第104話 名もなき島で
ミルクとチーズのお土産をもらい、依頼達成の報告組と、名もなき島に行く組をわけることにした。
一度行っておけば次からみんなで転移で一発だし、聖女と勇者しか入れない、魔王の部屋のこともある。
ということは、聖魔法が使える俺、リズ、キャル、それに一応聖魔法が使えるイスが行くことになる。
「ならわたくしたちはファフニールに乗って帰っておけばいいのね」
「お前らだけずるいぞ! そのうち俺も聖魔法覚えてやるからな!」
「冒険者ギルドにはわたくしが達成報告をしておきます」
「うん。お願いね」
ファフニールに乗り込み、飛び立っていく三人を見送り、俺たちも出発だ。
「本当に来るのか? 聖剣だけもらえればいいのじゃが」
「少し試したいことがあるからね」
おそらくリズとキャルは問題なく入れると思う。だけど俺と、イスがどうか。
聖魔法が入れる要素なら、入れそうなんだよな。
一応戦力的にキャルはまだまだ低いけど、あのワイバーンレベルなら大丈夫なはずだ。
「じゃがなぁ。わらわには魔物たちは襲ってこんが、お主らには群がってくるのじゃぞ?」
「大丈夫ですわ。わたくしたち、凄く強いのですわよ。どんと来いですわ」
「え、えっと、頑張ります」
「それに、レベルアップも期待できるしね」
「なら、良いのじゃが」
ちょっとしぶしぶと行った感じで屈伸を始める魔王。
「ならばついてくるが良い。着地地点は……誰もおらんな。行くぞ!」
遠くの山を見て、そんなことを言うと、タタタタと走り出す魔王。
それに続き、リズとキャルを挟んで手を繋ぎ、飛行スキルを発動して飛び上がる。
「そいっ!」
と、気合の入った掛け声と共にジャンプする魔王。
あっという間に点になるほど引き離された。なのに地面にダメージを負わせずに飛べるとか凄いな。
俺たちも同じことが出きるだろうけど、踏み切ったところは絶対にクレーターが出きると思う。
「俺たちも速度を上げよう」
「すぐに追い付いてあげますわ!」
一気に速度をあげると――
「ひゃわわわわわ! は、早いですぅううううー!」
――キャルが叫んだけど、すぐになれるはずだ。頑張ってもらおう。
ついでに飛行スキルを覚えてくれる可能性もあるし、頑張ってもらおう。
「お、お、落ちますっ!」
魔王は遠くに見えていた山の頂上に着地して、またジャンプ。叫ぶキャル……頑張ってもらおう。
なるほど。頂上から頂上に飛び移りながら移動してたのか。ならついて行くだけだな。
「ひょえええええええええ!」
うん。頑張ってもらおう。『ひゃわわわっ!』とキャルが少し余裕も出てきたようだ……頑張ってもらおう。
いくつもの山を経由して、だいぶ遠くまで来たところで海が見えた……時には『ほえええええ!』と。頑張ったね。
『お主ら飛行スキル、ズルいのじゃ!』
『あはは……、えっと、一緒に飛びます?』
『よいのか!』
食いつく魔王。着地予定の頂上につく前に手を伸ばす。
空中で魔王の手を取り、引き寄せる。
『おお! 浮いたのじゃ!』
めちゃくちゃ嬉しそうだ。
『あ、場所は教えてね』
『任せておくがよい。あの遠くに見えている島の向こうじゃ』
言われたとおり、大きめの島を通り越したところで見えてきた小さな島。
『あれじゃ。だいたい真ん中あたりに神殿が見えてくるじゃろ?』
『本当だ。あの近くに降りればいいんだね』
あちこち崩れ落ちているけど、パルテノン神殿みたいな建物が建っている。
『うむ。じゃが、気を付けるがよい。地龍がうじゃうじゃいるからの』
言われたとおり、数百匹はいそうなワニの大きなやつらが見えた。
気配的にワイバーンと同じくらいの強さに見える。
『いっぱいいますわね。ドライ、地龍は美味しいですの?』
そこなの……確かに気にはなるけどね。
『ちょっと待ってね。もう少し近づかないと鑑定できないしね』
『地龍は美味しいわよ。ワイバーンもだけどユートがよくステーキにしていたわ』
『ドライ! 勇者ユート様が食べた地龍ステーキは食べねばなりませんわ! しっかり狩りますわよ!』
『血抜きは任せてね。あ、一匹くらいは踊り食いしてもいいでしょ? あんなにいっぱいいるし』
予定していたレベル上げもできるし、美味しいならそりゃ狩らないとな。
イス……踊り食い……。『いいよ』と返しておいた。
『お主ら……まあ、良いが、怪我なぞするでないぞ』
「お主ら……なんなのじゃその強さは……」
地龍狩りを始めて、一時間ほど経った時、神殿の階段で俺たちの戦いを見ていた魔王がつぶやいた。
「調子いいですわ!」
「す、凄いです! 力がどんどん湧いてきます!」
『ひゃっふーい! どんどん来なさい!』
島にいるほぼすべての魔物たちが集まってきてると思う。
途中、地龍の数が減ってきたので、ふと思い付き、聖剣を出してみたところ、地龍以外の魔物たちも集まってきてくれたからだけど、レベル上げも順調だ。
「そろそろ打ち止めみたいだけど、最後まで一応気は抜かないでね!」
気がつけば、俺とリズ、イスのレベルが文字化けしてる。
キャルはまだだけど、もうここの魔物じゃ怪我もしないはずだ。
しかし、聖剣によってくる魔物……考えるとめちゃくちゃハードモードだよね。
この名もなき島に上陸したら、ずっと戦い続けなくちゃならなくなるってことだろ?
俺たちみたいに、飛行スキルで目的の神殿まで来れるならまだマシだと思うけど……。
あ、そうか、歴代の勇者たちも俺たちみたいに、ここでレベル上げしてたってことか。
そんなことを考えているうちに、集まってくる魔物も減りはじめ、ついにはいなくなった。
「最後ですわ! えい!」
虹色に輝くオリハルコンゴーレムを縦に切り裂いたリズ。
「こっちも終わります!」
真っ赤なヒヒイロカネゴーレムを、かかと落としで地面に叩きつけるキャル。
『ていやー! おっしまーい!』
ゴールドゴーレムをにょろにょろと伸ばした触手で殴り飛ばすイス。
ペチって聞こえるのに、威力はバグってるな。
「俺もラスト!」
足が遅いからか、最後はゴーレムだけになったけど、俺もリズと同じオリハルコンゴーレムを真っ二つにして、ストレージにしまう。
気配を探っても、俺が探れる範囲には魔物はもう陸地にはいない。
「みんな、お疲れ様。怪我とかしてないよね?」
と、言いながらみんなのところに歩み寄っていたのに、目の前に地面が迫ってきた。
あれ?




