第100話 尋問は……
「首狩り、起きたか。なぜ依頼に無い殺しをしようとした」
「……失敗か。ならば死ぬだけだ! 申し訳ありませんアザゼル神様! ――っ!」
床に転がったまま、ギラギラとした目で俺たちを見上げ、叫びながら奥歯を噛み締める動作をする首狩り。
歯に仕込まれてた毒はイスに取り除かれてるからもう無いんだけど、潔いよな、この手の人たちって。
それにアザゼル神、ね。この人、可能性は高いと思っていた教会の刺客だったか。
どうやって聞き出そうかと思っていたけど、勝手に白状してくれて助かるな……。
「――――こ、これは」
「洗いざらい話してもらおうか首狩り。依頼主は誰だ」
「くっ! は、話すものか!」
焦りはじめる首狩り。顔が真っ青だ。って血止めしてなかったよ!
「とりあえず回復!」
一応ギルマスさんが切り口の上をロープで縛ってあったけど、回復魔法で傷を塞いでおく。
いくら縛って血止めしていても、床の血を見れば、少々流しすぎてる。
「はぁ、せっかく死なないように毒を取り除いたのに、出血多量で死ぬところでした」
『ドライって、ホント肝心なところで抜けてるわよね。もっとしっかりしないと駄目よ』
『うっ、反省します……』
一応クリーニングで血をキレイにして傷口を見ると、完全に傷は塞がっていた。
本当にやらかしそうになるの気を付けないとな。
そう言うイスだって今みたいに窒息寸前にしてるからお互い様だよね?
あれ? 俺がやってって言ってるからか? ……うん。ドツボにハマりそうだから、止めておこう。
これからはもっと気をつけて、やらかさないようにしないとな。
「ふぅ、ギルマスさん。この人、教会関係ですね。それもアザゼル派の」
「教会だと? まさかアレの怨みで、ということか」
話しぶりからして、このギルマスさんは熱病の原因を知っているようだ。
「ですね。最近は直接狙って来なかったので忘れてました」
「おいおい、軽く言うな、首狩りレベルの刺客や暗殺者はそういないが、良く生き残れているな」
「そうですね、この方が今まで殺そうとしてきた中で、一番レベルも高いですが、百人くらい襲って来ても負けないですね」
「首狩り百人でも負けないか……さすが英雄、と言ったところか」
「はい。ということで教会のアザゼル派の刺客さん。今回も失敗だったのですが、今回は犠牲者も出ました」
「……それがどうした。犠牲者が出るのが嫌ならさっさと死んでおけば良い」
あら、これまでの刺客の人たちとは違って結構喋ってくれるな。
「そもそもアザゼル神様の敬虔なる使徒たる我々がもたらそうとした救済の儀式をお前が台無しにしたのがことの発端だ!」
「アレが救済?」
本気で言ってるのか?
「その通りだ。アザゼル神様復活の時期が近いというのに、邪魔ばかりしおって! 死んで詫びろ!」
アザゼル神が復活、か。
「ねえ、それは魔王とは違うの?」
「魔王はアザゼル神様復活の障害に過ぎない。だから勇者には魔王を倒して貰わねばならんと言うのに、負の感情を集めることにしか役に立たん」
……なんだか新しい情報が一気に出てきたぞ。
教国の、じゃないな、アザゼル派の目的はアザゼル神の復活と言うこと。
封印されてる魔王がアザゼル神の復活を防ぐ障害だから勇者に倒させたい。
だけど、勇者は……まあ、アレだし、役立ってないのか。
いや、負の感情ってなんだ?
「ねえ、負の感情ってなに?」
「そんなこともわからないとは情けない。負の感情というのはだな、――」
おお、教えてくれるのか……。
人々が苦しんだり、怒ったり、悲しんだりする感情のことだそう。それを集めて浄化してくれるのがアザゼル神とのこと。
というか、そう言えば五年前までのクリーク辺境伯領がそうじゃないかそれ……。
俺が悪の元凶になってたけど、今はクリークなら俺を悪く言う人もほとんどいない。
でも……負の感情を浄化するアザゼル神を復活させるために人々をわざと苦しめるとか……マッチポンプじゃん。
その負の感情を力に変換できるのが魔王だから、さっさと封印か殺してしまいたいそうだ。
……魔王の討伐、逆に防いだ方が良くね?
確かに魔王が封印から解かれると魔物たちが凶暴化するって言われてる。
だから凶暴化した魔物に襲われるかもって恐怖心が出てくるし、またそれを魔王が力に変えていく。
……こっちもマッチポンプじゃん。
「――たかが魔物の王がアザゼル神様の邪魔をするなどあってはならないことだ。それを貴様が勇者様を無実の罪で捕まえるとは!」
あ、それも怒ってるのか。でも無実じゃないからね。
「英雄ドライ。前々から思っていた個人的な意見だが」
「はい」
「あー、冒険者ギルドと内緒のアレの立場で言うと……」
どちらの支持になるかわからないけど、何を言うんだ?
「王がな、英雄ドライにだけは手を出すなと言われてる」
んーと、手は出されたよね?
「……今回の件も、英雄ドライのためになると口封じは受けたんだ」
ああ、なにもなかったことにしたかったのか。
「それに関してはすまなかった」
深く頭を下げるギルマスさん。
「だからこうやってギルドの膿を出してくれたことには感謝しかない」
「いえ、たまたまですよ」
これ以上はここでやることも無いな。
「では、首狩りを王城につれていきますね。衛兵さんたちには、そのことを伝えてくださいね」
「わかった」
その返事を聞き王城の応接室に転移したんだけど……。