④ 突入
「まさか、そんな……」
キールのそばでカリーリが動揺で声を震わせた。
「魔戦士ってのは、何なんだ?」
キールたちの動揺の理由が分からずアイガンが問うた。
スコープから顔を離しグァンダインがそれに答える。
「もとの世界で悪虐の限りを尽くしていた魔王ザ・リダンダリ・ラリ。
その直近の配下に五体の副将が存在し、魔王の根城から五つの地域へと派遣され、制圧と統治を行っていたのが魔将軍だ。
だが実際に制圧の指揮を執り、人類を破滅に追いやっていたのは魔将軍と同等の力を持つ魔戦士なのだよ」
「そのうちの一体が、あそこにいる、ということかい?」
「あの身なり、あの禍々しさ、間違いなかろう」
サイラムの問いにグァンダインが大仰に頷いた。
「俺達ぁ、ラ・タッタリ・ラーンってのと戦ったことはあるがよ。
奴は確か将軍だったろう?
そいつよりは格下ってわけだ?」
アイガンは少しでも不安を払いのけたかったのか、キールとの会話にも出ていた魔将軍の名前をあげた。
が、ゴルディがこれを一蹴する。
「強さで言えば両者はほぼ等しい。侮ってよい相手ではないぞ」
「そうだぜぇ。
魔王の力を五体で等分したのが魔将軍で、その将軍の複製が魔戦士って話だからなぁ」
ゲンドウが補足するとゼノンとゾルアディスが深刻な表情になった。
「ラ・タッタリ・ラーンと同等とは……」
「厳しい戦いになりそうですね……」
「へ、へへ……。
んじゃあ、俺はグァンダイン大先生の護衛につかせてもらうわ……」
鳥肌が立ったことを誤魔化すように腕をさすりながら、アイガンはそろりそろりと出入り口に下がっていく。
「そんなに恐れることはない。
俺たちはガラ・ラ・ロームを打倒したことがある。
この世界でもきっと倒せるさ」
手元のアサルトライフルを示しキールが全員を見回した。
キールの前向きな言葉と確信を得た表情のせいか、全員から決意の表情が返ってくる。
「そろそろ他の隊も配置につく頃だ。
俺たちも移動しよう!」
キールの一声でゾルアディスとゼノンをその場に残し、グァンダインとアイガンは狙撃ポイントへと走り、残りはスタジアム近辺へと駆けていく。
デ・ミニオンの哨戒や偵察を警戒しながら、頃合いの廃ビルへと潜んだキールたちに、もう無駄口は無い。
ただひたすらに他の隊の準備が整うのを待つだけだ。
「配置が整った。
キール小隊の突入とともに攻撃を開始する。
オーバー!」
ユーゴからの無線を受けキールが振り返ると、その場にいる全員がキールへ頷き返した。
「キール小隊、突入する!」
キールの号令とともに七人は廃ビルから飛び出し、崩れた外壁にゲンドウとスーザンが張り付く。
すぐ後ろにアタッカーたちが取り付く。
ゲンドウとスーザンで目配せをし合ったあと、ゲンドウは左手を振ってゴルディに合図を送った。
ゴルディが立ち上がり、肩に担いだバズーカランチャーを構え、グラウンド中央にたむろしているデ・ミニオンへと撃ち込む。
着弾とともに白煙が広がり衝撃波が起こったが、さすがはデ・ミニオンの本隊だ。間を開けずに無傷のデ・ミニオンがキールたちに向かって駆けてくる。
「行くぞ!」
周囲に起こる着弾をものともせずにキールが飛び出し、アサルトライフルを短く連射して観客席に沿って走る。
カリーリがそのすぐ後ろに付き、ゲンドウはゴルディの武装変更をフォローする。
サイラム・ジャスミン・スーザンはキールたちとは別方向に走り、デ・ミニオンを回り込みながら撃っていく。
「広がるな! 連携せよ!」
グラウンドの中央に陣取ったガラ・ラ・ロームは配下のゴブリンたちに指示を飛ばす。
眷属特有の気分の悪くなる声が響く。
「グァン! ゾル! 援護を!」
荒廃したグラウンドは所々に瓦礫はあるが、だだっ広く身を隠せる盾がない。
そのために視界の外からの狙撃で敵の注意をそらしてその隙きを突く。
程なく、立て続けにスナイパーライフルの銃声が起こり、ゴブリン二体が倒れた。
「ええい! 動きが悪いぞ!」
ガラ・ラ・ロームは苛立ちを隠さず、部下を叱りつけて背中から獲物を抜く。
