第三章 1
草地を抜けると、森が広がっていた。
オルキデアの暮らしていた塔を囲む森は、泉があったり鳥が飛んでいたりして、それらを目で見て楽しむことができた。しかし今足を踏み入れたこの森は樹々も黒く鬱蒼としていて、鳥の影すら見ることはできない。
暗くて、なんとなく湿っていて、それでいて緑のにおいと樹の香りがした。
「静かなところですね」
「冬だからな。冬の森には、魔物が棲む。だから人は近づかない」
自分が育った場所には、花が咲き蝶もいた。冬でも日が射しこんで、明るかった。魔物など、棲めようはずもなかった。
途中立ち寄った街で、冬のための服を買った。寒くなるので、分厚い外套も揃えた。
季節は十二番目の月の前半、大雪である。表に出ると、白いものがちらついてきた。思わず手で受け止め、掌の熱で溶けるそれを見ていると、
「雪だ」
ヘクターが白い息を吐いた。
「これが雪……」
「あんたのいた森じゃ、降らなかったかもな。あの辺りは暖かいから」
行くぞ、と促されて、歩き出す。
冬の街の寒さに追われるように、人々が急ぎ足で歩いている。これからあの暗い森に出かけていくことを思うと、少しだけ心が重くなった。
道なき道を、人が歩いている。どうやら、彼らも森の方角へ行くらしかった。
「森も冬支度をせにゃならん。そのために行くんだ」
またも、知らない世界がそこにあった。
これから待ち受けているものはなんなのだろう――オルキデアの一抹の不安をよそに、馬は森へと入っていった。




