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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
八章 決死行
32/39

① 混成部隊

 以前の緊急出動とは違い、室内は赤いライトが点きっぱなしになり、シミュレーションの映像もかき消された。

 鳴り響く警報ブザーの中、ユーゴの指示が響く。


「訓練生は入り口に集合! 各教室の教官の指示に従え!」


 元の無機質な金属の床と壁に戻ったシミュレーションルームで、足元に倒れた訓練相手もキールも緊張した面持ちで入り口へと駆け出す。

 ルーム内に散らばっていたA1・C5・C6のメンバーも、カリーリ達も入り口へと駆けてくる。


 キールたち五人を待ち構えていたニコライが全員を見回して言う。


「揃いましたね? 落ち着いて聞いてください。

 先程、この訓練施設にデ・ミニオンの大部隊が接近しているという報告がありました。

 おそらく先の拠点防衛で討ちそびれた一体が、応援を引き連れて逆襲に来たのでしょう」


「大部隊とは、どれほどですか?」


 カリーリの問いにニコライは一瞬押し黙る。


「……六十体以上と見込まれています」


 ニコライの神妙さのせいか、キールたちから動揺の声が漏れる。

 単純な数で言えば前回の緊急出動の時の倍以上になるため、自然と苦戦を予想してしまう。


「しかしこれを脅威とは思わないで下さい。

 前回の拠点防衛と討伐とは違い、この地下訓練施設の周辺には防衛線を敷いています。

 前回同様、すでに専属の防衛隊が配置に着いているはずです」


 少し表情を和らげたニコライだったが、キールたちが知りたいのはそんなことではない。

 たまらずにゲンドウが問うた。


「今回、俺たちはどうすりゃいいんだ?」

「まさか指をくわえてねぐらに籠もるわけであるまい」

「出番が与えられている、と思ってよろしいのかな?」


 ゲンドウの質問をを皮切りに、ゴルディとグァンダインが不敵に笑う。

 三人の意気込みに押されてか、ニコライは苦笑混じりに応じる。


「落ち着いて下さい。

 情報では、敵の数は多いが雑多な種族の混成部隊だと伝えられています。

 あなた方なら分かると思いますが、ゴブリンやコボルトといった低級な敵がほとんどで、雑兵と言っても過言ではありません」


「なるほどな……」


 ゲンドウは何かに勘付いたようで、一人納得の声をあげる。


「こうした低級のデ・ミニオンは自分たちで徒党を組んだり作戦を練るといった知能はありません」


「正しくそうであろう」


 ゴルディもしたり顔でうなずく。


「よって、あなた方へのミッションは、奴らを先導している本隊の駆逐です」


「至極妥当な策ではある、が、困難な任務であるな」


 グァンダインは腕を組み、何か思案しているようだ。

 と、カリーリが手を挙げて意見を述べる。


「それはわたしたちだけでやるのかしら?」


「まさか。

 重要な任務ですが、そこまで負担をかけたりしませんよ。

 最良な戦術としては、正面からの突破と両翼から回り込む形が望ましいです」


 三本の指を立てて話すニコライに、キールは「ふむ」とうなずく。


「幸いにも今このルームには、前回の討伐隊の中で戦果を上げた六教室が集まっています。

 この六個小隊を割り振りして三方向から包囲網を破り、本隊を切り崩すのが今回のミッションです」


 淡々とした口調だが、ニコライの表情はまた狂気を含んだ笑顔へと歪んでいく。

 愛弟子に過剰な試練を与える師のように、我が子を難敵に挑ませる獅子のように、その顔でキールらをねめ回す。


「そういうことなら、C6と組ませて欲しい」


「キール?」


 毅然としたキールの声に全員の視線がキールに集まった。

 ニコライも試すようにキールを見やる。


「理由を聞きましょう」


「簡単な話さ。

 彼らとは一度戦っている。

 そしてついさっきまで肩を並べて連携を取っていたんだ。

