第19話 解体場の魔法陣
「さあ、ここに出してください」
入口から一番遠い端っこ。壁の棚には見ただけで、毒っ! って感じの紫や真っ赤な液体ぽいものが入った瓶がところせましと並べられている。
ほうほう、やはり毒だから他の物とは離して置いてあるんだね。
「ドライ? 何してますの?」
「あ、いや。ちょっと感心していたんだ。じゃあ出しちゃいますね。ほいっと」
ドサッ、ドサッドサッドサッ――――
崩れないように毒物の置き場全体を使ってポイズントードを広げていく。
ん~、思ったより毒物の範囲が狭いんだよなぁ、まだまだあるのにどうするか。
…………よし、俺たちが立っている部分だけ避ければいいか。
そう決めて、床が見えなくなり、二段目に置き始めたとき、お兄さんが声をかけてきた。
「ちょっと待て! いったい何体あるんだ!」
「え? 今出したので三十匹は越えましたね、後十倍くらいだと思いますし、天井も高いですから十分置ききれますよ」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやおかしいだろ! 生活魔法のストレージだろ! だったらこっちの子と合わせて十匹でも多いくらいだ!」
いや、おにいさんのいやいやの方が多いよ……。というか、まさかこの程度で止められるとは思わなかったよ。
「ですが実際まだまだ入ってますよ? あ! もしかして、買い取りの上限があったり?」
それなら仕方がないけど……。
「い、いや、上限は設けてない。が、そうじゃない。生活魔法のストレージは魔力量で入れられる量が変わる。と言うことは……」
ないんかい! っと、思わずつっこみを入れるところだった。でもストレージ容量はリズも不思議がってたもんな。だけど実際入るし、まだまだ底が見えないのが実状だ。
「あの、どうしましょうか?」
「あ、ああ、とりあえずあるだけ出してくれ……いや、待っててくれるかな? 俺は解体作業員を急ぎ呼んでくるから、出すとしたらそれからにして欲しい」
「わかりました。では待ってますね」
「行っちゃいま~したわね。待ってる間、毒の浄化でもしましょうか」
「それは止めておこう。毒も売れそうじゃない? ほら、棚にポイズントードって書いてある瓶もならんでるし」
「あら本当ですわ。ポイズントードの毒を浄化して毒消しにして売ればもう少し高く売れるかと思いましたが、毒も必要そうですわね」
ん? 毒のまま売るのと、毒消しにしてから売る。どっちがいいんだ?
あ、でも駄目だ。聖魔法はもう少し内緒にしておこうと決めたのに、ここ、ギルドで知れ渡ると教会が来そうだし、リズの力を利用しようとイルミンスール家ももれなく出てくるだろう。
「リズ、聖魔法はしばらく内緒だろ」
「あ、そうでしたわ。ファラが正式にドライの婚約者になるまでは内緒ですわね」
リズの話で、お母さんは俺との婚約を喜んでくれている。イルミンスール家の方も、グリフィン王国王家にクリーク辺境伯家、格上の二家との繋がりができると言って、納得させる予定だ。
「それよりさ、空間拡張魔法は欲しいよね。そうすれば部屋も広くできるだろ?」
「まあ! それは名案ですわ! 拡張魔法は魔法陣ですのよ、だからそれを見て覚えればよいのではなくて?」
「魔法陣なんだ。魔法陣って、そこの壁の丸い模様のだよね」
「確かそうですわ。それが空間拡張魔法かどうかはわかりませんけども。魔法陣はものすごくたくさんあると聞いたことがありますの」
「へえ。そうなんだ。じゃあ鑑定すればなんの魔法陣かわかるよな」
「さすがドライ。無駄がないですわ」
うん。褒められたの素直に嬉しい。でもナデナデするのはちょっと恥ずかしいかな。
「ありがとう。なんにせよ、鑑定してからだよね。鑑定!」
鑑定結果は――
魔法陣 換気
「換気か、まあそうか、毒物取り扱うところだしな」
「ドライ、頑張って覚えましょう! ドライのお部屋も雨の日とか湿気でベタベタになるのを防げますわよ! お布団もカビが生えなくなりますわ!」
「おお! リズ天才! 頑張るぞ!」
俺とリズは、買い取りお兄さんが解体作業員を連れて戻ってくるまでそこらじゅうにあった魔法陣を覚えるために走り回った結果は――
魔法陣
・換気
・生活魔法(クリーニング、ウォーター、ファイア、ライト)
・回転(解体用ナイフを研ぐ魔道具にあった)
・送風
・拡張魔法
・圧縮
・冷却
と、中々役立ちそうなものばかり揃っていた。
「ズルいですわドライばっかり」
「ごめん、意地悪でしてる訳じゃないんだけど……」
魔法陣はリズには覚えられなかった。
ほっぺをパンパンにふくらませたリズをなだめている内に、お兄さんがぞろぞろと五人のムキムキさんを連れて戻ってきた。




