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第121話 公開処刑

 ヒエンの刑罰が決まったあと、アーシュや教皇たち、教国関係者の取り調べが進み、トップがいないままの教国に宣戦布告を行った。


 カサブランカ王国だけではなく、グリフィン、ミレニアムに帝国や他の国のほぼすべてから出された。


 大聖堂が無くなり、教皇も不在という混乱する教国は、そのことに驚きを見せつつも、暫定で第二勢力だったラファエル派から新たな教皇が選出されることになった。


 新たに教皇となった人が下した判断は、戦うこと無く各国が出した条件をすべてのみ、全面的に降伏を申し出ることだった。


 そりゃそうだよね。大陸のほぼ中央にある教国だ。まわりの国が全部敵になるなら戦うまでもなく結果はわかりきっている。


 駄目押しは、出した条件の中に、大陸中に広がる、アザゼル派の教会解体が組み込まれたことだ。


 だけど、予想以上にアザゼル派の中でもまともな方はたくさんいた。それはもう七割近く。


 なぜアザゼル派だったのか。洗脳まではいかない先導的なものがいたようだ。アザゼルの心臓を倒したあと、改心とまでは行かない人もいた。


 マジか、とも思ったけど三割は分かってやっていたことが確認された。


 アザゼル派の上層である過激な考えを持ち、もう情けをかける価値もないほどだったけどね。


 そこで、まともな信者に対して、存続の条件をつけることにした。


 それは他の少数派に改宗ことができるなら一旦処罰も保留するよって言ったところ、アザゼル派からの離脱するものが溢れたそうだ。


 やっぱり少し考えればわかることだし、なんだかんだで数ヶ月たった頃にはアザゼル派が事実上無くなることになった。


 最後まで抵抗するものもたくさんいたけど、元々身内である元アザゼル派の信者の活躍もあり、騒ぎの終息が訪れた。


 そして大陸の全土からアザゼル派解体完了の知らせが来た。


 その知らせのあと、ヒエンの処刑日が決まった。


 それも今日だ。時間はあったけど、ヒエンが改心することはなく、刑の執行日をむかえてしまった。


 ……薄情だと自分でも思うけど、今俺の心を埋めるのは、ヒエンの異母兄妹、アンジーのことだ。


 母が違うとはいえ血の繋がりのある兄妹だから当然……。


「ヒエンのことか? いくら兄妹でもどうにもならねえな。自業自得だ」


 ……思ったより平気に見える。


「それよりドライ。俺も超人族になってもう一ヶ月だぞ。そろそろ邪神の本体ぶっ飛ばそうぜ」


 でも、ヒエンの名前を出すたびに微かに表情が曇るんだよな……。


「うん。もうみんなアザゼル本体よりステータスも上になったし、確実に倒せると思う」


「だろ? 一番遅れてた俺が追い付いたからな。で、いつやる? 今からでもいいぞ?」


 だけど、ヒエンの処刑は今日の午後だぞ……。いいのか……。


 ヒエンの斬首は王都の中央広場で行われる。俺が原作でなるはずだった公開処刑だ。


 それとアーシュや教皇の処刑も今日、同じ場所で刑が執行される。


 世間どころか、大陸中にそのやらかした罪が発表されたからだけど……。


「アンジー……最後になるんだぞ……一目だけでも見ておいて方がいいんじゃないか?」


 ぶるりと震えうつ向いてしまった。


「ドライ。その言い方はズルいですわ。アンジーもそうしたいに決まってますもの」


 だよな。リズの言う通りだ。


「そうね。そんな時は『最後に会ってケジメにしよう』って抱っこして連れていけばいいのよ」


 抱っこ!? いや、やれと言われればやってあげたいと思うけど、いいのか?


「そ、そうです。みんなで最後になりますけど、きちんとお別れする方がいいと思います」


 キャル、その通りだな。やらずに負う後悔は悔やむに悔やまれないものだと知ってる。


「そうじゃな。会わず後悔する可能性があるのなら、会って後悔する方が諦めもつくのじゃ」


 諦めか……そうだよな。やるだけやったなら、駄目でも少しは心も救われる。


『ドラーイ。なーにごちゃごちゃ考えてるのよー。ぎゅってしてー、ほいって抱っこしてー、転移で行っちゃえばいいんだからっ』


 ペチと背中に手加減されてるとはいえ、通常の人であれば爆散しているような衝撃が走り、今にも泣きそうなアンジーに向けて押し出された。


「きゃっ」


 突然抱きつかれたからだ。アンジーが可愛い声をあげる。


 なんだかんだで、アンジーが一番こういった接触に敏感だ。


 そういや入学式の時は気絶するほどだったもんな。


 むにゅりと凶悪な物を押し潰した形で抱き抱えてる。


 ここにいるメンバーで一番背が低いにも関わらず、リズの虚乳を上回る最大のものをもったアンジー。


 ……我慢だ俺!


「アンジー」


「……ドライ」


 決壊間近で、うるうるとにじんだ上目遣いで返事をするアンジーを抱きしめ、まぶたを閉じた唇を……。









「……さよならを言いに行こう」


「ん、んちゅ……うん」


 ぎゅっと首にしがみついたアンジーに、みんなは無言だけど、そっと手を伸ばした。











「殺すなら俺にやらせろ! 頼む! やらせてくれ!」

「あなたたちのせいで! うちの子を返して!」

「キサマのせいで俺のぉお! うあぁああああ!」


 王都の上空に戻ってきた時、断頭台には教皇がつれてこられるところだった。


 ギロチンの前にある首桶には、もう幾人かの首が転がり落ちている。


 罪状の読み上げたのだろう。断頭台に添えられた教皇から兵士たちが離れると、あちこちから石が飛んでくる。


「がっ! や、やめ! アザゼル様の使徒でもっとも貢献しているこの私に、あがっ! や、こ、こんなことは許されないのだ! アザゼル様の怒りが怖くないのか!」


 叫び、鬼の形相を見せる教皇。そこへ絶え間なく石などが降り注ぐ。


 少し目を移動させると、アーシュにヒエン王子が断頭台に上がる階段の前に見えた。


「アンジー。みんなで一緒に別れを言いに行こうか。それとも……」


「い、いっしょに……」


「うん。わかっ」


 ゆっくりとヒエン王子の前に降り立つ。


 それに気づいたヒエン。俺たちが目に入ったとたん、青ざめていた顔が真っ赤に染まった。

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