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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
七章 集団戦闘訓練
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⑤ ホールドアップ

「エネミーロック!」


 その無線通信が届いたのはスタートから十五分後のことだ。

 意外なことにポイントマンとして前に出たスーザンではなく、彼女を高所からフォローしていたジャスミンからの通信だった。


 即応したキールはバイザーに映し出されるマップへ目を走らせ、ジャスミンがマーキングした敵の位置を確かめる。


 ――四人!――


 マップ中央の公園の北西の脇道から、公園西の大通りへと移動しているマーカーの数を数え、キールの頭の中を様々な可能性がよぎる。


「スーザン! 敵が公園を通り過ぎたらアタックだ!

 ジェシー! それに合わせてフォロー!

 ゲンは一ブロック引っ張りこんでからゴー! それまで索敵!」


 キールは早口で指示を出し、三人からの返事を聞いてから付け足す。


「俺は西周りで索敵してから合流する!

 グァン! ゾル! 別働隊を警戒!」


 スナイパー二人からの返事を聞きながら、キールはバスの影から身を屈めて移動を始める。


 小隊は最低四人、最大八人が定員だ。

 スタート前の観察ではA1とC5は共に六人だったはずだ。

 となれば公園に近付いている四人はアタッカーだけの可能性が高く、タクティカルが西か東から先行しているかもしれない。


 キールの目や耳で敵のポイントマンやタクティカルを捉えられる自信はないが、可能性は潰しておかなければならない。

 こうした時に密偵であるゲンドウや、盗賊あがりだというスーザンの能力を羨ましく思うが、無い物ねだりをしている場合ではない。


 通りを渡り、小道を用心深く進んで一ブロックを過ぎ、キールは西から北へと進路を変える。


 と、微かにサブマシンガンらしき連射音が遠くで起こり、アサルトライフルの反撃も響き渡る。


「始まったか」


 一瞬だけマップに注意をそらした刹那、雑居ビルの玄関ポーチに潜んだキールの足元に弾着があり、コンクリートの破片やタイルの破片が飛散する。


 ――音が無い! 跳弾もない!――


 体を玄関ポーチのひさしの影に縮ませながら、キールは一瞬の分析を終える。

 発砲音がなく着弾が跳ねなかったということは、発射角度が垂直に近いことを教えている。


「せぃ、のっ!!」


 タイミングを計って玄関ポーチから転がり出たキールは、目算をつけていたビルの屋上へ銃口を向ける。


 ――しまった!――


 キールの目算は外れ、敵は屋上より一階下の窓から体を乗り出して消音器付きのハンドガンを構えていた。

 キールが狙い直してトリガーを引くのと、敵が発砲したのはほぼ同時。


「うぐはっ……」


 溺れかけて水を吐いたような声を漏らして敵はキールの足元に落下してきた。


 建物の三階から人が落ちる音を初めて聞いたキールは若干気分を悪くしながら、頭部を襲ったダメージに耐えつつ立ち上がり、敵に止めを撃っておく。


 遠くで相変わらず続いている銃撃音を聞きながら、ヘルメットを外したキールは戦慄した。


「ハンドガンでなければ即死だったな……」


 アサルトライフルやサブマシンガンで撃たれていれば、ヘルメット以外にも着弾し、撃ち抜かれて致命傷となったろう。

 ヘルメットを被り直して、敵のチョイスミスを幸運に思いながらキールは元の通りを目指して早足で移動する。


「ワンダウン!

 東を警戒! 別働隊がいるぞ!」


 サイラスらC6のメンバーに呼びかけ、キールの目と耳はゲンドウとスーザンの銃声やマーカーに向く。


「ゲットイット!」


 通りに出てニブロック先にマズルフラッシュが見えた瞬間にジャスミンの報告が入った。


「キー! ジェシー!

