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第110話 なってしもうたのじゃ

タイトルで


わかるよね(〃艸〃)ムフッ

「ミィィーギィィィイギギギギッ!」


 うずくまったまま、ブルブル震えるアーシュのズボンから、ただのワームが這い出てきた。


「回復! 再……生は、保留でいいかな……」


 とりあえず止血だけはしておかないと、罪はちゃんと償ってもらわないとな。


 もう、結果は決まっているようなもんだし、使うことも無いと思う。


 今までやってきたことと比べると、軽い気もするけど、一般男性なら一番みじめなことだろうし。


 で、このワームはどうしようか……。鑑定だと魔牛と同じで、こちらから攻撃しなきゃ、ほぼ無害なんだよな。


 ポトリとアーシュから落ちたワームは、モゾモゾと森の方へ這って行き、途中で地面にもぐり、見えなくなった。


 うん。そっとしておこう。


「ドライ。この方、どうかしましたの? おもらししたように血が出てますわよ?」


 元勇者への、ざまぁ的な仕打ちをしてくれたワームを見送ったあと、リズが話しかけてきた。


「えっと……ちょっと従魔にしてたワームに噛られちゃったみたいなんだよ」


 なにが、とは言わないし、言いたくもない。


「まあ、そうですのね。天罰、といったところですわ」


「だね。じゃあファラたちを待たせるのもなんだし、さっさと連行しちゃおうか」







「っと言うわけで、逃亡していたモラークス枢機卿と元勇者を捕まえてきました」


「おわっ! ド、ドライ! いきなり現れるな! 『と言うわけで』、じゃないだろっ!」


 今回はファラたちに黙って来ちゃったし、イスに王様がいるところを探ってもらい、直接公務をしていた部屋に転移してきた。


 邪魔しちゃったかな? インクポットが倒れて、記入しようとしていた書類が真っ黒になっちゃってるし……。


「詳しいことは帰ってからお話しするので、この人たち、今度は逃がさないようにお願いしますね」


 ……ここは見なかったことにしよう。書類を書き直す文官さんには申し訳ないけど……。


「ほほう。モラークスに勇者か、でかした、良く捕まえられたな。で、そっちの奴は誰だ」


「聖者ですね。名前はアーナホールさんと鑑定では出ています」


「聖者? アザゼル派の聖者と言うことか」


「そうだと思います。あ、アーナホールさんは犯罪系の称号は無いですが、一緒にいたので一応縛ってあるだけです」


「わかった。そこのお前、教皇と同じよう地下で厳重に閉じ込めておけ」


「かしこまりました。尋問はいかがいたしますか?」


「そうだな、合わせて進めてくれ」


「はっ」


 王様に命令された、護衛をしていた騎士さんがビシッと臣下の礼をして俺たちの方を向く。


「ではドライ様。罪人たちをお預かりいたします」


「はい。あ、元勇者のアーシュのことなんですが、レベルが1にまで下がっているので、気をつけてください。すぐに死んじゃいますので」


「どう言うことだ?」


 と、疑問の表情を浮かべる王様たちに呼び止められ、ことのあらましをサクッと話しておく。


「ふむ。わかった。なら元勇者に対しては気を付けよう。斬首刑は確定だが、やはり公開でしなければ民も納得できんだろう」


「そう、ですね。お願いします。では俺たちはレベル上げに戻りますね」


 そうして転移しようとしたのに、また呼び止められた。


「ちょっと待て。そちらの見たことのない娘は誰なんだ? またどこかの王女だとか言うんじゃないだろうな」


「え? あ、この子は……」


 鋭い! どうしよう。王女ではないけど、魔王なんだよね……正直に魔王ですと言って良いのか?


「わらわのことか? わらわは魔王じゃ。名はもう忘れ去られおるが、パナケイアと呼ばれておったぞ」


 言っちゃったよ……。って名前あったのか! 鑑定にも出てなかったよ!


「魔王? ……ふむ。は? ま、魔王? ……そ、そうか。まあ、ドライがつれているのだから害は無いのだな、だな!」


 この王様……あきらめたな……。


「うむ。悪さはせんぞ。此度(こたび)もグリフォン討伐に続き、こやつらの捕縛も手伝ったのじゃ」


 そのお陰で勇者が瀕死になって、勇者じゃなくなったけどね。


「そうか。それは大義であった。ドライと合わせてなにか褒美を考えておこう」


「ほほう。褒美とな? ならばフェリル村のチーズに合うワインが良いぞ」


 それを聞いた王様の顔はひきつっている。普通ならお金とか、凄く国に貢献したとかだと叙爵だけどワインだもんな。


「その程度で良いのか? 良いと言うなら、最高級のワインを用意しておこう」


「うむ。楽しみにしておくのじゃ」


「じゃあ戻ろ――」


「それでじゃな。わらわに勇者の称号がついているのは構わんのか? 魔王の横に勇者とついたのじゃが」


 あの時声が聞こえたからそうだとは思いながらも、鑑定を避けてたんだよな。


 たぶんラストアタックが選ばれる要因のひとつだろう。


 俺から言わせれば、『倒したもの以外にするだろ!』と言いたいところだけどね。


「なん、だと……そなたが勇者? 本当なのか?」


「うむ。良くわからんが、なってしもうたのじゃ」


 一応鑑定してみると、名前のところにパナケイアが追加され、称号に勇者が追加されていた。


「本当ですね。ちゃんと勇者の称号がついてます」


 さらに、今まで無かった勇者特有の、『限界突破』と『光魔法』のスキルセットまで……。


 これは完全に移ったってことだよね。でも、考えたら好都合か?


 パナケイアさんに俺たちのパーティーに入ってもらえれば、レベル上げして一緒に邪神も倒せる。


 そうすれば、封印のために寝ている本体のパナケイアさんも起こすことができるじゃん!


 なんだか上手くまわってきたぞ。なら、やることは決まったってことで、もう頑張るしかないよね。

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― 新着の感想 ―
魔王且つ勇者…なんかこのテーマの小説ありそうだな…
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