表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
二章 地下訓練施設
8/39

③ 世界の現状

 大講堂での問答のあと、ニコライはそのまま立ち去ってしまったので、仕方なくキールたちだけでエレベーターに乗り込んで地下七階の宿舎まで下りて、また五人だけの食事を摂った。


 食事の間はみな会話もなく、ゲンドウの軽口も、ゴルディの一直線な言葉も、グァンダインの堅苦しい格言も、カリーリの清らかな声すら聞こえなかった。


 何よりキールの勇ましさが失われてしまっていた。


 食事が終わっても食堂の一角でぼんやりと座ったままで、講習室に出向く時間まで無為な時間を過ごした。


「……時間通り揃っていますね」


 天井から響いた不自然な鐘の音に合わせて講習室にニコライが現れ、一段高くなった壇上から呼びかけた。


「基本的に講習室で行う訓練は解説や説明になります。明日からは午前中はこの教室で私が基本的な知識を教えていきます。

 午後は、上のトレーニングルームに専属の教官が居ますから、明日紹介します。

 改めてよろしくお願いします」


 軽く頭を下げたニコライにキールたちも会釈を返したが、やや気後れ気味で五人の動きが揃わない。


「……さて。

 知識だ、説明だ、訓練だ、と何度も繰り返していますが、あなた達の場合は少し特殊なので、この世界のかなり初歩的なところから始めねばならないですね」


 ニコライの語り口は穏やかながら、どうにも見下された感じがしてキールが問うた。


「特殊とは、どういうことでしょうか?」


 一人に一つずつ与えられている机と椅子に座したままのキールの方を向き、ニコライは少し厳しい視線を向けた。


「キールさん。まず発言したい時は挙手をし、発言を許されてから話し始めてください。

 厳しい教官は、質疑を受け付けるまで質問すら許さない場合がありますから、気をつけたほうが良いですよ」


 ニコライの口調は優しかったが、その表情は動かず、無表情に見えて不気味であった。

 が、どうやらこの世界ではキールの行動が無作法であると分かり、そこは素直に謝罪しておく。


「すみませんでした」


「構いませんよ。

 先程のようなところが、あなた達を『特殊』と断じた部分なのです」


 そう言いおいてニコライは彼の背後にある白い板の方を向いて手を動かす。


「――ここになんと書いてあるか、読める方は居ますか?」


 キールは白い板に黒い線が引かれていることは分かったが、ニコライが何を書いたのか分からなかった。

 ただ一人、グァンダインがたどたどしく右手を挙げている。


「グァンダインさん。どうぞ」


「恐らくだが、『常識』と読むはずだ」


「正解です。

 厳密に言えば『一般常識』となるのですが、あなた達にはそれらが欠けているのです」


 キールはグァンダインが正解したことを誇らしく思い嬉しくなったのだが、即座にニコライが注釈を付け加えたことを腹立たしく思った。


 自分たちは仮にも『世界最強勇者隊』と呼ばれる魔王討伐の精鋭なのだ。

 常識なくして善悪の判断などできるはずがなく、キールたちが悪を悪と判断し魔王の手下たる魔物共を狩り、その成果の積み重ねとして『最強』の名で呼ばれてきたのだ。


「一般常識が欠けているとは、随分な言いようですね」


「それは仕方ありません。事実、この世界はあなた達が生きていた世界とは色々なことが違ってしまっている。

 この世界では剣や斧は戦いにおいて主な武器ではありません。

 魔法や祈りに頼る者はなく、使う者すらいません。

 密偵(スカウト)やポイントマンは存在しますが、すばしっこさだけでは生き抜けません。

 生活の水準もそうですし、成人であれば文字が読める前提ですし、礼儀や作法も違います。

 電気・水道・通信・文字、そして新しい武器の使い方も学んでもらわなければならい。

 それがあなた達を『特殊』と断じてしまう理由です」


 キールは初めてこれほどまでにコテンパンな侮辱を受け、自分でも頭に血が上って顔が赤らむのが分かった。


「それは我々の敵についても同じです。

 我々人類は永く、とても永い期間に渡って敵と戦ってきました。

 その戦いの歴史は三千年を数え、滅亡の淵まで追い込んだこともあれば、人類存亡の危機も何度もありました。

 剣や斧や槍の時代。

 魔法と祈りの時代。

 弓矢や投石機の時代。

 騎馬隊や騎馬戦車の時代。

 やがて火薬を発見し、大砲や爆弾を使用する時代を経て、簡素な銃が登場します。

 人類は銃を発明したことにより、圧倒的優位に立ち、敵を駆逐寸前まで追い詰めました。

 ただただ侵攻していったのではなく、銃を進化させ、乗り物を発明し、電力というエネルギーをも生み出しました。

 電力を手に入れた人類は、敵を世界の片隅へと追いやるだけでなく、より強くより勝利へ近付くため、空を飛ぶための飛行機や地を駆ける自動車も生み出しました」


 ニコライが淡々と語っていくうちにキールの怒りは冷め、それどころか発展し続ける人類のたくましさに様々な想像が頭の中を駆け巡った。


 弓矢は狩人が狩りで使っている様子を見聞きしたことがあったし、投石機は言葉の印象から形が想像できたし、石くれを遠くへ投げるスリングという道具も知っていたので、そうした武器が戦いに利用される経緯は想像がついた。


