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第102話 魔王って……

「お か え り な さ い ま せー」


『ねえドライ。教皇とか聖騎士たちを捕まえてる間に凄く増えてない?』


 魔牛の群れの真ん中あたりで、リズがぶんぶんと手を振り出迎えてくれた。


 イスの言う通り、百頭をゆうに越すだろう魔牛が(ひし)めきあってる。いや、数百か?


「どうなってんだよこれ……」


「ドライ様とイス様がお出掛けのあと、高原中から集まってきているようです。いかがいたしましょう」


 そしていつの間にか隣にいるカイラさん。


「いっそのこと、このままフェリル村につれていこうか……」


「生息地が二ヵ所に増えてしまいますが、フェリル村も高原。こちらとそう環境の違いはなさそうですので大丈夫かと」


 カイラさんの言う通り、標高も気候もそう変わらないかも。


 でもそうすると、この高原の魔牛がいなくなって……ならないな。


 まだまだこちらに来ようとしてる魔牛が遠くに見える。


『これ、早く決めないと一度に転移できなくなるわよ』


「そうだな、まだこれくらいなら俺とイスの転移で行けそうだし。数が増えるのはなんとか村人に頑張ってもらおう」


『じゃー決まりね。ささっとやっちゃいましょ』






「――と、言うわけで魔牛を連れてきました」


「…………」

「…………」

「…………」


 放牧中の村人たちの前に、魔牛と共に転移してきたあと、簡単に説明したんだけど……。


 みんな固まったまま魔牛の群を見つめている。村人たちが正気に戻るまで、数分かかったけど、問題なく魔牛は受け取ってもらえた。


「いやはや、とんでもない人たちに頼んでしまったようですな。ささ、食べてくだせえ」


「まったくだ。これは出稼ぎに行ったものたちを呼び戻さなければなりませんな。こっちの料理もどうぞどうぞ」


 と、突然始まった歓待の料理をすすめる大人たちと――


「魔牛さんいっぱーい」

「私も魔牛さんに乗りたい!」


 村の柵越しに集まった魔牛たちを見て、喜ぶ子供たち。


 うん。村人より魔牛の方が圧倒的に多い。数えてくれたみたいだけど、もといた魔牛もあわせて五百匹ほどになったらしい。


 ミルクはもちろん、チーズは作れる数は少なかったそうだけど、人気だそうで、これからは増産するそうだ。


 お土産に少しいただいて、帰ろうとしたその時。


『なにか飛んで来たわね。連れてきた魔牛が襲われるかも?』


『飛んできた? またワイバーン?』


『違うわね。これ、どっかで感じた魔力なんだけど…………どこだったかしら?』


 いや、聞かれても知らないけど……。


 んー、でも俺が感じる魔力量だ、と……俺たちの中で一番少ないアンジーよりちょっと上くらいの魔力量かな。


 結構強そうだ。


『んー。わかんないけど、攻撃してくる感じじゃないわね』


『だね。人みたいだし、降りて……落ちてくるしね』


「お主ら息災であったか! またチーズを買いに来たのじゃー! ぬぬ! 魔牛どもが! 危ないのじゃ! そこどくのじゃ!」


『ドライ、このままじゃ魔牛にぶつかるわね』


『だね、って、駄目でしょ!』


 柵の外に集まっている魔牛のところに落下してくる。


「転移!」


 落ちてくる子の手前まで転移して、受け止める。


 ドスン!


「おっと!」


 勢いで魔牛の背中ギリギリまでに押されたけど、被害は無しだな。


 というか、腕の中で体を縮こまらせてる女の子。……魔王の現身(うつせみ)って……。


 魔王じゃん!


「……ぬ? なんじゃ? 落ちておらん?」


「……えっと、魔牛の上に落ちる前に受け止めたんだけど……」


 どうすりゃいいのこれ! 魔王だよ!


「おお! それはすまんかった。わらわは――」


「あっ! マオーちゃんだ!」


 え?


「マオーちゃんまた来た! 遊ぼー!」

「お兄ちゃん浮いてる!」

「マオーちゃん、また冒険のお話聞かせてー!」

「すごーい!」


 んー。お知り合い?


「任せるのじゃ! たんと遊んでやろうではないか!」


『あー、魔王だったのね』


 魔王だったのね、じゃないよ!


「お主、すまぬが下ろしてくれんかの?」


「えっと、そう、だね……」


 礼儀正しいし、村の子供たちとも顔見知りみたいだし、とりあえず、危険はないのか?


 飛行スキルで魔牛の上から移動して、柵の内側に着地。


 抱きかかえていた魔王をそっと下ろすと――


「ふむ。すごいのお主。飛行スキルを使えるとは中々やるのう」


 真っ赤な髪の毛と同じくらい赤い目をした、女の子が見上げてくる。


 白いワンピースを着てるし、普通の子にしか見えない。


 うんうんと頷き、笑いながらぽすぽすと肩を叩いてくる魔王。


 ………………イメージと違うんですけど!


「村長よ! チーズを買いに来たのじゃ! 子供たちと遊んでおるから準備を頼む!」


「いつも通り十日分ですね、用意しておきます」


 村の人に話を聞くと、だいたい十日に一度、チーズを買いに来るそうだ。


 買いに来ては子供たちと遊んで帰るらしい。


『ねえイス。あの子、魔王だよね』


『そうね。封印はどうしたのかしら。それに、あんな性格じゃなかったんだけど……ま、この村に実害は無いみたいだし、いいんじゃない?』


『いい、のか?』


 村の子供たちを軽々と持ち上げ、ジャンプしながら魔牛に乗せてやってる魔王。


 魔物だから魔王が復活すれば凶暴化するはずなんだけど、大人しいままの魔牛。


 どうしたらいいんだこれ……。

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