第118話 何度目かの遭遇
『やったかーな?』
イス、それフラグだから……。
だけど凄いな。マオーの一撃で、大聖堂の中心を起点にして、放射状に広がった亀裂。
リズとキャル、そしてマオーが張った結界の内側はまるで天変地異レベルの地割れができた様相だ。
広大な大聖堂の敷地内で収まっているからいいものの、この地割れが人々が住む場所で起こったとりしたら……背筋がゾッとする。
大聖堂の敷地内にいた人で、アザゼル派じゃない人には申し訳ない気もするけど、今は考えても仕方がない。
今ここで邪神、アザゼルの心臓を倒してしまわないと、逃した場合の被害は想像もできない。
倒しそこなった場合、その脅威はいずれ自分の大切な人にまで影響を及ぼすことになるのは時間の問題だと思う。
だから確実にここでアザゼルの心臓は倒しきらなきゃ駄目だ。
だけど今の一撃でわかったこともある。鑑定でもHPはまだ削りきれてないってことだ。
が、わかってたけど、さすが勇者の一撃。半分以上減っている。残りはまだまだあるけど……。
いや、これだけ減ったんだ、このまま間を置かずに追撃すれば大丈夫だ。
と思っていたのもつかの間、意外な念話が飛んできた。
『ぬぬっ! ま、まずいのじゃ、ぶよぶよ過ぎて力が上手くつたわらんぞ! くっ、ぬ、抜け出せん!』
『おいっ! 大丈夫なのそれ!』
『あははははは! ハマっちゃったわねー』
『す、すまぬ、大丈夫じゃが、このままではやっつけられんのじゃ、助けてくれんかの? 詰まってしもうたのじゃ』
『くふふふふふ。しかたないわねー。んーと、そこね、転移!』
イスが転移でマオーを回収に行ってくれた。
『たっだっいまー。マオーったら変なかっこうでもがいてたわよー』
『ふう。酷い目にあったのじゃ。じゃが、次は油断はせん。取り込まれることなく連続で殴り、跡形もなく消し去ってくれようぞ』
よくわからないものでドロドロになったマオーが少し大きくなったイスの上に乗り現れた。
『ドライ、イスよ。狙うは根元じゃ。上空からの攻撃では壁が厚すぎる。地上に下りるのじゃ』
根元か。確かにこのアザゼルの心臓……縦長だもんな……なら上からじゃ倒しきれないのもうなずける。
爆裂魔法で蒸発させた尻から再生するように伸びてくる触手もクッションの役割を果たしてるんだと思う。
だけど地上からと言われても、いそぎんちゃくの胴体部分と一緒で、それはそれで分厚い壁だ。
だけどやらない選択肢は無い、か。
『うむ! 地上より切り離し、空中に放り上げれば奴も再生のために人々を吸収することもできん! イスもドライも手をかすのじゃ!』
『なるほど。始めにやることは地面からの切り離しだね。なら、さっそく転移で行くよっと!』
手を伸ばし、イスに触れた瞬間に転移を発動して地上に下りる。
目の前には赤く、脈打つ壁が見えた。いや、これ、切り離せるのか?
『あら? 地下が見えるわね、さっきの一撃で地下まで崩れたのかしら?』
『地下などどうでも良いのじゃ! くらえ!』
着地した瞬間に、ドゴンと地面を爆散させるように踏み出したマオーは瞬く間に脈打つ壁の真ん前までたどり着いた。
『うおぉおおおおー! りゃりゃりゃりっ!』
壁のようなアザゼルの心臓に握り込んだ拳を連続で叩きつけるマオー。
壁を千切り飛ばし、まるでトンネルを掘る掘削機がごとく穴を開け、一歩一歩進んでいく。
その様子をを見ながらも、地面の裂け目から聞こえてくる声に気づいてしまった。
『なんじゃこりゃー!』
『なんなんだこれは!』
アーシュとヒエンの声が聞こえた。まだ無事だったのかよ二人とも……もう吸収されてると思ってたけど、中々しぶといようだ。
だったら捕まえなきゃ駄目だよな。たぶんだけど、王子たちがいるなら教皇もいるはずだし。
『イス! この裂け目から地下に行って、全員捕まえよう! 先にアザゼルの心臓だけど、たぶん教皇たちもいるはずだ!』
『へえ……あら、本当ね、言ったとおりみたい。なら、さっさとこのうにょうにょはぶち上げて倒さなきゃねー』
ぷるぷるしていたイスがピタリと止まり――
『本気出すから、ドライ、あなたもおもいっきりやっちゃいなさい。結界の外には被害は出さないから、手加減無用よ』
……イス。俺が常時手加減を使っているの、知ってたのか?
『いいの? 自分でもどうなるかわからないんだよ?』
本当にわからない。超人族になるずっと前、扉を開けるため触れたドアノブが豆腐より簡単に崩してしまってから、手加減を常時かけている。
日常生活ができないレベルに強くなるのも難儀だとずっと思っていた。
リズやファラたちは、器用にスキル無しでも日常生活ができているのに、俺は駄目だったよな
……不器用……じゃないと思ってたのに……。
まあ、それから寝ているときでさえ発動させていたんだけど……。
『任せなさい。出会った当時なら私でもヤバかったけど、今なら余裕よ。もちろんマオーもリズたちもね』
『……わかった。だけど――』
『あー、地下にいる奴らはカサブランカの地下牢に放り込んでおくから心配しないでいいわよ。すぐ戻ってくるから、私の分も残しておきなさいよ』
『うん。お願いね』
『十、数えなさい。それだけあれば余裕で地下の奴らは捕まえられるから』
『わかった行くよ! 十!』