第127話 反転したら
『今度はキサマか!』
やっぱり念話か。あの裸で出てきた身体は見た目だけで、この黒い霧が本体と見ていいだろうな。
この感じだと、負の感情の寄せ集めにしか感じない。邪神だろ? なんでここまで驚異を感じないんだ?
そもそもインフィニティスライムとはいえ、イスに捕まるとか、弱……いや、イスとか俺たちが強くなりすぎただけかもしれないけど……
んーっと、今はそれより、暴風の膜の外は真っ黒でなにも見えないんだよな。
……あ、そうだ。コレに聖魔法の浄化を足してみたらいけそうな気がする。
何だかんだで聖魔法の浄化ってチートだもんな。
熱病の時のアザゼル像にかかった呪いも、毒もそうだし、洗脳だって解除できた。
だったら負の感情の寄せ集めみたいな、アザゼルの黒い霧だってなんとかできそうだよね……。
即死の権能が駄々漏れだから、それも押さえ込めると思うし……。
なら……思い切り浄化を足してみよう。浄化ならイスも使える。
よく考えたら使える方がおかしいんだけど……インフィニティだもんな。いいことにしよう。
ということで、浄化を始めちゃいますか!
『イスの言葉をかりて、くらいやがれ!』
黒い霧を寄せ付けないようにしていた暴風の壁へ浄化を乗せていく。
『くっ! 勇者の魔法を使えるだけでも驚きだが、さらに聖女の魔法まで使えるとは! キサマは何者だ!』
おお、いい感じだぞ!
暴風に巻かれた黒い霧が灰色になり、白くなって行く。
……うん、これ、凄く効いてるみたいだ。なら――
『イス。少しずつ威力を上げていくから無理そうなら言ってね』
『へぇ。聖魔法を足してるのね。私もやっちゃうから、遠慮しなくていいからねー。えっとその暴風を真似てー、聖魔法も足しちゃうとー、ほりゃ!』
『グハァアア! や、やめろ! キサマはスライムではないか! なぜそのようなことができる! 大人しく我の軍門に下るのだ!』
おっと、さすがイス。俺のとはちょっとちがうみたいだけど、複合魔法まで使えるようになったのか。
『やっだもーん。私より弱いのにさー。なーに言ってんだろうねー。ほらほら~もっとやっちゃうよー』
『ぐぬぬ! なぜだ! 我は神だぞ! なぜキサマら羽虫にここまでやられなければならんのだ!』
『神ねー。なら一番弱い神様なんだねー。ほっらほらー、黒色が白くなってくよー。がんばれー』
やるなイス。煽りまくりだ。それにアザゼルの焦り方から見ても、この攻撃方法であってるようだ。
『こ、こんなはずでは――』
『いいぞ! このまま浄化させちゃおう!』
『まっかせてー。どんどん威力マシマシでやっちゃうよー』
イスの言う通り、どんどん威力を高めていくと、アザゼルの念話も途切れ途切れになってきた。
残りわずかとなった黒い霧が浄化の暴風に巻かれ白くなったあと、輝く光の霧となって、今度はひと塊に纏まっていく。
『あれ? もう終わり? あっけなかったねー』
『だけど、この光はなんなんだ? 鑑定ではアザゼルのままなんだけど……種族が天使になってる』
そうか、うろ覚えだけど、アザゼルは堕天してたはず。なら元々は天使ってことだ。
なるほど。堕天してこの世界の邪神になったのか。迷惑な話だよな。
で、悪い気の塊だったものを俺とイスが浄化しちゃったから、天使に戻ったってこと、かな。
『天使ね~。どうするの、やっつけちゃう?』
『どうしようか。一応話しかけてみてからかな。あの、アザゼルさん? 念話はできますか?』
『やっつけちゃえばよくない? まあ、いい子になってるなら別にいいけどさー』
駄目か。邪神だったときはできていたし、使えると思ったけど駄目――まぶしっ!
パンと集まっていた光が固定され、バスケットボールほどの球体で落ち着いたようだ。
『こ、ここは……どうしたことでしょうか。あれほど吹き出すようにあった破壊衝動が消えています』
念話の感じだと、よい子になったのか、な?
『あなた方が私の破壊衝動を浄化してくれたようですね。それにしては、変わった組み合わせです。インフィニティスライムに転生者ですか』
『転生者? ドライってそうなの?』
『あ、いや、まあ、言ってなかったけど、ね』
いやいや、いきなり人の秘密バラさないでよ……。
『ふーん。まあ、いいけどねー、ドライはドライだし。で、あなた、なにものなの?』
『そちらの転生者……不思議な魂をお持ちですね。……なるほど。それなら邪神となっていたわたくしでは太刀打ちできないのも納得です』
『おーい。話聞いてるー? あまり話聞かないんなら、やっつけちゃうよ?』
いや、ホントに話聞かないな……よく考えたら、邪神アザゼルが呼び寄せたアーシュもこんな感じだったし……。
というか、邪神の時も、今の天使も性格が似てるよな。似たものを呼び寄せたのかもしれないな。
『では。時間もありません。あなた方に幸多からんことを』
光の玉のアザゼルが言いたいことだけ言って消えてしまった。
『あっ! 逃げるなー!』
『嘘だろ……こんな中途半端に消えるとか……』
『もー! でも消えた先は捉えてるんだから! ドライ! やっつけに行こー』
『だな。ちゃんと話聞かせてもらわなきゃだよな』
『みんなもいっしょにー、転――』