 騎馬も大きな国の騎士団が取り入れていたので知っていたが、騎馬を活用した『戦車』や空を舞う飛行機や地上を走る自動車は全く初めて聞いた言葉だった。


 ――馬が戦支度で荷車を引いているのだろうか?

 空を飛ぶのだから鳥に似た形なのだろうか?

 自動の車とは、馬のいない馬車が勝手に走っているのだろうか?――


 キールがもといた世界で『車』と言えば、荷物を運ぶための荷車か、客車や荷車を馬に引かせる馬車が一般的だった。


 しかし自動車という未知の響きから、地下二階のシミュレーションフィールドで見たデコボコした乗り物を思い出し、乗り心地は悪そうだと思った。


「しかし、勝利が目前だった人類はここから巻き返されてしまったのです」


ニコライが声音を低くして続けた。


「何が起こったのですか?」


 問うてしまってからキールは「しまった」と思ったが、ニコライは咎めはしなかった。


 ただ、ニコライの表情は人類の進歩を話していた頃と大きく変わり、キールたちに不安を抱かせる。


「敵はいつの間にか人類と同じ装備を用意していたのです」


 キールたち五人の頭の中に、先程ニコライが見せてくれたハンドガンで武装した影色の大群の映像がよぎる。


「恐らくどこかで捕えた同志の装備を研究し、情報を聞き出したのでしょう。

 優勢だったはずの我々は、敵が戦闘機や戦車を操縦し、マシンガンを携えて特攻する様に恐怖しました。

 敵は負け続けているように見せて、その裏で発電施設を建て、金属を加工し、火薬を調合し、我々の作戦や戦略も真似て見せたのです。

 体格こそ我々と変わらぬのに、知能も同レベルの賢さで、不死身とも思える体力と打たれ強さがあるところへ、銃という武器を真似されてしまった。

 この三千年、我々人類はずっとこうしたせめぎ合いを続けてきましたが、現在人類が領土として守り通しているのは、この地下訓練施設とその周辺のみなのです。

 一時期は百億を数えた人口は、数万人というところまで追い詰められているのです」


 言葉を切ったニコライは、悔しげに顔をうつむかせてしまった。


 これまでずっと淡々とした語り口だったニコライがそんな悔恨を見せたので、キールたちも何も言えなくなってしまう。


 この世界に来る前、キールたちがアイルノン王国から魔王討伐に向かった際の情勢を考えると、まだ世界の半分は人間の領地であった。

 人口も数千万はいただろう。


 それと比べるだけでも、百億の人間が数万人に減ったとなると、いかにこの世界が危機に瀕しているかが分かる。


 この地下訓練施設が正に最後の砦なのだろう。


「……一つ、いいでしょうか?」


 ニコライの様子を気にしながらグァンダインが手を挙げた。


「……なんでしょう?」


「先程の話では、敵は人間並の知能を持っているとおっしゃられた。

 体格も人間に近く、ただ不死身とも思えるほどの体力と打たれ強さだ、とも。

 ……もしや、その肌の色は青や赤、緑や茶色や灰色ではありませんかな?

 位が上がるほど黒や闇色の肌になるのでは?」


 ゆっくりと、確かめるように問うグァンダインの声に、思わずキールたちはグァンダインを振り返る。


「グァンダイン、それは――」


「そう。我々が戦いほふってきた魔王の手下たる魔物たちの特徴にほかならん。

 しかし、ニコライ殿のあげられた特徴と非常に酷似している」


「そうなんですか? 敵とは、魔物どものことなのですか?」


 グァンダインの予想を聞き、キールは椅子から腰を浮かせてニコライに問うた。


 ニコライが答える。


「我々はデ・ミニオンと呼んでいます。 『魔物の手下』という意味ですから、あなた方の言う『魔物』に近いかもしれません。

 グァンダインさんの質問にあったように、上位の者の肌は黒く、心の弱い者では直視するだけでも気が触れてしまうと言われています。

 その頂点に君臨する者をコードネームで『魔王』と呼んでいます」


 陰鬱な調子で答えたニコライの声にいざなわれたのか、キールは体を震わせて椅子に腰を落とした。


 またあの魔王ザ・リダンダリ・ラリの聞き心地の悪い笑い声が聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