言って離れ、人ごみの中に消えていった。


 教会の人は行っちゃったけど、俺たちだけになったのにポートマンさんは固まったままだ。このまま放っておくわけにもいかないし、話しかけることにしよう。


「はじめまして、俺はドライ。ポートマンさんでよかったよね? 今日はお願いがあって来させてもらいました。えっと、貴族といってもそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」


「ドライの言う通りですわ。ただの子供として扱っていただいて大丈夫ですわよ。だって今日は錬金術に興味がございまして、クリークの街でこちらに工房があると聞き、見学に来ましたの」


 リズも安心させるように、教会の人たちに対してしていたキリッとした表情ではなく、柔らかい笑顔で話しかけている。


「そ、そうなのか? 後で不敬罪とか言わないでくれよ、スラム育ちだからよ、丁寧な喋り方とか無理だからな」


「うん。その喋り方で全然いいよ。それで、リズが言ったように俺たちは錬金術を見せてほしいんだ。駄目かな?」


「いや、見せるのは構わねえが、面白いもんでもないぞ? やるにしてもスキルがねえと無理だし覚えようとしても、一朝一夕じゃ……おい、まさかお前ら持ってるのか! それなら弟子入りってことか! ひゃっほーい! 俺に弟子ができるってのか! かれこれ二百年は生きてるってのに初めてだぞ! わかった! ここじゃなんだ、工房で話そうじゃねえか! そうか、俺に弟子が! あははははははは!」


 二百年? あれ? ものすごく子供の見た目なのに? ……もしかするとローブの下はお年寄りだったの!


「ほらほらこっちだ、入ってくれ!」


 バン! と勢いよく扉を開け、石造りの家に入って行ってしまった。


「行っちゃいましたわね」


「行っちゃったな……ま、まあ招き入れてくれるんだし、弟子は置いておいて、行こうか」


 盛大に勘違いしたまま、謎なポートマンについて行くことにした。

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