第117話 気づいていなかった二人と赤子の腕
sideヒエン
「ここは……影よ、ここはどこなのだ?」
「……教国の大聖堂にある、地下でございます」
背を向けたまま、そう答えたが……良い。きゃしゃな体格の割に豊満な胸に、きゅっと引き締まった腰……良い。
さらには胸に続いて揉みたくなる良い形の尻から伸びる細く長い足もすべて私のものだ。
くくっ。今宵は寝れんかもしれんな。
「……ほう。あの一瞬で教国にまで来れるとは。良くやった影よ」
カサブランカから教国までは馬車でも数週間の距離。ならば態勢を整える時間はあるようだ。
……だが問題はあのドライだ。勇者アーシュを運良く捕らえたことがある……。
さらには冒険者としての功績もあるようだからな。
だが、たかだか冒険者。準備万端整えれば敵ではない。
さらには教国自慢の魔道具の数々をもちいれば撃退も容易いだろう。
「おそらくですが、そう時間を置かず、追っ手が来るでしょう」
「追っ手が時間を置かず? 影よ、それはまさかドライが来ると言うのか?」
ここでやっとこちらを向く影。うむ。やはり顔も私好みだ。これはどこか高位貴族の養子として身分を作り、正妻として娶る方向もありだな。
「はい。調べではあのもの、転移魔法と飛行スキルの使い手です。もしかすると、すでに教国に潜入している可能性もございます」
「まさか!? 奴が転移魔法に飛行スキルを使えると言うのか! ……いや、そのようなことを聞いた記憶があるが、あれはデタラメではないのか?」
「はい。ですのでここ、大聖堂の地下ですと特定の方法でしか入ることができませんが、油断はできかねます」
影はそこまで言うと、『教皇様』と言いながら私に背を向け跪き、よくわからぬ話をはじめ、しばらくの間この場で様子を見るよう進言しはじめた。
来るのがドライであれば、簡単に退けられると声をかけようとするが、さすがに私が王子とはいえ、教皇の話に割り込むことはできない。
「王子。助けに来てくれてありがとうな」
どう声をかけようかと手をこまいていると、アーシュが声をかけてきた。
「勇者アーシュ。気にするでない。友であるなら当然だ」
「あら。こちらがアーシュが言ってた王子様ね。うふふ。可愛らしいじゃない。食べちゃおうかしら……あら? おかしいわね? あなた、王女じゃなくて王子よね?」
アーシュの横にいた少し歳をとった修道女は、私の股間に手を伸ばしてきたが、抜いて間もないからな、そう簡単には反応はしない。
見た目は好みから外れるが、夜の相手くらいはしてやっても良いだろう。
「やめとけアーナホール。……まあ、王子がいいってんなら構わねえけどよ」
「あら? アーシュったらやいてるの? うふふ。嬉しいわ。ちゅ」
おお! アーシュと口づけを! まさかこの方が聖女様なのか!
……そうか、アーシュの奴、この聖女様と初めてを。
よかったなアーシュ。であれば、私も聖女様の祝福をぜひいただきたいものだな。
「聖女様。私はカサブランカの王子。ヒエンと申します。もし、よろしければお相手願いますでしょうか」
「い、いいのかよ王子。コイツだぞ?」
「うむ。勇者の伴侶たる聖女様なのだ。こちらから膝をつき乞い願うべきことだ。聖女様。どうか私にも祝福を」
「うふふ。あらあら。そうね、あちらで教皇様たちが話されてる内容だとしばらくここからは出れないようだし。たっぷり可愛がってあげるわ」
聖女様の祝福。そう、一度のまぐわいでしばらくの間浄化されている状態となる。
私のような王族や高位貴族にとって、呪いを解ける浄化は喉から手が出るほどのものだ。
少し前、解毒もできるなどと誤報が届いたが、そこまでは期待もしていない。仮に本当のことであるなら願ってもないことだ。
「勇者様方。しばらくはこの地下での生活となります。部屋は個室を用意していただけるようですので、案内のものについて移動をお願いいたします」
と、影がいつの間にか私たちの横に現れそう言いまた離れていった。
「教皇の話がすんだようだな。王子、どうすんだ? 案内された部屋でさっそくか?」
「ああ。早い方がいい。頼めるかな」
「うふふふ。良いわよ。た~っぷり可愛がってあげますわ」
慈愛に満ちた笑顔の聖女に背を押され、案内されるまま部屋に入り、服を脱がされていく。
「うふふふ。可愛いわん。んちゅむちゅ。それに、王子ってばそうなのね~。んちゅ。じゃあ~、じっくりほぐしてから楽しませていただくわん」
経験をしたことがないほど激しい口づけのあと、背中に回された手が腰から尻へと下りていく。
「王子、楽しんでくれ。俺は部屋に行くからよ。じゃあな」
勇者が気を利かしたのか、私たちを残して部屋を出ていく。
すまぬな勇者アーシュよ。しばし伴侶を借り受ける。
「ぬほっ! そ、そこは!」
「あらあら。なれているとばかり思っていたけれど、そうでもないみたいね。でも大丈夫。優しくするから天井のシミでも数えていると良いわよ」
「そ、そうか、そうなのか」
そして予想とは違うやり方で、聖女に祝福を何度ももらったあと、別室で水浴びをするためやってきたのだが、何かが足りない気がする。
「おう王子、お前も水浴びか? 一緒に入ろうぜ」
「あ、ああ」
アーシュも水浴びか。それもそうか、地下牢にいたのだからな。
巻いていたシーツを石畳の床へ落とし、隣を見て――
「ア、アーシュ! お前なんだそれは!」
「ん? なにが……王子、お前、女だったのか……」
「ち、違う! 私は男だ! ではない! アーシュ! 棒がないではないか!」
「は? お前こそ玉すらねえじゃねえか……え?」
お互いの股間から視線を自分の股間に移し、ことの重大さが頭に激流となって流れ込んできた。
「なんじゃこりゃー!」
「なんなんだこれは!」
「あらあらなにを騒いでいるの? あら、勇者様は棒だけ無くなっているわね? どうなってるの?」
混乱の中、聖女が裸で、赤子の腕ほどもある棒を揺らしながら水浴び場にやってきた。
その事に驚いた瞬間、大きな揺れと共に、天井からホコリが舞い落ちてきた。