③ 眷属
休息を終えたキールたち十一人は、バイザーに送られてくるデ・ミニオン本隊のマーカーを見ながら西へと回り込む。
途中、訓練施設南で討ちもらしたゴブリンの追撃があったり、逃げ出してきたコボルトと遭遇したりなどがあったが、どちらも数が少なく難なく撃退した。
「やはりもとの世界のゴブリンやコボルトと似ていますね」
緊張が緩んだのかサイラムが話しかけてきた。
「そうだな。防具や武装で分かりにくいが、見た目の特徴はそっくりだ」
辺りに注意を払いながらキールが答える。
もとの世界ではゴブリンもコボルトも裸に近い姿だし、手にしている武器は錆が浮いて刃もないような小剣や棍棒だ。
しかし赤褐色や茶褐色の肌の色と、コブのような小さい角や尖った耳と裂けた口はゴブリンの特徴だし、獰猛な犬族の頭部はコボルトの特徴の一つだ。
「やはりこの世界はもとの世界と関わりがあるのでしょうか?」
「まだ分からぬ。
しかし、私やゼノン殿の魔法が効果を発揮したり、カリーリの祈りが届いた事実がある。
全くの異世界とは考えがたいな」
サイラムとキールの会話を受け、後ろでゼノンとグァンダインのやり取りが交わされ、興味深そうにゾルアディスが問う。
「ほう。水神が祈りにお応え下さった?」
「ええそうよ。
この前の緊急出動の時にとっさに神に祈ったのよ。
やっぱり効果は半減していたけれど、神は確かに祈りにお応え下さった。
それは間違いないわ」
カリーリが答え、戦闘服の上から胸元の聖印に触れる。
「……ゲンドウ」
「分かってる。
そろそろおしゃべりはおしまいだ。
ドンパチの時間だぜぇ」
スーザンの低い呼びかけに応じ、ゲンドウが全員に注意を促した。
全員が歩みを止め、少し身を屈めて左手の廃屋の壁に身をやつす。
幸い、敵は本隊の周辺を哨戒している少部隊らしく、往来をだるそうに歩いている。
「俺とカリーリで左から回り込む。
ゲンドウは右に飛び出して引きつけてくれ」
「オーライ」
ゲンドウの投げやりな返事を聞いて、すぐにキールは玄関ドアのない廃屋へと入って行く。
屋内は天井の構造材が落ちてしまっていて、家具や調度品だったであろうゴミなどで床が埋まってしまっていたが、そのお陰か裏手までスムーズに通り抜けることができた。
抜け出た先は裏庭のような小さな空間で、立ち枯れて枝葉のない木が突っ立っているのみだ。
色彩のない裏庭も通り抜けて崩れた囲いから小道を走り、ゲンドウと申し合わせたビルの角に出る。
五秒と遅れずキールの背中にくっついたカリーリを振り返り、大通りの様子を伺う。
相変わらずやる気なさそうに歩いているデ・ミニオンが三体、ゲンドウたちが潜む廃屋の方へ歩いている。
小柄な背丈や不細工な顔を見る限り、ゴブリンだろうと思われた。
「ゲン、位置についた」
「ラジャ」
無線通信が終わると同時にサブマシンガンの軽快な連射が轟き、ゴブリンどもが慌てて銃を構える。
その横っ面にキールとカリーリのアサルトライフルで不意をつく。
あっという間に倒れ伏した三体のゴブリンに走り寄り、キールは止めを撃っておく。
「ヒュー。まだこんな感じで進むのかい?」
この世界でもゴブリンは不潔なのか、吹き出した血の匂いと独特な臭気にアイガンが顔を歪めた。
「A1の隊とBクラスの詰めを待たなきゃだからなー」
「しかし、こんな小物をチマチマやってても弾の無駄だ。本隊が陣取ってる近くで身を潜めよう」
ゲンドウの嘆息を受け、キールがマップにチェックを入れながら判断を下す。
「それはいい。狙撃ポイントのチェックもできますから」
「そうね」
ゾルアディスとジャスミンが同意し、包囲を突破した時の隊列でチェックポイントへ向かう。
