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第32話 商会へ

 ボッタクリーノ商会へ向かう馬車の中、お尻が痛いと思いながら少し前のことを考えている。


 結局()()に精神支配の魔道具をつけられていた者はいなかった。


 父親ももれなく洗脳されていたんだけど、辺境を預かり、騎士団を率いて魔の森に行っていたお陰か、ムキムキだった。まあ――


『なんだこの身体は! 私の理想ではないか!』


 ――と、喜んでいた……。洗脳される前は、筋肉がつかない体質だったようで、細身のまま武技やその軽い身体で速さを駆使して王国でも屈指の強者だったそうだ。


 だがゲヒルンの作戦がある意味功を奏した形になった。たくさん食べさせて肥らせる予定が、ついた脂肪を燃やしまくった父親は体質が変わったみたい。


 うん。良かったね……。今回のクリーク家洗脳騒動で唯一得したのが父親なのかもしれない。


 あと、ちゃんと謝ってくれた。跪いて目線を合わせ、最後は頭まで下げたのだ。


『今まで本当に済まなかった。謝って許されることではないが、この通りだ』


 洗脳されていたわけだけど、辺境伯という身分で通常跪くのは王様と公爵様だけだ。それなのに身内の末っ子である俺に跪き頭を下げるなんてあり得ない。


 俺が転生してくる前のドライのままならどうだっただろうか……まあ俺は兄さんたちに一度だけ理不尽な暴力は受けた。


 だけど、父親はどうなんだと言われれば初対面だし、使用人の屋敷の牢屋に放り込まれていただけだ。


 元のドライには悪いとは思うけど、今後、本編が始まってからのことを考えると、仲良くやっていた方がなにかと都合が言いと思う。


 それから一緒にいるリズは誰かって話が移り――


『わかった、そちらのイルミンスール嬢との婚約も進めておく』


『ありがとうございますわお義父様』


 いや、リズとリズのお母さんが、この領地に来たときに挨拶したんだろ! なんで覚えてないんだよ! と、思わずつっこんでしまったほどだ。


 だけどリズの一言、お義父様と呼ばれてめちゃくちゃ嬉しそうに『実は娘が欲しくて――』と話が弾んでいた……。


 まあこれで入学後に原作主人公に出会っても、そう簡単にはリズは原作主人公になびかないないだろう。


 ……なびかないでほしい……いや、俺もリズに愛想をつかされないようにこれからも頑張るだけだな。


 城内の確認がなんとか午前中に終わり、()()軽く食事を取って……そう兄さんたちはそろってダイエットすると意気込んでいる。


 父親のムキムキが兄さんたちも理想だそうだ。……うん。ぽよんぽよん脱却か…、頑張ってもらおう。


 そして午後、精神支配されていたのは騎士団だ。それも騎士団長がゲヒルンと同じくガイツ・ボッタクリーノに支配されていた。


 サクサクと魔道具を外して、身近な城に勤める者のほとんどを夕方までに見終わった。


『ドライよ、ボッタクリーノ商会に行こうと思うのだが、鑑定を持ちで洗脳を解けるお前が要だ。なんとしてでも商会長のガイツ・ボッタクリーノは生きたまま捕えたい』


 なので当然協力はするんだけど、問題はボッタクリーノが洗脳が解けたことに気付いて逃亡してしまっていることだ。


 当然のことながら逃亡を阻止するために手配はしている


 今少し前に騎士団長がガイツが居る商会を包囲に向かった。


 ……もう逃げているかもしれないよな。ゲヒルンが死んで洗脳が解けたんだ、商会に勤める者の中にもいるはずだ。いない方がおかしい。


 だから洗脳の解けた人がなにも言ったりやったりしなければバレることはないと思う。


 だけど、これまで解いた人で洗脳されていたと気づかなかったものはいない。


 なら騒ぎはゲヒルンの死んだ朝に起こっていたはず。


 そこで身の危険を感じ逃亡していてもおかしくはない。俺なら当然身の危険を感じたらさっさと逃げてる。


「ツヴァイ兄さん。ガイツは逃げてないですかね?」


「それなのだ。ゲヒルンが亡きものになってすぐに街の門に働きかけておけばと悔やまれるのである」


 難しそうに顔を歪めるツヴァイ兄さんの隣でかいがいしく額の汗を拭くミラさん。


 今馬車に乗るメンバーは四人と一匹? 聖魔法が使える俺とリズ、リズの巨乳に擬態中のイス。ツヴァイ兄さんとミラさんだ。


 アイン兄さんは父親と城内の現状を調べてもらってる。


 ゲヒルンが第二執事だったこともあるので何をしていたか確認しないとヤバそうだからね。


「そちらにも人は送っているが……厳しいのである」


 そんなことを話していると、御者台との間にある小窓が開き――


「間に合ったようです。商会の前に複数台の馬車があり、なにやら積み込んでいる途中のようです」


「む! まことか! くははは! ガイツのヤツは欲張って自滅したようだ! 絶対逃がすでないぞ!」


「はっ! 少々乱暴に馬車を止めますので掴まっていてください!」


 ツヴァイ兄さんはその巨体を生かしてどっしりと構え、ミラさんはその太い腕に絡み付いている。


 俺も吊り輪のようにぶら下がっているロープに掴まり、空いた手でリズを胸に抱き込み衝撃に備えた。


 ガガッ――ガガガ!


 急ぎの馬車を急制動させるために石畳の上を車輪が滑る。


 突き上げるような衝撃が何度も俺たちを襲い――馬車は止まった。

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