第14話 ハーレム始動
え? 外交はまともにやってるの?
メイドのカイラさんの話によると、小さな衝突は起きてることは事実だそうだ。
でもそれは大きな川の真ん中にある、巨大な中洲の領地で、カサブランカ王国とグリフィン王国で半分ずつ共同管理をしている。
それで、領有を争っているのはその肥沃な中洲で農業を営む村同士だってこと。
国としては、中洲はお互いに不干渉として、国同士の盟約も交わされている。
だけどそれ以前からその中洲に住んでいるものたちにとって、土地の取った取られたは日常茶飯事、一種のお祭りとして年一回、土地を賭けた戦いが行われているそうだ。
台本や脚本にも載ってなかったぞそれ……。載っていたのはクリーク辺境伯の三分の一を占める中洲の土地を売り渡そうとした罪を被せられるってことだ。
どう言うことだ? 今回王女様はその中洲を縦断する街道整備の打ち合わせの顔繋ぎとして来ているそうだけど……。
考えられるのはファラフェル王女様がツヴァイ兄さんに強姦され殺されて、その計画が止まったか、無くなったから起きることかもしれない。
それと……クリーク家、わかっていたことだけど、悪いことは色々とやってるみたいだ。
全部俺のせいになってるんだけどな!
まあそのせいで悪逆非道で傍若無人な三男だとすでに広まっているらしい。領民どころかカサブランカ王国の王都でも噂が流れているとのこと。
……勘弁してよ。
罪状は……うん。だいたい知ってた。そこにアイン兄さんの盗賊系と、ツヴァイ兄さんの強姦がまだ無いのが救い、か。
というか、ほとんどが見たこともない父親の罪だ。
よくある脱税からの散財コンボで、領民への重税。貴族物の悪者だとあるあるなんだけど、その散財がすべて俺のわがままで行われてるそうだ……。
「ドライはそんなことしませんわ! 貴族とは思えない生活をしてますもの! 部屋は牢屋ですし、食べ物なんてカビが生えてないだけマシな石みたいなパンですし、飲み物も水しか飲んでませんのよ! それなのに!」
パンパンと膝を叩くリズの目に涙が溢れかけている。パンパン……可愛い。本気で俺のことで怒ってくれてるから、マジで他人事ではないんだけどね……。
「その事は承知しております。ですが……」
「はぁ。あきれた。完全にクリーク家の生け贄じゃない」
言われて結末を知ってる俺が言えるのは『その通りだ』の一言しかない。
俺と同じ黒髪で目は赤のファラフェル王女様。切り株に座りその年の割に豊満な胸を腕を組むことによって強調させている。
うん。デカイ。イスのお陰で巨乳になってるリズといい勝負……は無理だけど、年の割にはおそらく大きい方だ。
そんな王女様が――
「カイラ。国に戻りますわよ。こうなったらアインと進みかけていた婚約話は白紙に戻し、このドライと婚約するよう父上に進言します」
え? なんでそうなるの! てかアイン兄さんと婚約話が進んでいた? 初耳だよ! それなのにツヴァイ兄さん強姦しちゃ駄目でしょ! 強姦自体よくないんだけど!
「はい。わたくしもそれが最善かと」
いいのかよ! メイドさん! そこは止めようよ! 俺はリズ――
「え? ド、ドライとファラフェル王女様が婚約? そんなの許せませんわ! ドライのお嫁さんはわたくしですの! 相手が王女様でもそれは譲れませんわ!」
その通りだリズ! って、え?
……俺もリズを原作主人公には絶対渡さないと決めていたから、実際に口に出して言ってもらえたの。……リズ。本当に嬉しいよ。
「あら。エリザベス伯爵令嬢もドライのお嫁さんになればいいじゃない。正妻もエリザベス伯爵令嬢でいいわよ?」
いや、なに言ってるの! あれ? そういえばこの世界は一夫多妻だったよな。
アイン兄さんとツヴァイ兄さんは正妻、元伯爵令嬢の子で、ドライは第二夫人、男爵令嬢だったからお嫁さんが二人でもいい。のか?
だけどそれが虐めの原因の一つだと思う。俺を産んですぐ亡くなった設定だったし、実際転生してから母親らしき姿は見てない。
それに、兄さんたちと俺は容姿が全然違うもんな。想像だと兄たちは父親似なんだと予想してる。
でもこの二人が奥さんか……ん? なんだ?
リズ、目を見開いて口をパクパクしてる。
「は、へ? ……いいですの? わたくしが正妻……王女様? わたくしドライといっぱいイチャイチャしますわよ?」
なんとか変な声も出たけど……イチャイチャしてくれるんだ。
「ファラフェル王女様。それでは王がなんと言うか……」
そうだぞ、普通の親ならやっぱり正妻じゃないとって言うだろ。それも王女様だし。
「いいじゃない。どうせわたくしは第八王女よ? 王女でも一人くらい第二夫人でも気にしないって」
「誠に言いにくいのですが、あの王ですと、お許しになりそうですね……承知いたしました。カーバンクル伯爵家としても、そのことに関して賛成に回るよう派閥の貴族家にも通達させていただきましょう」
「いやいやちょっと待とうよ! なに勝手に話を進めてるの!」
「あら、ドライ様。わたくしとの婚約では不満がおありですか?」
「不満とか、俺たちまだあったばかりだし、いきなり婚約とかあり得ないだろ!」
「ドライ。わたくしたちは貴族ですのよ? 家と家を繋ぐ婚姻はお互いに利があれば成されるものでしょ?」
「うっ、そう、かもしれないけど……」
「それにわたくしも伯爵家の者として、辺境伯家のドライの正妻に。それも第二夫人がグリフィン王国の王女様となればイルミンスール伯爵家の家格もぐぐぐ……っと上がりますわ、ね」
「そのとおりよ。両家に隣国のとはいえ、王家の血。それにわたくしのお母様は帝国の第十皇女ですのよ? これは婚約したもの勝ちね」
「はわわわ! で、では皇帝家とも繋がりが!」
「そうですね。そうなればエリザベス伯爵令嬢様とそのお母様に対するイルミンスール伯爵家の扱い方も劇的に変わらざるを得ません」
カイラなんでそれを知って……って毎日訪れるリズのことも調べるよな。というか――
「そうか、リズとリズのお母さんもよくなるのか……」
みんなの視線が俺に集まり、リズの胸元からもイスさんが顔を覗かせている。
今選択できる中で、最善。いや、これ以上良い選択ってないよな。
俺もそうだけど、リズのことだって考えればいいことしかない。……好きになったリズにそれを守れる地位のある対象のファラフェル王女が……。
ニヤリと笑う目には命をかけた本気が感じられた。だったら……。
「えっと、ファラフェル王女様――」
「ファラでいいわよドライ。エリザベス伯爵令嬢もこれからはファラと呼んでね」
「ふえ! わ、わたくしのこともリズと! ……ファ……ファラ」
「ありがとうリズ。これからよろしくね」
「じゃあファラと呼ばせてもらうね。ファラ、リズも、急なことでわかってないことも多いけど、二人ともよろしくな」
バタバタしたけど、俺は二人の婚約者を手に入れることになりそうだ。