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プロローグ

 財力溢れることでは頓に高名なメルツァ王国の国王は人情に富み、善人には寛大、悪人には厳しい裁きを下すことで知られ、性格は温厚で才知に長け、いつもにこにこと微笑んでいて、愚痴や文句を言うところを聞いた侍女女官はおらぬという。

 その国王の妃というひともまた才女であり、穏やかな性格で本を愛し、絵の才能を持ち、歌がうまく、花をいつも側に置く女性であった。

 そんなわけで、国王夫妻は民にとても愛されているのである。

 国王の能力の高い財力に恵まれた国、と聞けば、およそ国民にも王室にも悩みというものなど存在しないかのように思われるメルツァ王国であるが、しかし、悩みはあった。

 国王夫妻に、子供がいないのである。

 若い頃は色々と挑戦もしたようだが、齢五十を過ぎれば諦めもついてきて、側近のなかから後継者を選ぼうだとか、遠国の第二か第三王子辺りを養子にもらうのではどうかなどという話が出始めていた。

 その王妃が、懐妊した。

 四十二歳での妊娠である。

 国民は国を挙げてこれを祝福し、届け物をして王妃の体調を気遣い、日に日に膨れていく王妃の腹同様、期待に満ちて出産の日を待った。

 そしていざ産まれた子供は愛らしい女児であった。王女の誕生である。

 民は将来の女王の誕生を心より慶び、王城は祝いの品で溢れた。

 王女には蘭、という意味を持つ、オルキデアという名がつけられた。

 人々が注目したのは、その瞳の色であった。

 金色がかった緑の目を、オルキデアは持っていた。筆舌しがたく、絵に描くには不可能とまで画家に言わしめた、そんな不思議な色をしていた。

 オルキデアは宮殿で、大切に大切に扱われて育った。何不自由なくものを与えられ、本を読んでもらい、人形遊びをして日々を過ごした。

 そんなオルキデアが五歳のときのことである。

 城の庭で、オルキデアは母と二人で遊んでいた。侍女も女官も伴わず、王妃はよくこんなことをする。親子二人の時間を大切にしたいと思ってのことだ。

 走り回るオルキデアを抱き上げて、王妃は言った。

「まあこんなに汗をかいて。あとでお風呂に入りましょうね」

「おかあさま、もっとはしる」

「はいはい、どうぞ」

 オルキデアを遊ばせて、王妃は微笑む。高齢になってからの初めての子供である。目に入れても痛くないとはこのことであった。

「さあ、今日はあなたにこれをあげましょうね」

 そう言って、王妃は首に下げていた鎖を外してオルキデアの首に着けた。

「なあにこれ」

「お守りです。いつもあなたを守ってくれますように」

 と見てみれば、複雑な彫りの施された真円の中心に小さな赤い宝石が嵌めこまれた、銀細工である。

「さあオルキデア、こっちにいらっしゃい」

 娘を膝に乗せて、王妃は話す。

「いいですか、いつもひとを愛する心を持っていなさいね。誰かの嫌がることをしないこと。自分がされて嫌なことは、ひとにもしない。自分がされて嬉しいことを、ひとにしてあげる。いつもそれを思っていなさい」

 と言ったところで、相手は五つの子供である。にこにこと笑っていて、理解できたのかできていないのか、わかる由もない。

「おかあさま、あとでごほんを読んでくれる?」

「いいですよ。今日はなんの本にしましょうね」

 と、王妃がオルキデアを解放して、また娘があちらへ歩き出した時のことである。

 一陣の風が吹いたかと思うと、突然一人の老女がそこに現われたのだ。

 その風で思わず目を瞑っていた王妃は、老女の出現に声を出すこともなく驚きのあまり立ち尽くしていた。

「オルキデア、こちらにいらっしゃ……」

「ひっひっひっひっ。親子団欒のところをすまないが――」

 と、老女は足元のオルキデアを抱き上げ、

「ここで退散」

 口のなかで何事かを唱え、再び風が巻き起こったかと思うと、たちまち老女の姿を隠してしまったのである。

「オルキデアーっ!」

 老女の側へ走り寄るもあとの祭り、老女は娘と共に忽然と消えてしまった。

 王妃は錯乱状態となって娘を探し回った。騒ぎを聞きつけた侍女たちがやってきて、すぐに衛兵が呼ばれた。誰もが王女を捜し歩いた。

 しかし、彼女は見つからなかった。

 王女、謎の魔女にさらわれる、という一報は、国中を巡った。

 王女の特徴は黒い髪に金色がかった緑の瞳、それだけである。見つけた者は、賞金をとらせると国王は発表した。

 その額、金貨十万枚。

 途方もない金額の賞金に目がくらんで、色々な国の様々な人間が王女を探した。手がかりは、一度見たらすぐにわかる金色がかった緑の瞳だというので、黒髪に緑の目をした少女が数多く王城に連れてこられた。

 しかし、どの少女も該当する者はいなかった。

 賞金は、一年経つごとに一万枚増やされていった。

 その額が二十万枚に達した頃、王女の生存を危ぶむ声が聞こえ始めた。しかし、宮廷お抱えの魔導師はきっぱりと言った。

「王女様は、生きております。生命枝の術を使いましたから、これは確か。どこかで生きておいでです。しかし非常に強力な術の結界のなかにいて、わたくしではその居場所まではわかりません」

 彼は毎年玉座の間で同じことを言った。

 そうして、誘拐の日から十三年が経過したのである。

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