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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
七章 集団戦闘訓練
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① クラスアップ

 明くる日、いつも通りの時間に講習が始まると、ニコライはキール小隊五人を見回してから重々しく告げる。


「皆さんは突発的な緊急出動により実戦を経験し、無事に生き延びることができました。

 結果、あなた方にCクラス、つまり見習いの訓練を続ける意味はない、と判断されました。

 本来であれば順にクラスを昇格させ、成長に合った段階的な講習を行うのですが、実戦という訓練以上の経験はこれらの比ではない。

 突然ですが、本日よりこの教室ではAクラスと同等の講習を進めていきます」


 ニコライの長口上にキールたちはただただ聞き入るだけだった。


 一瞬だけ、キールは昨夜のアイガンとのやり取りが影響しているのではと勘繰ったのだが、アイガン一人の上申でこうしたプログラムの変更は起こり得ないだろう。


 またゴルディやグァンダインが微動だにしないのは当然としても、ゲンドウやカリーリも動揺した気配はない。

 これはニコライの示した講習内容の変更に驚いていないだけでなく、彼らは実戦を経験したことで訓練以上に自信や手応えを得たのだろう。


 それに比べてキールは、昨夜のアイガンとのやり取りもあり、少しだけ後ろめたさと動揺があって自分がAクラスの講習を受けるのに相応しい成長をしただろうか、と考えてしまう。


「もちろん、講習だけでなくトレーニングや訓練もAクラス相当の厳しいものとなります。

 大きく変わるのは実戦訓練ですね。

 まだ一度しか行っていませんが、次の実戦訓練では二個小隊以上の多人数の連携を予定しています。

 先の緊急出動が正しくこの形で、一個小隊での稼働はあくまで作戦任務の末端であり、一戦闘区域の一場面に過ぎません。

 実戦というものは様々な規模があり、小隊単位の小競り合いもあれば五十名を超える中隊が稼働したり、広範囲にわたる戦場を四個中隊で囲うような大隊規模もある。

 より大きな目で捉えれば、六百名以上で稼働する連隊や旅団という形もあるのです。

 実戦を生き抜くということは、こうした大部隊で稼働した中で生き延びるということで、小隊単位の末端での戦闘を何度も繰り返していくだけではありませんから、こういった訓練の意図をしっかりと理解して下さい」


 キールを含め教室内の訓練生五人は「はい」と返事を返してニコライへ了解の旨を示す。


「では、今日の講習を始めていきます。

 先程も言ったようにクラスが上がってより実戦に則した訓練になることで、武装というものも変わってきます。

 その大きな違いは、火力の高い広範囲攻撃を主とした装備や、銃以外の武器、爆破装置やトラップなども解禁されます。

 また、武装と一口に言っても攻撃を目的とした物ばかりではありません。

 例えば、暗視スコープと通信機を活用することで一定時間だけ敵味方の相対的な位置をマップに表示させるドローンを飛ばしたり、足音を打ち消す音波を使用できるようになったりと、支援のための装備も解禁されます」