チェックポイントへ着いてみると、敵本隊は崩壊寸前のスタジアムに陣取っていることが分かった。
一部崩れ去ってしまっている外壁からスタジアム内が見通せ、歪んだ日除けや波打った観客席、枯れ草に覆われたグラウンドが確認できた。
キールは即座に待機場所を変更し、よりスタジアムの様子を見渡せる背の高いビルへ移る。
「どうだ?」
ゴルディやアイガンらアタッカーが装備のチェックを行う傍らで、ゲンドウとスーザン・グァンダインとゾルアディスの四人は、双眼鏡とライフルのスコープで偵察を行っていた。
「見えてるだけで十体は居るなぁ」
「急襲するなら、あたいらの居る南東の崩れたとこからだね。あとは通常の入り口から忍び込むしかないよ」
「スナイプで支援するなら、スタジアムの北にも一人欲しいですね」
「ここをゾルに任せ、私は西のあのビルに陣取るつもりだ」
四人から寄せられる情報を聞きながら、キールも周囲を見回し、頭を整理していく。
「デ・ミニオンが十体を超えるとなると俺達だけでは手に負えないな。
北からの狙撃と囲い込みは他の隊に任せて、俺達はあの崩れた外壁から飛び込んで敵を引きつけよう。
ゾルアディスのディフェンスとグァンダインのディフェンスを決めたら、三箇所に別れて待機しよう」
枯れ葉や木くずなどのゴミが吹き溜まった手すりから離れ、装備チェックが終わった仲間たちに指示を出す。
その後には指揮者であるユーゴに行動予定を伝え、新しい待機ポイントも送信しておく。
「ゾルアディスのディフェンスは私が請け負いましょう。いざとなれば魔法も使えますからね」
「頼む」
この任務の初っ端にゼノンの魔法が有効なことは証明されているので、キールはゼノンの申し出を二つ返事で承認した。
「それでは僕がグァンダインのディフェンスに付きましょうか」
今度はサイラムが申し出たが、キールはそれを手で制する。
「いや、アイガンに行ってもらいたい」
「ああん!? 俺ぁアタッカーだぞ?」
キールの指示にアイガンは顔を歪め、親指で自身を指しながら抗議した。
「俺たちは初手で急襲をかけたあと他の部隊の突入まで耐え、その後は隊を二つに分けて追撃と支援に回らなきゃならない可能性がある。
コマンダーを経験しているサイラムには前に出ていて欲しいんだ。
決してアイガンの力を認めていないわけじゃない。
分かってくれ」
「チッ。分かったよ」
アイガンはしばらくキールを睨んでいたが、舌打ちをして一応の納得はしてくれたようだ。
「生きてりゃ活躍の場はあるわよ」
「ドンマイ!」
「うるせぇ!」
ジャスミンとスーザンはアイガンをからかったが、こんなやり取りをしていられるのもあと少しだけだ。
他の二隊が到着すれば、タイミングを合わせてまた銃弾の雨の中に身を投じなければならない。
「……ゲン、グァン。あのデカブツはなんだろう?」
緩みかけた緊張を引き締める一言がゾルアディスから上がった。
「……ありゃあ、ヤバそうな見てくれだな」
「むう、あれは眷属。
魔王直属の魔戦士ではないか」
「なんだと!」
ゲンドウとグァンダインの緊迫した声にキールも反応し、スーザンから双眼鏡を借りてスタジアムを覗く。
スタジアム中央の枯れ草に覆われたグラウンドに、時代錯誤な二頭引きの馬車が停まっている。
棘や角やドクロなどがあしらわれた禍々しい車体には、ビロードに金糸銀糸の刺繍がなされた座席が設えられ、どっかと座した影があった。
日中の明るい中にあって夜闇のごとき肌と鎧は、キールの記憶を刺激する。
「魔戦士ガラ・ラ・ローム!」
一角獣のように突き出た特徴的な兜と、背中から伸びたドクロの意匠はキールの記憶に強く残っている魔戦士の特徴だ。
「なぜ奴がこんな所に……」




