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3.術者の夢の世界

 「…………え?なに?」


 何か聞こえたような気がして聞き返すと、見たことのない和室の中で立っていることに気付く。

 俺は右手に何か棒状のものを持っていた。


「大幣?」


 持っていたのは大幣。神主さんが振るお祓い棒だった。


「……ん?俺和服着てる?……あ……」


 過去の経験から気付く。

 明晰夢を見ている感覚に近いが、『自分の夢』という感じがしねえ。

 粘性を増した空気が身体に纏わりつくような独特の嫌な感覚がある。

 術者の夢の世界に引きずり込まれたんだろう。


「目は覚めた?」

「うお!?」


 後ろから声を掛けられ、驚いて振り向くと巫女服を着た若い女が立っていた。


「ふうん……それじゃまずは『私に平伏しなさい』」

 

 何言ってんだ。

 と思ったが巫女服女に向って膝を着き、頭を畳に擦りつけるように平伏してしまう。


「命令服従の霊術は上手くかかったようね。顔を上げて。『貴女に服従しますと誓いなさい』」

「貴女に服従します」

「よろしい。『立ち上がりなさい』」


 言われたとおり立ちあがる。

 ……いやこれヤバいぞ。

 命令に服従させられるなんて霊術を掛けられたのは初めてだ。

 俺自身の意識はあるのだが逆らえる気がしねえ。

 そしてわざわざ服従させる術を掛けたということは。


「これから拝殿で結婚式があるの。あなたにはそこで祝詞を上げてもらうわ」


 まあ、俺に何かさせようってことだよな。

 冥婚って推測は合っていたわけか。

 ただ、俺に当てられたのは新郎役じゃなくて神主役だったと。


 ところで俺祝詞なんて知らねえけど。

 と言おうとした次の瞬間、祝詞の文言が頭の中に湧き上がってきた。

 意識がはっきりする前にこの巫女服女に刷り込まれたのか?

 睡眠学習って本当にできたんだな。


「祝詞を上げ終えれば儀式が完了して夢から目覚めるわ。そしたら『さっき買ってきたビニール紐で首を吊って自殺しなさい』」

「俺ビニール紐なんか買ってねえけど?」


 いやそんなことより自殺を拒否しろよ。

 と自分でも思うのだが命令には逆らえねえ。 

 このままだと目覚めたあと自殺することになるのは確実だと焦躁が深まる。

 儀式の完成前にこの夢から逃げたいところだが、夢から自力で目覚めることはできねえ。

 確かスマホの目覚ましは朝6時にセットしてたはずだがそんな時間になる前に儀式を終わらせるだろう。


 一方、俺の返答を聞いた巫女服女は「え?」と怪訝そうな表情を見せたが、すぐに元の無表情に戻る。


「じゃあ代わりに『部屋のタオルで首を吊りなさい』さ、拝殿にいくわよ。『付いてきなさい』」


 巫女服女が背を向けて歩きだしたので付いていく。


「……って近い!なんですぐ後ろにピッタリ付いてくるのよ!?『離れなさいよ!』変態!」


 と巫女服女に命令されたので離れる。


「ちょっと!どこまで行くのよ!離れすぎよ!常識的な距離を取りなさいっつってんのよ!ああ、もう、そこ!そのへん!『私から2メートルくらい離れて付いてきなさい!』いい?行くわよ!」


 再度俺は命令どおり距離をとって前を歩く巫女服女に付いていく。


 渡り廊下を通って拝殿と思しき建物の中に入るとそこには新郎新婦と一組の老夫婦が待っていた。

 開いた扉からは雪化粧に覆われた景色が見える。

 つまりは部屋に掛けられた絵と同じ状況だった。



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