 新たにコンビネーションを築く必要がない」


「なるほど。充分です」


 キールの言い分を即座に受け入れたニコライは、無線で何言か呟き、右手を挙げて軽い手招きをする。


「よお! SB! ご指名いただいて光栄だぜ」


 キールらに歩み寄ってきたC6の面々は、表情は様々だが短い挨拶と握手を交わして隊列に加わる。


「ではこの十一名で任務にあたってもらいましょう。

 一旦ロッカールームに戻り、装備を整えて地上階に再集合して下さい。

 詳しい指示はそこで下します」


 ニコライが声を張って行動を促し、キールたちは入り口に向かって駆け出す。


 施設内のあちこちを様々な人々が走り回っているため、今回も階段でロッカールームまで下りる。


「……キール、これを授けておこう」


 全員の装備が整いかけたタイミングで、グァンダインがキールに一丁のハンドガンを差し出した。

 見る限りなんの変哲もない六連発のリボルバーだ。


「これは?」


「なに、ちょっとした実験を兼ねたお守りのようなものだ。

 ゴブリンやコボルトといった低級な妖魔を従えているとなると、指揮官はそれなりの魔物なのだろうと思ってな。

 通常の武器が通用しない時に試してくれればいい。

 装備に空きはあるだろう?」


 キールはグァンダインがいつも通りの収まった表情で話しているので面食らったが、手榴弾の類を携行しない代わりにマガジンを多めに持つため、確かにハンドガン一丁を追加で装備するくらいわけはない。


「分かった」


 グァンダインの事だから意味があることなのだろうと信じ、キールは受け取ったリボルバーを腰に差し入れた。


「ゼノン、少しよろしいかな」

「スーザン! ちょっとこっち来い!」


 キールと話し終わったグァンダインはゼノンに声をかけ、その隣ではゲンドウがスーザンを呼びつけていた。


 その様子を見て、キールもカリーリに声をかける。


「カリーリ、ちょっといいかい?」


「……ええ、もちろん」


 キールに声をかけられ、辺りに目を配ってからカリーリは了承した。


「どうしたの?」


「いや、何という話はないんだ。ただ、な……」


 慌てたり焦ったりしているのか、落ち着かないキールをカリーリは小首をかしげて黙って待つ。


「あまり無茶はしないように、な」


「分かっているわ。わたしはまだまだやり残したことがあるもの」


「そ、そうだな。

 俺も、君に言わなきゃならないことがあるから」


「あら、何かしら」


 顔を赤らめて汗をかき始めたキールを面白がるようにカリーリは微笑む。


「ええっと、それはその……。

 俺は、君を、守るつもりだから」


「……それだけ?」


 キールの胸元に手を添えその先を要求するカリーリに、キールの情緒は乱れる。


「はい、ゴメンナサイよ」

 バズーカランチャーを担いだゴルディが横を通る。

「事を急ぐと死期が早まるらしいぜぇ」

 アイガンが両手を頭の後ろで組んで通り抜ける。

「人の居ないとこでやってくんねーかなー」

 ゲンドウが目隠しをして通り過ぎながら茶化す。

「お熱いのね」

 ジャスミンがキールにウインクしながら歩み去る。

「ヒューヒューだね!」

 キールとカリーリの肩をつついてスーザンがおどける。

「そろそろ時間だ。手短にな」

 なぜかウンウンと頷きながらグァンダインが通り過ぎる。

「人生、支え合ってこそですな」

 グァンダインの仕草を真似ながらゼノンも通り過ぎる。

「それではお先に失礼しますよ」

 サイラムが爽やかな笑顔で一礼して立ち去る。

「お二方に神の祝福を」

 信奉する神の名を呟き、ゾルアディスが聖印を切る。


「…………まずは生き延びることを考えようか」


 すっかりタイミングを逃してしまったキールは、頬をかきながら苦し紛れにそれだけを言って体の向きを変えた。


 カリーリはキールの横に並びかけて小さく笑い、「続きは帰ってきてからね」と呟いてキールの手を握った。

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