夜11時
8月26日。もうすぐ夏休みが終わる。
学校に行くことを想像するだけでもう嫌だ。今日はなるべく夜は夜更かしをして、眠らないようにする。朝が来ると始業式に近づいてしまうから。
いつも私は、学校の前の日の夜は明日が来なければいいのにって考えている。世の中の人に愛されている歌では、明日があることを希望のように歌っているけれど、明日がこれからもずっとずっと続いていくことの、避け難い不安、嫌な感じをなんでわからないんだろうって。
私は普通ではないんだろうか。
学校に行くと、私は誰とも話さない。話しかけ方がわからない。本を読んだり勉強をするのは好きではないけど、そうしていると一人でいることの理由ができたような気がして、だから休み時間は本を読んで勉強をする。昔は運動場に行って四葉のクローバー探しをしたり、綺麗な砂を集めたりしていたけど、ドッジボールが飛んでいるのが怖くてやめてしまった。一人で教室を出て運動靴に履き替えて運動場に行くのも不安だ。
友達はできない。クラス替えの時に、勇気を出して大人しそうな女の子に話しかけたこともある。でも、女の子と一緒にいても何を話したらいいかわからない。私は頑張って会話を続けようと話題を振った。確か、机の上にあった文房具とか筆箱について触れたんだと思う。そしたら、私を観察していた周囲のクラスメイトから「これが陰キャの会話か〜頑張れがんばれ」って馬鹿にされた。それが耳に入ってきた瞬間に、今自分がしている行為が恥ずかしいことのように思えてきて、その女の子に話しかけることもやめたし、迷惑をかけてしまったなと後悔した。それに、そもそも家族以外の人と一緒にいて楽しかったことを思い出せないから友達なんていらないかもしれない。
隣の人と一緒にワークをする時間は地獄だ。英語の時間に、隣の席の男子と問題の答えを確かめ合う時間があった。席替えで私の隣になった時から嫌そうだったけど、ワークの時間はもっと嫌そうで、私に話しかけることをせずに、後ろの人とか私の後ろの人と雑談をして答え合わせをしている。私はいたたまれない気持ちになって、早くこの時間が終わってほしいって思う。でも、先生にワークの答えを当てられたらどうしようって。怯えて緊張してる自分のことを馬鹿みたいだなって思う。
家では全くの別人みたいに大きな声で喋れるし、ツッコミもできる。弟と妹とも会話は続く。家の中では私はしっかりものの姉御なんだから、家族に「学校で友達ができない」ましてや誰とも会話ができないなんて相談できるわけがなかった。
なんてことを頭でぐるぐると考えているうちに1時間が経っていて、家族はみんな眠りに落ちている。時計の音だけが部屋の中に響いていて、外からはバイクの音がたまに聞こえてくる。
一度、お母さんに相談したことがあった。「おやすみ」って言った後、朝が来るのが嫌だからベッドの中で夜更かししてるんだよって。
そしたらお母さんは、明日なんてどうせ来るんだから早く寝た方がお得だよって言ってた。確かにそうだなって思ったけど、いつもと同じ明日がずっと続いてることへの不安の解決にはならないなって思った。だって学校には行かなければいけないし、学校が嫌な場所なのは変わらないから。
眠りたくないって思いながらも身体はどんどん眠くなってくる。頭の中ではいつも眠らないでいようと思うのに、いつのまにか思考が止まっている時間が長くなって、私は朝を迎える。