① 真相
魔戦士ガラ・ラ・ロームは炎に包まれてから意外と早く燃え尽き、グァンダインとゾルアディスが狙撃ポイントから移動してきた頃にはまがまがしい鎧と銃だけしか残っていなかった。
「私の用意した銃が役に立って良かった。
炎熱魔法を弾丸に付与させて封じ込めただけの代物だが、これほどの効果を持とうとは。
勇気の弾丸。
効力に相応しい名前が付けられたものだな」
キールからリボルバーを返却されたグァンダインは、弟子を誉めるようにキールの肩に手を置いた。
「さすがはSBってとこだな、おい」
「カッコよかったわよ」
「正しく『希望の勇者』らしい働きでした」
傷の手当てが終わった者から順にキールの元へ集まり、手放しの称賛が続いてキールは困ってしまう。
「よしてくれ。
無我夢中で、出来ることを全力でやっただけなんだ。
みんなのフォローやカバーが無ければ俺は死んでいた。
特に、グァンダインが用意してくれた弾がなければ、全滅だってあり得た。
称賛されるべきはグァンダインだよ」
頭をかきながらキールはグァンダインへ話を振ると、グァンダインはそれを片手で払って言ってのける。
「確かに私が用意したものだ。しかし、撃ったのはキール、君だよ」
「そのとおりだ。これは君の戦果だよ、SB」
キールを囲む輪にA1教室のコマンダーが入ってきてそう言った。
「まいったな。
戦果は戦闘に参加した全員で得たものでしょう。
私一人のものではありませんよ」
「そういう君だから讃えられるのだよ」
そう言って右手を差し出したA1のコマンダーに対し、キールは言い返すことができなくなり、照れくさいが彼と握手を交わした。
ユーゴ大尉から無線が入り、デ・ミニオンの死体の後始末や味方の応急手当が済んだことが伝えられ、帰還の指示が下された。
キールたちにはガラ・ラ・ロームが残した鎧と銃の回収も命じられた。
「此度の任務、よもや士官レベルのデ・ミニオンが居るとは想定していなかったが、よく討伐を果たしてくれた。
諸君らのあげた戦果は、もはや訓練生の域を超え、実戦配備に相応しいものと判断する。
準備が整い次第、キールを中心に特別編成の中隊として稼働してもらう。
これまでは防衛が主だった戦闘だったが、以後は積極的な討伐と、人類の領地拡大を目指した作戦に参加してもらう。
これまでよりも厳しい戦いが続くことは間違いなく、その覚悟で任務にあたってもらいたい。
以上だ」
デニス大佐の執務室で訓示を聞いたあと、キールたち三十五名はユーゴ大尉に連れられて別室に移った。
「大佐からの訓示の通り、貴様らは間もなく正規の兵士としてこの施設から離れることになる。
それに向けての補足と質疑の時間を持とうと思う。
質問はあるか?」
ユーゴの言葉にキールが即座に手を挙げた。
「私が特別編成中隊の長に選ばれたのはなぜですか?」
懐疑的な表情で問うたキールに、ユーゴは苦笑しながら問い返す。
「働きや素養に見合った任命だ。不服なのか?」
「……光栄なことですが、今回の任務も、前回の緊急出動もギリギリで勝ち得た戦果です。
それも私一人の力ではなく、仲間の協力があってこそです。
どちらも一つ間違えば全滅していたかもしれない。
私が指揮を執れば今後もそうした危険に陥りかねません」
キールの抗弁にユーゴは「ふむ」と頷いて答える。
「戦果とは結果のことを言う。
しかし、その結果に対して勝ち得た理由や要因を顧みないのならば、次の任務では戦死してしまうだろう。
貴様は先の任務について顧みなかったのか?」
「いいえ。
緊急出動の際に私の行動は勇者ではないと断じられ、何日も悩みましたし、何度もあの時のことを振り返りました。
今回の任務についても反省すべき点や、改善しなければならない点は山ほどあります」
「それでいい。
ならばこそお前に任せるのだ。
今は不服であってもこれからは三十人を超える部隊の長なのだ。
任務を遂行しつつ、考え続けろ。答えはそこにしかない。
……他に質問は?」
依然、キールは腑に落ちない顔のままだったが、ユーゴは他の質問を受け付けた。
グァンダインの手が挙がる。
「この世界に移って以降、魔法や祈りは使用できないと聞かされておりました。
しかし、魔法も祈りも発現した。
今回の任務の決め手となったブレイブバレットは、魔法の効果があったればこそ……。
なぜこの事実を隠されているのでしょう?」
グァンダインの質問にユーゴは短い沈黙を挟んでから答えた。
「いくつか理由はある。
一つは、銃火器を用いた戦闘において呪文を唱えている暇はないこと。
もう一つは、戦果は神に祈って左右するものではないことと、神に祈ることで努力を放棄してしまうこと。
そして最大の理由は、神を信じられなくなるからだ」
ユーゴの答えにカリーリとゾルアディス、A1教室の一人が気色ばむ。
「神を信じられなくなる、ですと?」
ゾルアディスが思わず声を上げた。
「ああ、誤解を与えてしまったな。
神は居る。
私も信仰している神がいるのだからそれは間違いない。
しかし、現状では神の行いに対して疑問を抱かざるを得ないのだ。
これは、もっとこの世界に関わらなければ伝わらないことだから、ここまでにしておいて欲しい。
ともあれ、魔法に関してはそういったデメリットを含んでいるし、実戦で魔法が必要とされるのは高位のデ・ミニオンからになる。
アイルノンの言葉で言えば、魔将軍や魔戦士などの眷属と対峙する時となる。
その時までに基礎となる銃の扱いや戦術を身につけていなければならず、魔法に頼った行動を封じねばならない。
諸君らを即戦力として早々の実戦配備に至ったのは、そうした発想の柔らかさや適応力も鑑みての任命だ」
ユーゴの返事にグァンダインは一応の納得はしたようだが、キールやアイガンら以外の他教室の面々は少し話についていけない表情をしている。
――無理もあるまい――
キールたちよりも長く訓練を行ってきた彼らは、これまでの訓練から外れた概念が明かされたのだから、戸惑ったり混乱して当然だろう。
それに追い打ちをかけるようにゲンドウが口を開く。
「あんたはアイルノンを知っていたのかい?
初めて会った時、あんたはアイルノンなど知らないと言ったよな?」
キールもそのことを思い出し、後にニコライからアイルノンが滅んだと示唆され、ショックを受けたことを思い出した。
「その通り。
私はアイルノンの勇者隊に参加していた一人だ。
諸君らと同じように、魔物との戦いに敗れたり逃げ出したりした末に、この世界にたどり着いた一人に過ぎない。
言ってしまえばこの訓練施設にいる人間の全てが、様々な時代から転移してきた勇者なのだ。
しかし最初に祖国は存在しない、ここは別世界だと知らしめなければならなかった。
それがこの施設のルールだった」




