第12話 コントですか!
『あ、身体強化スキルが切れたみたいね』
「え?」
茂みを抜け、切り株広場に入ってきたところで止まった兄さんたち。膝に手を置き肩で息をしている。
二人は『ぷひゅー』『ふひゅー』と、まだ十メートルは離れた場所までその変な呼吸音を届けてくる。
「スキル切れ? 身体強化って聞く限り、身体を強化して力が強くなったり素早く動けるようになるんだよね?」
『その通りよ。あの嫌な気配の肉だるまは、ここまで歩いてくるだけで使っていたみたいだけど』
「……駄目じゃん」
「ダメダメですわね。ドライ、いかがなさいます? このまま倒すことも容易く思えますわよ」
「だよな。あっ……手招きしてるよ……」
俺の方から来いってことか。本当に何しに来たんだ? 予想では前回のように虐めに来たんだとは思うけど、ここに来るだけでアレじゃあ……ねえ。
「なら、リズとイスはここで待ってて。一応何しに来たのか聞いてみるよ」
これって魔物に話しかけるのと同じ気分な気がするよ……。
「ドライ、頑張ってくださいませ。きっと勝てますわ。でも、お気をつけて」
少しやる気がなくなったけど、リズの応援をもらい、気合いも入った。そういえば――
切り株を避けながら兄さんたちの方に向かう。
――長男のアインはもうすぐ大盗賊と結託して悪さするんだよな。ドライの処刑四年前だったはず。
次男のツヴァイは五年前に隣国の王女様を強姦したあと殺しちゃう……五年前? 今年ってことか? もしかして殺したあとか……。
しかし、そんなことをしておきながら、よく隣国と繋がり、この国を売る寸前まで進めることができたよな。
……うん。お隣の王女様のことは終わってるか、まだなのかわからないけど、今のうちにこの二人は何とかしなきゃ駄目だ。
父親も大概だとは思うけど……あれ? 父親ってラストにいなかったよな?
……くそ、そこの台本はまだ貰ってなかったというか、ラストは俺の出番無かったし……。
それはおいおい考えるとして、残り二メートル。
「あの、なにかご用ですか?」
「――ふひゅー」
「――ぷひゅー」
「……」
まだ喋れないなのかよ! どんだけ運動不足なの!
だが、その方面には体力を使ってたからなのか、次男のツヴァイ兄さんが話始めた。
「ぷひゅー。ドライ、この様なところまで来ておったのか、ぷひゅー。探す手間をかけさせおって、ぷひゅー」
駄目だ。なに言ってるか聞き取りづらいよ!
脳内で『ぷひゅー』を無視してみよう
「えっと、それは申し訳ありません。少しレベルを上げようと思い、森に入っていたのですが、駄目でしたか?」
「ふん。キサマが森に入ろうが、一向に構わん。スキルもないキサマがレベルを上げたところで腹の足しにもならんというのがまだわかっておらんようだな」
「そうなのですか? でもそうでもなさそうですよ?」
「無駄である。ドライ。キサマは私たちのイライラをおさめる道具としてこの家に置いてやってるのだ」
は? どういう考えだよ、この……肉だるま……ぷふっ。あっ――
「なにを笑っておる! 無礼者!」
鞘付の剣をフラフラと持ち上げ、まるで剣の重さに耐えきれず、力を抜いただけのような振り下ろしが来た。
当然そんな攻撃? に当たるはずもない。
「なにを避けておるのだ! キサマは大人しく攻撃を受けていればよい! 次は避けるでないぞ! 剣術スキル! パワースラッシュ!」
さっきは片手だったけど、今度は両手でショートソードを持ち上げ、少しマシな振り下ろしを見せてくれた。
パワースラッシュか……まあ避けるんだけどね。
ドッと、地面に剣先が落ちたので、よいしょっと踏んでやる。
剣術のスキル。確かに最初のに比べると、格段に速さも上がってた。それにブレブレだった剣先も、キレイな軌跡だった。
あとで試してみようかな。
「くっ、ドライ、足をどけぬか!」
「だってこんなので叩かれると痛いでしょ? それともツヴァイ兄さんは叩かれるの好きなのですか?」
「ぐっ! ぬっ! ドライ、キサマ重すぎる! け、剣の上から退くのだ! ぬほっ!」
シャランと剣が鞘から抜け、ツヴァイ兄さんはその勢いで後ろに転がってしまった。
「あっ――」
運の悪いことに転がった先にあった切り株で頭を強打。それも自身の体重が乗った衝撃で――
ゴン――
「ホゲッ!」
「ツヴァイ!」
アイン兄さんも思わず叫ぶくらいの凄い音がした。
それで終われば良かったのだけど、握っていた剣が手を離れクルクルと回転しながらツヴァイ兄さんに落ちてゆき――
あ、これマズい! 間にあわな――
ザシュ――
「ツヴァイ!」
「ギャアー! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! ぃいひいぃいい!」
押さえているのは切り株で打った頭だけど、剣が刺さっているのはお腹だ。
それもブレイドの部分が半分近くまで刺さってしまっている。
抜こう――いや待て。……確か、こんな場合は抜いちゃ駄目だったよな。抜くと血が吹き出してしまう。だったはず。
確か患部を綺麗な布で押さえて出血を少なくしなきゃ駄目だったはず。……でも綺麗な布とか持ってないぞ!
「ツヴァイ! お前、剣が刺さっておるぞ! ドライ! キサマなんてことを!」
「は? アイン兄さんも見てたでしょ! 勝手に転げて勝手に剣が刺さりましたよね!」
「それはそうだがそうではない! キサマがツヴァイの攻撃を生意気に避けるからだ!」
「いや、避けるでしょ! それよりどうすればいいの! ってアイン兄さん剣は抜いちゃ駄目だって!」
ズシ――シュッ。
「アギャアアァアアア!」
「あー! ほら! 血が吹き出してるじゃないですか!」
「な、な、なぜだ! ドライ、キサマなんてことを! ツヴァイを殺す気か!」
「俺は抜くなと言いましたよ! 抜いたのはアイン兄さんでしょ! それより速く血を止めないと!」
「ぐぬっ! そうであった! ツヴァイ! しっかりしろ! こら! 暴れるでない! ヘブッ!」
血の吹き出すお腹を押さえにいったアイン兄さんは、暴れるツヴァイ兄さんの蹴りがカウンターで入り、後ろに転げた!
「ホゲッ!」
そして切り株で――
なにをコントみたいなことやってくれてるのー!