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第36話 スラムに潜入

 ボッタクリーノ商会から押収したものに、教会、教国についてはたいしたことは出てこなかった。


 期待はしていなかったけど、普通の取引についてだけだったから、拍子抜けもいいところだ。


 続いてメインの二人なんだけど……ちょっとどころか、ヒクくらい激しい詰問、暴力込み……もうアレは拷問だね。


 そんな感じで問い詰めても、ガイツも、インも口を割らなかったのだ。俺があそこまでやられたら黒歴史のひとつや二つは確実に喋ってたな。


 特に傷口をえぐるヤツ――っ! 今思い出してもゾワゾワって来るぞ! ガイツは……駄目だ、ひゅんってなる……。


 夢に出てきて寝坊した今朝、またやるんだろうなと、少し同情していたら、二人は取り調べ初日の夜に殺されていた。その時見張っていた兵士と共に。


 殺されなかった他の従業員にしても、ほぼなにも聞かされていなかったとしか思えない情報しか手に入っていないし、難航しそうだと兄さんたちは言っていた。


 今このときも、拷問されてる従業員は殺すまでもないってことだろう。本当に知らなければ口を割る心配もないんだし。


 そうそう、まったく教国関係の情報が手に入らなかったといっても、分かったことはある。


 クリーク家の寄子貴族がやっていた不正が大量に炙り出されたから、今後のクリーク辺境伯領にとってはプラスにはなったようだ。


 それで、今朝、早馬を走らせ、不正寄子貴族を含め、すべての寄子貴族の当主を呼び出したって言ってた。


 不正してない貴族当主にしたらいい迷惑だよな。……ん? いや、もしかしたら寄子貴族の中でも順位があるだろうから、良い思いをする人もいるかもね。


 バタバタするクリーク家の面々をよそに、三男の俺は蚊帳の外だ。変に役割を与えられても、困るんだけどね。


 なのでミラさんに教えてもらった浄化ポーションを作る時間ができた。そして錬金術師を訪ねるためにクリークの街にあるスラムに入る門までやって来たんだけど……。


「これでスラムの入口なのですわよね? 人がいっぱいいますわ」


「うん。想像していたスラムじゃないよな」


 想像していたスラムは、人が道端に力なく座っていたり、ガリガリに痩せ細った子供たちがいたり、ガラの悪い人たちがいるイメージだった。


 スラムじゃない街中以上の、いや、こっちのスラムの方が人が多いんじゃないかと思えるほどの人がごった返している。


 後ろを振り向くと、スラムじゃない街並みの人通りはパラパラだ……。開きっぱなしの門の向こうとこっちでは別世界と言える。


「思っていましたの。クリークの街は思ったより人が少ないんだと。でも間違いだったようですわね」


「……でもこれってまずいよな。税を納められない人が集まるって聞いたけどこれは……」


 重税につぐ重税で……まあ、俺の散財ってことになってるんだけど、これじゃあ近い内にクリーク辺境伯領は破綻してたんじゃないのか?


 まさか破綻しそうだから隣国に売ろうとした? ……可能性はあるか。


 国境ある中洲の村同士が毎年やってるお祭り的小競り合いを、戦争と王国中央に進言して、援助金を引き出し、さらに領地を売り渡そうとしたんだもんな。


 それで物語の俺は王都の学園に入ってすぐに冤罪でギロチンだった。


「これは……税を下げなきゃ駄目だろ、そのうちスラムの許容量を越えちゃうし、錬金術師に会ったあとに言っておかないとな」


「ですわね。きゃ」


「リズ大丈夫?」


 リズが人とぶつかりそうだったから、肩に手をまわして引き寄せる。


 どこぞのスクランブル交差点かって人の多さは本当にまずいと思う。これだけの人が働けてないんだもんな。


「大丈夫ですわ。あ、離さなくてもこのまま肩を抱いたままで大丈夫ってことですわよ?」


「そ、そうなの? でもこのままは咄嗟に動けないかもしれないから、手を繋いで行こうか、はぐれると大変だしね」


「はいですわ」


 俺たちは門をくぐり、スラムに入る。人の間を縫うように進んでいくと、目印の銅像があった。クリーク辺境伯家の初代の銅像だ。


 足元から胸あたりまである長い剣の柄頭に両手を重ねて支えているポーズのイケメンの銅像だ。


 なんでそんな銅像がスラムにあるのか疑問だけど、壊されたり傷つけられることもなく、堂々と立っている。


「ドライに少し似ていますわ。将来はドライもきっと銅像になるような偉業を成し遂げますでしょうから、その時までにわたくしが格好いいポーズを考えておきますわね」


「あ、ありがとう。でも俺は銅像とかはいいかな、クリーク家の当主になるわけでもないしさ」


「むー、でも考えておきますわ。きっと崇め奉られますもの」


 ぷーっとほっぺたを膨らませるリズ。うん。可愛い。


『本当にあなたたち面白いわね。切り株を我慢してついてきて良かったわ。ほら、この銅像を右に曲がるんでしょ?』


「「あ」」


 そうだった。錬金術師な会いに来たのにこんなところで銅像見てる場合じゃないよな。


『イスありがとう、立派な銅像だから思わず見いって完全にそのこと忘れてたよ』


『そうでしたわ。錬金術師様に浄化ポーションの作り方を聞いて、たくさん作れば聖魔法の修行になりますもの、急ぎましょう!』


 それも目的のひとつだ。聖魔法のリカバリーを覚えるために使いまくる予定だからな。


 どんどん人の流れを追い越しすれ違い、木造の建物の中でひときわ目立つ石造りの小さな家にたどり着いた。


「あれ、だよね……変な白い人たちがいるけど」


 錬金術は火を使ったり、いろんな薬品なども使うので燃えたり腐ったりしないように石造り工房でないとやっちゃ駄目だってミラさんから聞いた。


「そう、思いますわ……あの白い服は教会の方ですわね」


 そう、家の前で一人のローブを羽織った人を取り囲んでいる、リズが言う教会の人たちがいた。


「帰れ! 何度も断ってるだろ!」


 何かもめてるみたいです。

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