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第13話 救命

「ギャアー! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!ぃいひいぃいい!」


 とツヴァイ兄さんと同じ痛がり方をするアイン兄さんを今は無視。


 ツヴァイ兄さんの血まみれになったお腹を、ホーンラビットを解体した時に手を拭いたタオルで押さえる。一応クリーンをかけたから綺麗なはずだ。


「ひぃ! ド、ドライ! 私をこ、殺す気か! 待て! 今まで悪かった! 謝るから殺さないでくれ! まだファラフェル王女を手篭めにしてないのに死にたくない!」


 ファラフェル王女? あっ、隣国の王女様か。ならまだ強姦前だし、殺してもいないってことだよな。


 ……いやマジで良かった。それなら絶対そんなこと阻止しないとな。


 だったらこのまま……とかできれば楽なんだけど、元の常識が助けろと言ってくる。


 そりゃまぁ、まだやってない罪で罰せられることはないけど……はぁ、この場合は仕方がないか、やれることをしなきゃ――


「殺しませんよ。こうやってないと血が出過ぎちゃうから押えてるだけです。ちょっ! だから暴れないで! うわっ! 暴れるなって!」


 駄目だ手がつけられない。このままじゃ本当に死んでしまう。


「ドライ様。そこをお退きください。わたくしが止血いたします」


「え? メイドさん?」


 声をかけられ振り向くと、いつの間にか背後にメイドさんが立ってた。


「お話はあと。今はお早く。手遅れになりますので」


「う、うん。お願い。俺じゃ押えてるくらいしかできないから」


「お任せを。ヒール!」


 タオルはそのままにして、俺とメイドさんが体を入れかえる。


 すでに真っ赤に染まったタオルに手をかざし、『ヒール』と力強く言ったとたんに患部が青く光った。


 これ、回復魔法?


「メイド! キサマなぜ回復魔法を使える! それは教会が独占しておる魔法だぞ!」


 頭を押えながらなんとか立ち上がったアイン兄さんがメイドさんに詰め寄ろうとしてる。今はそれどころじゃないでしょ!


「アイン兄さん! 今はそんなことよりツヴァイ兄さんを押えて! このままじゃその回復魔法も無駄になるでしょうが!」


「ぐぬぬ。それはそうだが……あとで追及させてもらうぞメイド! ツヴァイ! 暴れるでない! ふん!」


「おいー!」


 押さえるためかどうか知らないが、アイン兄さんはツヴァイ兄さんの上に覆い被さった。


 それでも一応患部を避けたからか顔の上だ。


 呼吸……できるかな? だが振り回していた手も一緒にアイン兄さんのお腹の下だ。あとは足だけ何とかしなきゃ。


「よいしょっと」


 タイミングを合わせて左右の足が揃ったところに全体重をかけて飛び乗った。


「ドライ様、ありがとうございます。ではもう一度――ヒール!」





 色々とバタバタしたけど、お腹の傷はふさがった。途中から大人しくなったから、痛みがなくなったんだなと思っていたのにピクピクし始めた。


 うん、やっぱり窒息していたんだね……。どいてあげようねアイン兄さん……。


「ぶふぅあっ! 兄上! 息ができず死ぬところでしたよ!」


 うん。生きてて良かった……のか? いっそこのままと、思わなくもないけど……駄目、だな。目の前で死なれるのはやっぱり気分がよくないし。


「そう言うなツヴァイ。お前が暴れまわるのを止めるには仕方の無いこと。それよりそこのメイド。先ほども聞こうとしたが、キサマはなぜ回復魔法が使えるのだ」


「わたくしがグリフィン王国、第八王女ファラフェル・フォン・グリフィン様付きのメイドだからです」


「……なるほどな。ファラフェル王女様のメイドであるなら納得だ。我がカサブランカでも回復魔法使いは貴重でな」


 そういえば教会が独占しているって言ってたな。回復魔法か、ぜひ教えてもらいたい……。


 超越者なら全て覚えられるんだ。ならいざというときのためにも……頼んでみよう。


 どこで聞くか……兄さんたちが聞いてないところでなのは確定なんだけど、お姫様のメイドさんだから帰っちゃうよな。


「お力になれず。では傷口はふさがりましたが、流れ出た血は元には戻っておりませんので、城に帰り安静にしていただいた方がよろしいかと」


「うむ。ツヴァイ。今日のところは城に戻るぞ」


 アイン兄さんはメイドに手助けを命じかけて思い出したのか――


「……そうであったな」


 ――と自分に身体強化かけ、ツヴァイ兄さんに肩を貸しぽよんぽよんとお肉を揺らしながら切り株広場を出ていった。


 メイドさん、王女様を放っておいていいのかな? 残ったままだけど。というか……どこかで――!


「塩を分けてくれたメイドさん! ……ですよね?」


「はい。お役に立ちましたか?」


「うん。さっきまでホーンラビットを焼いて食べてたんだ。本当に助かりました」


 そういって頭を下げたところで手首をつかまれ引っ張られた。振り向くと――


「ド ラ イ そのメイドは誰ですの?」


 ――なぜか半眼で目の光が消えたリズがいた。


「リ、リズ、このメイドさんは塩を分けてくれたメイドさんで、ファ……フェ……」


 あれ? 名前なんだったっけ! ヤバい忘れちゃったよ! 脚本には名前しか出てなかったし!


「グリフィン王国、第八王女、ファラフェル・フォン・グリフィン王女付きのメイドでございます。イルミンスール伯爵令嬢様」


 メイドさんが助け船を出してくれた。


 そうそうファラフェル王女さまだ! 思い出した! ふう。喉からもう少しで出そうだったのに出ない気持ち悪さがスッキリしたよ。


「お、王女様付き! こ、これは大変失礼しましたわ。イルミンスール伯爵家のエリザベスと申します」


「これはご丁寧に。では名乗らなければいけませんね。わたくしはグリフィン王国、カーバンクル伯爵家、カイラ・フォン・カーバンクルです」


「そしてわたくしがグリフィン王国第八王女のファラフェルです。ドライ様、エリザベス伯爵令嬢様もよろしくお願いいたします」


 うおっ! いつの間に背後を!


 グリフィン王国の人は声をかけるとき、気づかれないように背後を取る決まりとかあるのかと本気で思う。


 突然の王女出現のあと、自己紹介を済ませ、話を聞くと、俺に会いに来たらしい。


 だけど横でリズがなにか恐ろしい笑顔を二人に向けてるのが怖いんですけど……。

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