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1.3台のベッド

ミステリコメディーホラー

しいな ここみ様主催「冬のホラー企画3」参加作品です。

「まあ、ここらの旧家じゃ昔っから嫁入りの時期だしな。?なんだ、兄ちゃん知らんかったんかい?春から冬の初めまでは農作業があるし、春前の2ヶ月くらいは雪が積もって動けん。今時期に嫁入して皆で新しい年ば迎えるんさ。ん?もう年は明けてる?ハハハ、そりゃ新暦の話だろ。昔は旧暦だからまだ年は明けてないんさ。そうそう。だから花嫁衣装なんてのも冬用しかない。夏にあんなの着てたらぶっ倒れてしまうわ」


(良村勇人の調査記録より抜粋)


 ◇◆◇


「はあ、なんかついてねえ日だな……」


 ここは東北某県の地方都市。

 しがない『何でも屋』の俺は調査の依頼を受けて東京から出張していた。

 日帰りのつもりだったが、いつもはやらないような小さなミスを連発し、仕事はやり遂げたがJRの最終便を逃してしまう。

 なのでやむをえず一泊することとし、『もし日帰りできなかったらここに泊まろう』と事前に調べていた特別割引キャンペーン中のホテルの予約をとる。

 降る雪を浴びながらそのホテルへ向う途中でコンビニに寄ったとこだ。 

 不運をぼやきながらサンドイッチや飲料などをカゴに入れレジで精算していた。

 しかし何か買い忘れたような気がする。

 それが何だったか思い出そうとしてたところ


「ジリリリリン!ジリリリリン!ジリリリリン!」


 と大音量でベルの音が店内に響き渡る。

 俺のスマホの着信音だ。

 店員達は驚き、隣の客は不快そうな顔を俺に向ける。

 まあ、当然だろう。

 音量を最大にしてあるうえ、昔懐かしい電話のベル音なのだから(うるさ)さ感が半端ない。

 レジ袋と領収書を受け取ってあたふたとスマホを取り出しながら出口に向う。

 さっきの客が舌打するのが聞こえた。

 スマホの画面には今回の依頼主である北構(きたがまえ)(じん)の表示があったので通話に出る。


「あ、迅君?ども、勇人(はやと)です」

「お疲れ様です。迅です。LINE読みましたよ。災難でしたね」

「そんなわけで申し訳ねえけどそっちに着くのは早くても明日の午後になりそうっすね」


 仕事の電話なのだが迅君が高校生の時分に知り合ったため、どうにも俺の口調が軽くなる。


「それは構いません。あ、余計に掛かったホテル代とかの領収書もらってきてくださいね。経費で出しますので」


 本当この依頼主は金払いが良くて助かる。


「ただ先日も言いましたが、今回嫌な予感がします」


 迅君は言わば現代の陰陽師みたいな人で、俺への依頼もその方面のものだ。

 そしてこの人が「嫌な予感がします」と言ったときは大抵何か起こる。


「勇人さんは霊現象に馴染む体質になっているので気を付けてください。私の方でも手を打ちますが」

「用心はしときます。いや~、こんなときスマホに入れとけば守護してくれる霊能アプリとかってねえもんすかね」

「ウチでも開発しようとは」

「え?マジで?それでどうなってるんすか?」

「思ったようには進みませんね。霊力ってとにかく使い勝手の悪い力なんで。普通のアプリ作成のノウハウが通じないって開発担当が愚痴ってました」

「業界ならではの悩みっすね」

「あとデジタル嫌いの一部長老たちの妨害もありまして」

「そこらへんは俗世と一緒なんすね。あ、ホテル着いたんで取り敢えず切ります」

「ええ、それではまた」


 何かは起きるんだろうなと、覚悟半分あきらめ半分といった気分でともかくホテルのフロントに向かった。


 ◇◆◇


良村勇人(よしむらはやと)様、ご一泊。素泊まりでございますね。お部屋はシングルの禁煙、5階の505号室になります——」


 なんかくたびれた感じのフロントのお姉さんの説明を受けてカードキーをもらってエレベーターに乗る。

 5階でエレベーターを降りて部屋に向かう。


「あれ?あ、ここだったのか」


 505号室は廊下の突き当りの部屋だった。

 俺が泊まるようなビジネスホテルは大概突き当りは非常階段や非常窓になっていたので少し戸惑った、がカードキーでドアを開けてカードキーを所定の位置に差し込みドアを閉める。

 照明が点いて部屋の中が見える。


「ん?ああ、突き当りだからこういう造りになるのか」


 普通のビジネスホテルのシングルルームというのは、入口の右手か左手にバスルームがあり、そのバスルーム前を抜けると奥にベッドや椅子がある部屋になっていることが多い。

 しかしこの部屋は入口正面がバスルームで右手は壁。

 左手側に部屋が広がっている。

 要は普通のビジネスホテルのシングルルームを左に90度回転させたような間取りなのだ。

 ただし、広さは普通のシングルルームの倍以上はありそうだ。

 その広い部屋の奥にシングルベッドが足側をこちらに向けて設置されている。


 それはいい。

 問題はバスルームの壁に阻まれた視界の陰にチラリと見えるものだ。

 俺はそれを確認するため靴も脱がずに部屋の奥に入る。


「……どういうことだこりゃ」


 そこにはシングルベッド2台がバスルームの壁側に頭を向けて並んでいた。


 奥に1台、手前に2台。

 シングルルームのはずのこの部屋にはベッドが3台あったのだ。


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