 バックだ! 引っ張りこむ!」


 ゲンドウから強い口調で無線が入り、キールは了解の返事をして南へ後退する。

 ゲンドウは明確に『敵を引き込む』と言い切った。ということは、ゲンドウとスーザンが手玉に取れる相手ということだ。

 作戦が順調な証と言える。


 それでもキールは物陰や曲がり角から顔を出して様子を伺い、時折あさっての方に牽制の射撃をしておく。

 と、もうすぐショッピングモールの駐車場という当たりで背後に人の気配を感じた。


「同士討ちする気かい?」


 銃口の先にはジャスミンが立っていた。

 キールよりも早く後退して回り込んでいたようだ。


「すまない。

 とはいえ、そんなにくっつかなくていいだろう?」


「意外と奥手なのね? 私は気にしないから平気よ」


 バイザー越しに妖艶に笑うジャスミンに動揺したが、通りを覗き込むキールの背中に密着した女性を無視して銃声の方に向き直る。


「フォローミー!」


「行くぞ!」


 サブマシンガンを連射させながら駐車場の西側のビルに飛び込むゲンドウの姿を見、キールはジャスミンに声をかけて、通りを横切りながら短い連射を繰り返す。


 ゲンドウに向けられていた銃撃がキールに向き直ったが、その射線は二つに減っている。

 ゲンドウかスーザンがもう一人キルしたのだろう。

 敵の目がキールに向いた隙きを見逃さず、曲がり角からジャスミンの援護射撃が飛び、敵にヒットする。


「別働隊だ!」


 キールが残った一人に掃射を浴びせている合間に、ゾルアディスから無線が入り、遠くからスナイパーライフルの轟音が届く。


「よし!

 ジェシー! 俺とこのまま東に移動してフォローに向かう!

 ゲン、スーは表口で警戒だ!

 グァン、カバー!」


 ジャスミンの銃撃で最後の一人を討ち取ったのを確かめ、すぐさまキールは指示を下す。

 全員の返事を聞きながら駆けていくキールの横に、ジャスミンが並びかける。


 と、無線にアイガンの泣き言が届く。


「クソッ! こっちがA1だ! 足に食らった!」


「アイガン、無理するな! サイ、すぐに行く!」


 キールは守勢を取ったことを正しかったと考えながらも、裏をかいたA1の戦略に舌を巻きつつ、次の展開を考え始める。


 ショッピングモールの裏手で勝負を決めてしまうか、フラッグのあるショッピングモール内で仕留めるか……。

 バイザーに表示されたマーカーを数え、前者を選択する。


「カリーリを残してゴルディとゼノンもカバーに出てくれ!

 勝負を決める!」


 指示を出しているキールの目に、一ブロック先で無防備な敵が映る。

 駆けていた足を緩めてエイムし、三点バースト一射でこれを仕留める。


「やるわね。効率いいじゃない」

「俺の腕じゃない。銃の性能だ」


 キールは謙遜ではなく本心で答える。

 無駄撃ち防止と射撃精度維持のために備えられているのが三点バースト機構で、トリガーを引き続けても三連射ごとに射撃が制御される。


「インサイト!」


 余談を振ってきたジャスミンが新たな敵を見つけ、キールへの返事もせずに北側のビルの隙間に駆け込んで射撃態勢を取る。

 キールも南側に停まっている廃車の影に入り、敵を撃つ。


 自身の銃撃の音と、敵から向けられる銃声。

 辺りから浴びせられる着弾や跳弾の音で聴覚がおかしくなる。


「ワンダウン!」

「マグチェン!」

「一人抜けた!」

「カバーミー!」


 それでも無線で届く仲間の声には反応できるあたり、キールは自身の冷静さをいやらしいとも思う。

 目の前の激戦に集中できていないと感じるからだ。


「ジェシー! ここを頼む!」

「アイサー!」


 男勝りな返事をしてアサルトライフルを連射するジャスミン。

 キールは破れた金網から駐車場へ入って、マガジンチェンジを行いながらフラッグへと向かう敵のマーカーを追う。


 キールの指示でフラッグを守っていた三人はモールの東側に移っているし、ゲンドウを向かわせればモールの西側が手薄になる。


「グァン、そっちから見えるか?」


 身を屈めて進んでいるキールからは敵を見つけられない。


「牽制して動きを止める」


 グァンダインの冷静な返事のあと、断続的にスナイパーライフルの轟音が響く。


 バイザーのマーカーが急な方向転換をしてキールの方へ向かってくる。


 ――さすがだ!――


 グァンダインの正確な狙撃を称えつつ、積み重なった廃車の影に身を潜めたキールは、敵の足音を聞きながらタイミングを測る。


 敵の影が現れ足音を真横に感じた瞬間に、キールは飛び出してタックルを見舞う。


「ぐあっ!?」


 上手く不意を突いたキールは素早く立ち上がってアサルトライフルを敵の顔面に突きつける。


「ホールドアップ!」

「……ぎ、ギプアップだ」


 銃を放り出し、敵がゆっくりと両手を挙げたところで終了のブザーが鳴り響いた。


「さすが、SBだな」

「その呼び方はやめてくれ」


 バイザーの奥で清々しい笑顔を浮かべる敵から銃を引き下げ、立たせてやろうとキールが手を差し伸べた瞬間、辺りが真っ赤なライトに染められた。


 けたたましく鳴り響き始めたブザーに、キールも足元の敵も動揺する。


「なんだ?」

「何が起こったんだ?」


 無線からは仲間たちの慌てる声が届く中、緊張したユーゴの声が天井のスピーカーから響く。


「敵襲だ!! 総員、防衛行動を取れ!!」

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