 ニコライが説明をしながらホワイトボードに写真やイラストを貼り出していくと、ゴルディとゲンドウから声が上がった。


 キールは写真に添付されている説明書きを読んで、なるほどと納得する。

 火力の高い広範囲武器はゴルディの好みであるし、タクティカルを担うゲンドウには支援アイテムが増えることは嬉しいに違いない。


「こうした主および副武装の選択肢の拡大や支援アイテムの追加により、作戦の立て方や立ち回りの仕方も変わってきます。

 ただし、装備の充実と選択肢の広がりは戦闘力の強化と支援の増強を狙ってのものですが、メリットと同等のデメリットも存在します。

 一つは重量の増加。

 荷物が増えれば重くなるのは当然ですよね。

 もう一つは、やれることが増えたからと欲張って持参しても、戦術や行動にしっかりと組み込めなければ意味がない。

 それは、ただただ重い物を身に着けて走り回るだけの筋トレ馬鹿になってしまいますからね」


 珍しくニコライがジョークを交え、グァンダインとゲンドウが短く笑った。


 キールは二人が笑ったことでニコライがジョークを言ったのだと理解したが、意識は別のところに向いていて笑う余裕は無かった。


『主武装の解禁』


 ニコライの言ったこの一言に興味が湧いたのだ。

 そして意識はすでにニコライの貼り出した新しいアサルトライフルのリストへ向いている。


 正直なところ銃火器の性能差というものは、数値化して表されたとしても実際の使用感としての差は微々たるものしかない。

 それはもといた世界で使用した剣でも感じていたことだ。


 剣や鎧の性能は商人の口頭の説明だけで、ニコライが提示しているような数値化されたものではない。

 また手にして試し斬りなどをしたとしても、使用者の経験や相対する敵によって剣本来の能力が発揮されるかは変化してしまう。

 それと同じことが銃火器にも言えるのだが、新しい武器を試してみるという変化は、勇者の資質を求める今のキールには必要なことだと思えた。


 キールの中で期待や新鮮な気持ちが膨らんでいく中、ニコライの講習はいつも通りに淡々と進んでいき、昼休憩まであっという間に過ぎてしまう。


「午前の講習にもあったように、Aクラスに上がるのだから、午後のトレーニングも今まで以上にハードなものになる!

 覚悟はできているか?

 弱音を吐いたり落ちこぼれてしまったらそれまでだ!

 訓練よりも実戦は過酷だ!

 気合いを入れ直せ!」


 午後のトレーニングが始まると、イワンからいつも以上に熱い言葉が大きな音量で浴びせられた。


 体力的な不安のあるカリーリとグァンダインは終始必死な表情だったが、イワンの組んだカリキュラムに食らいつく様はさすがと言わざるを得まい。


 個人個人でメニューは違うが、キールも格段に厳しくなったトレーニングを歯を食いしばってこなしていく。


 ただ今までより少しだけ心持ちは違う。


 普段、講習とトレーニングが終わったあとは夕食を摂り、射撃訓練場に籠もるのだが、今日のキールは早く射撃訓練をしたくてたまらなかった。


 ニコライの講習で興味を引く銃が紹介されていて、早くその銃を手にして撃ってみたい一心で、午後のトレーニングを終える。


「よお。今日は早いな」


「サミュエルさん。今日、Aクラスの銃が解禁されたんですよ。

 それで、撃ってみたいものがあるんですが――」


 キールは挨拶もそこそこに、射撃訓練場の物品管理を担っているサミュエル大尉に食らいつくように求めると、サミュエルはニヤリと笑って一丁のアサルトライフルをカウンターに置いた。


「そう! コレです! なぜ分かったんですか?」


「俺はここで十年、何万人もの訓練生の銃を面倒見てきたんだぜ?

 お前の好みなんざ顔を見ただけで分かるさ!」


 驚いたままの顔で硬直しているキールをからかうように、サミュエルはさらに銃身にマウントして使用するグレネードランチャーも取り出して置いた。


「驚きました。ランチャーまで見抜かれているとは……」


 しかし驚嘆するキールにサミュエルはいたずらっぽい笑顔で答える。


「おいおい、ジョークを真に受けるなよ。

 Aクラスに上がったアタッカーは大抵コイツを試したくなるのさ」


「そうだったんですね……」


 自分が大勢の訓練生と同じ行動を取ったことを恥ずかしく思いながら、キールはサミュエルが用意してくれたアサルトライフルを受け取る。

 そのまま礼を言って射撃ブースへ向かおうとするキールに、サミュエルから声がかかる。


「落ち込むなよ。

 Aクラスからは銃のカスタマイズも可能になるんだ。

 同じシリーズでもパーツを変えればお前のオリジナルになる。

 その時はまた俺に声をかけてくれ」


「ありがとう!」


 サミュエルに手を上げて応えたキールは、愛用のバスタードソードをこしらえてもらった事を思い出した。


 それこそアイガンとの指し飲みで話題に出た魔将軍ラ・タッタリ・ラーン討伐の時のことだ。


 アイガンの故郷ロッジアから島国であるヤマットに渡り、そこだけで採掘される金属を用いて特殊な加工を行う刀匠に剣を打ってもらった。


 柄や握りの巻皮も拘り、職人たちに丹念に拵えてもらった。

 その剣がなければ魔将軍ラ・タッタリ・ラーンには勝てなかったと言っても過言ではない。


――なんせ破魔の金属オリハルコンだからな――


 キール勇者隊が『世界最強』と讃えられたのも、こうした希少な素材やそれを鍛えた職人たちのおかげでもあるのだろう。


――そうなるとサミュエルさんはガンスミスというところかな――


 新しい銃が気分転換になったのか、キールは久しぶりに晴れやかな心持ちで自主トレーニングに没頭していった。

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