「ライトマシンガン!」
「剣じゃないのか!」
もとの世界ではガラ・ラ・ロームは剣の柄にドクロの意匠があしらわれたまがまがしい長剣を使用していた。
この世界でも同じデザインの柄が背中に見えたので剣だと信じ込んでいたが、ガラ・ラ・ロームが取り出したのはライトマシンガンだった。
ライトマシンガンはアサルトライフルよりも口径が大きく、それに合わせて弾丸も大きくなり薬莢に仕込まれる火薬も多くなる。そのため殺傷力も高く射程距離も長い。
反面、発砲時の反動が強いため台座に固定しなければ精度が落ちるのだが、魔戦士の体躯ならば腰だめに構えてもライトマシンガンの反動など些末なことなのかもしれない。
「あれに当たるわけにはいかない。
みんな、用心しろ!」
全員に注意を促すキールの視界に、ショットガンを携えたゴルディと彼を支援するゲンドウが走り込んでくる。
「うおおおおおおおおおっ!」
「小癪なっ!!」
手近なゴブリンには目をくれず、ゴルディは一直線にガラ・ラ・ロームめがけてショットガンを連射する。
だがその単調な動きはガラ・ラ・ロームの的でしかない。
掃射されたライトマシンガンの轟音が止むと、被弾したゴルディが枯れ草だらけのグラウンドに倒れ込み、伏せてかわしたゲンドウがガラ・ラ・ロームの注意を引くためサブマシンガンを乱射しながら位置を変える。
「フォロー!!」
キールはマガジンチェンジを行いながら叫び、地に這ったゴルディの方へ駆け出す。
サイラムたちもゴブリン共に銃弾を浴びせながらグラウンド中央へ駆け寄る。
「もろとも死ね」
ゴルディを中心にキール小隊が集まり固まってしまったため、ガラ・ラ・ロームは愉悦の言葉とともに銃口を向けた。
が、立て続けにスナイパーライフルの銃声が起こり、次いで至るところからアサルトライフルの連射が起こる。
「援軍か」
無数の銃弾を受けながら動じた様子のないガラ・ラ・ロームは、東側の観客席から北側の入場ゲートへとライトマシンガンを掃射する。
「今のうちに!」
カリーリが観客席脇の瓦礫を指差し、男連中にゴルディを運ぶように促す。
キールはジャスミンとスーザンにカバーを任せて、カリーリに従ってゴルディを瓦礫の影へと運ぶ。
ゴルディの体を横たえるとすぐにカリーリが治癒の祈りを始めたので、キールたちは周囲を固め、デ・ミニオンを寄せ付けないように弾幕を張った。
「効いていないのか」
「……らしいな」
「あの鎧ですからね」
別方向からグラウンドに突入した部隊のおかげでゴブリン共は着実に討ち倒され、残りは数体ということろだが、ガラ・ラ・ロームに銃撃が効いていないことが見て取れた。
サイラムは、ガラ・ラ・ロームのまがまがしい影色の鎧のせいだと言ったが、キールにはそうは思えなかった。
弾切れを起こしマガジンを変える際も、魔戦士は銃弾の雨を避けもせず涼しい顔をしている。
――何かが足りない。何か突破口があるはずだ――
掃射を続けながらキールは頭の中で過去の魔戦士との戦いを思い返す。
と、魔戦士の取り巻きだったゴブリンがあらかた片付いたのをきっかけに、北と東から突入したA1とBクラスの小隊がジリジリと魔戦士との間を詰めていく。
「クッ! 人間風情がっ!」
さらに激しくなった集中攻撃に憤った言葉を吐いたガラ・ラ・ロームが、手にしていたライトマシンガンに怪しい光を宿して撃ち放った。
先程までの連射とは違い、光線銃か魔法の様な光の塊が一発だけ発射され、Bクラスの訓練生数人をまとめて吹き飛ばした。
「あんなのあり?」
スーザンが毒づきながらもサブマシンガンを連射する。
「キール! 今のを見たか?」
「……やってみるか!」
ゲンドウの視線に一つ頷き、キールはグレネードランチャーに新しい弾体を込める。
「我も加わるぞ。どんな作戦なのだ?」
カリーリの治癒を受けたゴルディがのそりと起き上がり、ショットガンのマガジンチャレンジをしながら不敵に笑う。
その様を見てキールも笑みを浮かべる。
「なに、俺達の必勝パターンさ」




