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第35話 上前をハネよう

「ウギギガガガガガ――」


「……えっと、なんというか……ごめんね」


 刺された太ももではなく、股間を押さえ、泡を吹いてるガイツに、聞こえてないだろうけど謝っておく。


「ドライやりましたわね! 勝つと信じていましたわ! それより本当にお怪我は大丈夫ですの?」


「うん。もうほぼ治ってるからね、ほら」


 ぐるぐると腕を回して見せる。自己再生が優秀で助かったよ。


「お見事ですドライ様」


「うむ。突き刺しが有効な武器を切る動作へ変えさせ、軌道の読みやすくなった攻撃を掻い潜るとは見事であるが……本当に怪我が治ったのであるか?」


「ありがとうございます。はい、こんな感じです。もう治ってますよってインの方は?」


 襟首を開いて刺された肩を見せるとミラさんもツヴァイ兄さんと同じように目を見開いて驚いている。


「血だらけですわ、拭いて差し上げますね」


『私が綺麗にしてもいいわよ? それか生活魔法でも一緒だけどね~』


 そう言ってめくった左肩と、口元をリズが拭き取り、まだ隠れたままの右肩をイスが胸元から出てきてくっつき、一瞬で吸い取ってくれた。


 生活魔法を使う間もなかったな。拭き残しと服までイスが綺麗にしてくれたし。


「なんと……傷痕すらないとは」


「これは……見たことの無いスキル、でしょうか」


「ん~、それは内緒ってことで」


 自己再生は内緒にしておくことにした。まわりに人がいて、聞かれて広まるとマズそうだしな。


 それに今回のように、油断も誘えそうだし。まあ何度も痛い目にはあいたくはないんだけどね。


 というか、自己再生が無ければ今ここに転がっていたのは間違いなく俺だっただろうな。


 まわりにいた商会の従業員たちは諦めたのか、どんどん無抵抗のまま騎士に取り押さえられていく。


 その中で、一人、どこかで見たような姿のインが倒れてました。


 あ忘れてた……ってこれは……同じパターンか。俺の血を綺麗にしてから、どこに行ったかと思ってたら……。


『ドライ、コイツも口の中に毒が仕込まれていたわよ』


 手足が無くなり、切り口を火であぶられ止血されたインの顔に被さったイス。


「毒見つけてくれたんだ、ありがとうイス。でも、そろそろ……」


 インはゲヒルンを監視していたベオと同じように息ができないためだろう、ビクンビクンと痙攣していた。


『そうだったわね、リズ、戻るわよ』


「はいですわ! イス様こちらへ!」


 リズが手を広げたところにイスがぴょんぴょんと飛び跳ねて胸に飛び込み、にゅるんと定位置についた。


 のたうち回るガイツをロープでミラさんが拘束して間も無く、商会の積み込みをしていたものや、商会の中にいたものたち全員の捕縛が終る。


「ここにいるものたちの捕縛が終わりました」


「うむ。全て城の地下へ送り、取り調べと、ここにいなかったものの捕縛を急げ」


「承知いたしました。あと、商会の荷物になったものたちは……」


「そうであるな。身元を調べておくように。家族への報告もあるのでな」


「はい。あと、商会の物資も差し押さえておきます」


「うむ。不正の帳簿などがあるやも知れん、慎重に取り扱うのだ」


「はっ!」


 騎士の一人が捕縛作戦終了の報告をしてきて、この後の動きを指示したツヴァイ兄さん。とりあえずのところはこれで終わりになりそうだ。


 問題はインも、教国のものだったこと。


「ツヴァイ様。このものは教国の暗部のようです。以前この刺青と同じものを彫ったものたちと少々あったもので間違いないかと」


「ふむ。ベオといい、こやつといい、教国が絡んでおるのとは難儀であるな」


「はい。今回の件、背後が教国であるなら、クリーク辺境伯家だけでは、現状、分が悪いと言わざるを得ません」


 教国が運営している教会。いや、教会が大きくなって国にまでなったそうだけど、この教会っていうのがほぼどこの国にもあるってことだ。


 当然のようにクリーク辺境伯領にもある。それもほぼすべての町に。


 辺境伯という権力で教会を排除できるのか、と言えばそれも難しい。教会は回復系の魔法をほぼ独占しているからだ。


 前世のように医療も発達していない中で、怪我や病気になってしまったら、教会の回復魔法に頼るしかない。


 回復ポーションなるものもあるようだけど、高価で、一部のものたちしか手が出ない状況だ。


 その一部が貴族や裕福な層のものたちと、冒険者でも自分で見つけたり、稼げる高ランクのものたちだけ。


 ポーションで思い出したけど、原作が始まる数年前に流行り病の熱病が大陸全土に広まったとかあったよな。


 教国がその時、浄化ポーションを大量に放出して熱病の終息に力を貸したってあった……。


 これは……なんとか教国の力を借りずに自分達でクリアしたいよな。浄化ポーションか……ん?


 そういえばリズのお母さんは高熱も出てるって言ってたよな……ということは! 熱病が流行り出す前触れの可能性があるぞ!


『ドライが止まってるわね』


『きっと素晴らしいことを考えているのですわ。真剣に考え込む横顔も素敵ですわー』


 ボッタクリーノ商会にも浄化ポーションが売ってたかもだよな……。


 そしてそれを自分達で作れればいいんじゃないか?


 それに辺境伯って権力を使いまくれば王国内どころか大陸全土に売り出すことも可能だよね?


「ツヴァイ兄さん、浄化ポーションというの知ってますか?」


「浄化ポーションなら城にも何本かあるはずであるが」


 よし、城にあるならわざわざ探さなくてもいいな。いや、商会にもあればそれも手に入れておきたい。


 いっそのことクリーク家で作ったりはできないのかな?


「……それの作り方とかわかりますか?」


「作り方でございましたら、わたくしが知っております。ドライ様とエリザベス様は聖魔法をお使いになりますので、あとは錬金術師を雇えれば作れるはずです」


「おお! 錬金術師ですか、クリークにいるのかな?」


「うむ。確かおったと記憶している」


 よしよし。原作開始前にこれはやっておきたい。


 熱病の功績で力が強くなるだろう教国を出し抜ければ、教会を排除できる一手になるかもしれない。


 こっちはここまでやられたんだ。上前ハネるくらいはいいよね。

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