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◆第106.5話 王子のしでかしたこと

「で、殿下!」


「なんだドルーアか。どうした、そのように慌てて」


 尖塔を走り上って来たのか、酷く息を切らせている。まさか、もうドライが依頼を失敗した知らせが来たとでも?


 その事に思い当たり思わず笑みを浮かべてしまった。


 いかんいかん。今は謹慎中だ。身の回りの世話をするものだけしかこの塔にはおらぬが、すべて父上の手の者。


 ニヤニヤしていては、なにを報告されるかわかったものではない。


 ここは自重して、真剣な顔を作っておくか。


「はぁ、はぁ、はあ。殿下、あなたはなにをなさったのですか」


「なにを、だと?」


 なんだ、雲行きが怪しい。険しい顔のドルーアが私が物語っているようだ。


 ……まさか、魔牛の嫌がらせが失敗し、それがバレたと言うのか?


 ……いや、失敗もバレることもあるわけない。


 事前にドライたちが請けると仕入れた情報。あのチーズが絶品のフェリル村の魔牛捕獲依頼だ。


 ほんの少し邪魔をするだけで、依頼が失敗する可能性が高いものだからな。


 魔牛のことはチーズのことを調べ把握している。攻撃を加えれば簡単に暴走する魔物だ。


 ドライが魔牛の高原へつく前に、ありったけの魔牛に怪我を負わせるという簡単な仕事。


 失敗などするわけがない。それも信頼のおける勇者アーシュとパーティーを組んだこともある冒険者たちだ。


 そのような腕もたしかで優秀な配下に任せたのだからな。


「今、殿下の派閥の貴族たちが集められております。それも強制召喚命令ですよ殿下! 私に黙ってなにをなさったのですか!」


「なん、だと……私の派閥の貴族たちが……強制召喚……」


「もちろん殿下の派閥だけではありません。王都はもちろん、他の領地にいる貴族たちにも任意での召喚命令が出されました」


 どう言うことだ……。なにがあった……ドライの邪魔をしただけだぞ。


 最悪失敗した時のために、もったいないが配下の口封じについて、慰問に来た馴染みの司教に頼んだのだ。


 ならば喋るものもいないなら、派閥のものが呼び出されることはない。


「ドルーア。私には身に覚えが――」


 いや、もしや配下の冒険者の中に貴族の令息がいたのか?


 ……だが冒険者をするような三男、四男の令息の失敗で貴族当主が呼び出されることなどないだろう。


「――うむ。どう考えてもないぞ。ドルーア」


「はぁ、それを聞いて安心いたしました。またドライ様たちに派閥の貴族たちを使い何かしでかしたのかと」


「は? ド、ドライのことなのか?」


「で、殿下……ま、さか何か……」


「……いや、その、だな……ほらっ、ちょっと恥をかかせてやろうと依頼を、だ、な……お、おい、ドルーア、な、なぜ怒っている」


 顔を真っ赤にして、震えるドルーア。ドルーアのこのような怒りを露にした顔などはじめてだ。


 バンッ! とローテーブルを両手で叩くドルーア。


 その衝撃で置いてあったティーセットがカチャガチャと音を立てた。


「……殿下……誰に何を依頼したのかすべてお話しください。良いですか。すべてです」


 ドルーアの怒りのこもった目に圧倒され、すべてを話す。


 今回の魔牛のことだけでなく、おそらく貴族たちが呼び出された原因。ドライを貶める噂を流すように派閥の貴族たちに依頼していたことも。


 暗殺をほのめかせていたことは、さすがに口には出せないが……。


「なんと言うことを……ドライ様について、あれほど陛下に手を出すなと、ご注意いただいておりましたのに……」


「い、いや、だが、な、あのものは妹や、ミレニアム女王国の王女までだな――」


「そちらも手を出すなとご注意くださいと何度も! まさか……」


 震えるドルーアに合わせてローテーブルのティーセットがカチャカチャと鳴り続ける。


 これは駄目だ。本気で本気の本気だ。


「何をなさったのです?」


 コテリと首をかしげ、笑顔なのに目が先日深夜、密かに会った『首狩り』と同じ目をしていた。


「ファ、ファラフェル王女とエリザベス嬢に、ドライと婚約破棄を進めるよう手紙を送り、ました。あと、その二人とカイラ嬢にも求婚状、を……」


「……そう、ですか。殿下、お仕えさせていただくのもここまでのようです。では、失礼いたします」


「ま、待てドルーア! それはどう言うこと――」


 ドルーアは振り返りもせず、部屋を出て、扉を閉めた。


「お、おい! 待たぬかドルーア!」


 ソファーから立ち上がり、扉の前まで行くと、ガチャンと開けっぱなしであった扉の鍵がかかる音がした。


 そしてドルーアの――


『鍵をかけました。陛下の許しがない限り誰も通してはいけません! お世話係もです! 良いですね!』


 ――扉の前を護る騎士にそう言い残して、遠ざかる足音が聞こえた。


 まずいぞ。これでは最悪幽閉後に廃嫡も……駄目だ。私はこの様なところで終わって良いようなものではない!


 なにか、なにかないか、ここから逆転できるような秘策はないのか!


 考えろ、私は王子だぞ。廃嫡で平民になどななってたまるか! なんとか逃げ出さねば!


 ……っ! そ、そうだ、司教が持ってきたアレがあるではないか!

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