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第30話 襲撃者

 ゲヒルンは、それはもう何から何までガイツ・ボッタクリーノのことを喋りまくってくれた。


「――それと、これから言うことが一番漏らしてはいけないことです! それを言いますからどうか命だけは!」


 と、命乞いを何度も入れながら。洗脳されていたという点以外は話を聞く限り減刑されるところはない。


 だって、ガイツに操られる前のことも話してくれたんだよ? 洗脳使ってやりたい放題していたことも……。


 ゲヒルンはスゴク慎重な性格だったのか、本当に気付かれないレベルで洗脳して、気づけば自分に都合のよい結果になるようにしていたそう。


 元々はガイツと同じ商人だったそうだが、店はもたず行商で、地方の特産品を生産者から直接買い取り、他所の商会で売るを繰り返していたそうだ。


 生産者も売れるけど儲け無し。商会も赤字にならないけど当然儲けは無い。そんな取引をさせられた側はたまったもんじゃないよな。


 商会もいくつか潰れたとも言っていた。直接はゲヒルンのせいではないけど、そこでの儲けがあれば持ち直せたかも知れないんだし、いい迷惑だ。


 転機はガイツ・ボッタクリーノ商会へ商談を持っていった時に、俺の外した精神支配の腕輪を無理矢理嵌められたそうだ。


「ボッタクリーノ商会のガイツは私が洗脳スキルを持っていることに気付いていたのです」


「なぜ、気付かれたのであるか?」


 こうして話している間も鑑定で洗脳されていないかずっと確認している。チラチラと目線を合わせているからチャンスを伺っているようだし。


「どこから聞きつけたのか、教国で少し失敗して鑑定されたことがありまして、その情報を持っていたようです」


「ふむ。話を聞く限り、黒幕はガイツのように聞こえるのだが?」


「その通りでございます。クリーク家に被害を与えた諸悪の根元はガイツ・ボッタクリーノ。私は洗脳されていた被害者なのです」


 どの口が言ってるんだよ……。それにまだ言ってないことも気になる。


 俺になる前はツヴァイ兄さんのことを『生け贄』と言っていたこと。生け贄とか物騒な響きだ。


 その生け贄の負の感情をためて捧げるのは誰に? 悪魔とかか? 異世界だからいそうだし。


「では、最後である。生け贄とはなんのことであるか?」


 それ。俺も聞きたかったことだ。ツヴァイ兄さんが聞かなければ俺が聞くつもりだった。


「そ、それは……その……」


「ふむ。言いづらそうであるが、それを言えば許されることもあるかもしれんぞ」


 ゲヒルンは何か言いかけて口をつぐみ、目をキョロキョロさせたかと思いきや、ぎゅっと目を閉じ、頭をふってまた話そうとするが押し黙るを繰り返した。


「……っ……!」


 そして――


「こ、これを言えば私は確実に殺されます。言う見返りに助けてもらえますでしょうか……」


「……ことと次第によっては、となるであろうが、殺しに来る奴らは排除しよう」


「…………生け贄は教国が復活させようと目論んでいる神、イブリー――」


 ゾワリと背筋に悪寒が走る。隣にいたリズの頭を抱え込むように抱き締める。


 ミラさんもいつの間にか両手に刀を装備してツヴァイ兄さんの前に移動していた。


 ゴトン――


「お気をつけくださいませツヴァイ様! アイン様もわたくしの後ろへ!」


 俺もリズを背中に回し、腰にしていた剣を抜いて構えた。首が落ちて崩れ落ちたゲヒルンの横に立っている黒ずくめに向かって。


「このお馬鹿さんはお喋りが過ぎますね。でもこれでもうお喋りもできませんが」


「貴様。誰であるか? クリーク家に忍び込むとは大胆な」


「お答えはいたしません。いいえ、お答えしたとしてもお役にはたちませんので――」


 ギキン!


「くっ! 重っ!」


 ナイフだ。真っ黒なナイフ。それを軽く振り落としてきただけなのに、信じられない重さだ。


「へえ。これを止められるとは中々やるようですね。ですがまだまだ未熟、あきらめて死んでください」


 ギン! ギキン!


 刃渡り二十センチほどのナイフだ。小回り性能的に俺が持つ剣とは雲泥の差がある。


 それでもなんとか受け止めきっているのは、コイツが狙っているのがリズだからだ。


「ほらほら、いつまで守れますか試してみましょう。あなたが必死になって守る彼女を殺し、生け贄のあなたを殺せば、負の感情もより濃くなることでしょう」


「くっ! シッ! がっ!」


 何度も何度もナイフの切っ先が顔や腕、上半身の色んなところを切り裂いていく。


『イブリースかしらね、神は神だけど邪神よアイツ。そんなのに生け贄とか捧げたら真っ先に自分たちが殺られちゃうのに』


 え? って今はそれどころじゃないって!


「これはこれは。中々強くなっていますね。ですがほらほら足元がお留守ですよ!」


 アンダースローで股の間から後ろのリズに向かってナイフを投げる――仕草に釣られて、開いていた足を閉めてしまった。


「ほら、おしまい」


 トンと軽く肩をつつかれるだけで横に体勢が崩れ――


「おしまいはお前だ」


『ぼよーん!』


「へ?」


 念話でイスに頼み、リズが胸元を開けて待ち構えていたのだ。俺が横にズレた瞬間、イスは胸元から飛び出し襲撃者の顔に張り付いた。


「ムグゥゥウゥゥー!」


 このチャンスは逃さない!


 頭をまるっと包み込んだイスを引き剥がそうとしている右腕に剣を振り下ろす。


 ザシュ――


「ムグググググッ!」


「こっちの手も!」


「足はおまかせを!」


 左腕も今度は切り上げで飛ばし、それと同時にミラさんは襲撃者の両足の付け根辺りを切り飛ばす。


 当然胴体だけになったら床に落ちるしかない。


『ドライ、変な魔道具とか持ってないか見ておいた方がいいよー』


『うん。ありがとうイス。できれば口とか鼻の中に何か隠していないか見てくれる?』


『ん? いいけどそんなの必要? 手足もないし何もできないと思うけど、やっておくね』


 こんなヤツは、よく監獄から脱出する映画で色々と隠し持っていたりするから念のためだ。


 そして黒ずくめの服を脱がしていくと、出るわ出るわ魔道具や武器、おそらく毒薬も何種類も出てきた。


『あら、口の中からも毒の袋が見つかったわよ。ドライあなた凄いわね』


『やっぱり。こんなヤツは死ぬ用意もしてるはずだからね』


「ふむ。勇敢で有能なスライムのようだが……ドライの従魔、であるか?」


「あ……」


 そうだった。なぜ俺とイスだけで黒ずくめを剥いてるのかなと思ってたら……なんて説明しよう。

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