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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
六章 SB
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② 世界の理

 それからのキールは思い悩む日々が続いた。


 ニコライの講習とイワンのトレーニングは今まで通りに執り行われたし、キールも正しい態度で真剣に取り組んでいる。


 しかし講習やトレーニング以外の時間になると、頭の中には『勇気とは』『勇者とは』という自問自答が繰り返しよぎる。


 深夜まで行っている射撃訓練場での自主練習でも、的に向かってアサルトライフルを撃っている間は集中できても、ふっと集中が途切れた瞬間には戦い方や勇気のあり方を考えてしまう。


「あ! SBじゃん!」


 深夜まで行っていた自主練習を切り上げ、宿舎へ戻ってきたキールの耳に若い女性の声が届いた。


 辺りにはキールと、酒に酔っているらしい男女数人の集団しかいない。

 おそらくその集団の一人が発した『SB』という単語に、思わずキールは振り返ってしまった。


「お仲間でしょ? こっち呼びなよ」

「いいのいいの。アイツとは酒を飲む仲じゃねーよ」

「えー? 同じ小隊だろ」

「ビジネスとプライベートは別物さ」


 どうやら宿舎のある階層の飲酒スペースから娯楽スペースへ移動している途中のようで、八人ほどの男女は笑ったり騒いだりしながらキールの前から立ち去ってしまった。


 ただ、その輪の中心に居たのはゲンドウで、若い女性に腕を取られながらキールを切り離したような物言いをしていた。


 そのことも含め、キールは『SB』という単語に少なからず動揺を抱く。


 初めての実戦を経験して訓練施設に戻ってきてから、あちらこちらからキールを指して『SB』と呼ばれることが多々あった。


 しかしどうやらその単語は褒め称えて使われる場合と、蔑みや汚らわしさや嫌悪で使われる場合とがあるように思えるのだ。


「……キール?」


「……ああ、カリーリか。グァンダインも……」


 宿舎に割り当てられた自室の前で立ちすくんでいたキールに声をかけてきたのはカリーリに違いない。

 しかし、その姿はグァンダインの部屋から出てきて、その後ろからグァンダインも姿を現した。


 キールの胸のうちにモヤモヤとした黒いものが起き上がる。


「こんな時間に何をしていたんだ?」


 カリーリはキールの仲間であるが恋人ではない。だが、つい口からカリーリの素行を疑うような言葉が出た。

 近くの部屋から恋仲とおぼしき男女が出てくる場面は何度か目にしているし、もといた世界よりもこの世界の貞操が緩いことは雰囲気で感じ取っている。


「……あん、そんなんじゃないわ。

 ちょっと気になることがあったから、グァンダインに聞いてもらっていたのよ」


「そのとおり。

 とても大事な話をしていたのだ」


「……どうせ俺の悪口だろう」


 先程のゲンドウの姿や言い様が頭によぎり、キールは言い捨てて部屋に入ろうとする。


「何を言っているの? ちゃんと話を聞いて!」


 カリーリは慌てて駆け寄り、閉じようとするドアの隙間に体を入れてくる。


「ちょうどいい。

 キールにも聞いてもらおう」


 閉じるに閉じれなくなったドアを通り、キールの許可なくカリーリとグァンダインが部屋へと入ってくる。


 仕方なくキールはカリーリとグァンダインにベッドに腰掛けてもらい、自身は突き当りの壁に背をもたれさせて立つ。


「……こんな時に何の話があると言うんだ。

 俺はシャワーを浴びて眠ろうと思ってる。

 手短に願いたいな」


 腕組みをし不機嫌に促したキールに、カリーリは膝の上で重ねた手を見ながら静かに話し始める。


「……覚えているかしら?

 この前の実戦で、キールが撃たれた時に私が治癒の祈りを使ったこと。

 あれ、どう思った?」


「……感謝してるよ。

 あの時だけじゃない。

 もとの世界でも魔物と戦って傷付いた時には、いつも君に癒やしてもらっていた」


 そっぽを見ながらもキールは本心を伝えた。

 戦闘中も戦闘後も、カリーリの神への祈りによって傷を癒やされた回数は、戦闘の回数よりも多いかもしれない。

 これまでも感謝を示してきたし、カリーリの癒やしがなければ魔王ザ・リダンダリ・ラリの根城にまでたどり着けなかったろうとも思える。


「そういう話じゃないの。

 わたしの祈りが神に届いた、という話をしているのよ」


「どういうことだ?」


 カリーリが何を言いたいのか分からず、キールはカリーリに詳しい説明を求めた。


「キールが転移の魔法を唱えてわたしたちはこの世界にやってきた。

 けれどこの世界には魔法や祈りは存在しないと説明されたわ」


 この訓練施設の校長であるデニスも、キールたちをデニスに引き合わせてくれたユーゴも、日々キールたちに戦術や戦い方を教えてくれているニコライも、この世界で魔法や祈りを肯定するような発言は一度もしなかった。


「けれど、わたしの祈りは神に届き、癒やしがキールへと行使された。

 ここには何か大事なことがあると思って、グァンダインに相談していたのよ」


 胸元から信奉する神々の聖印を取り出したカリーリを見、そしてキールはグァンダインへと視線を移す。

 博識なグァンダインならば答えを見出しているだろうという確信があるからだ。


「これはまだ想像の域を出ない、いわば予測でしかないのだが……。

 アイルノン王国が存在した世界と、この世界は、何かしらの関係性のある世界なのではと考えられる。

 以前、ニコライ伍長の講習でこの世界の戦いの歴史を学んだ際、千年前までは剣や槍や弓矢といった原始的な武器でデ・ミニオンと戦っていたとあった。

 その後に火薬を発見し、大砲や手筒(てづつ)のような銃の原型が生まれ、今日の戦い方へと繋がった、と」


 キールはグァンダインの話しに静かにうなずいた。

 その講習の折に、発電や飛行機や自動車などの発明があったことを教えられ、大きな驚きを得たからよく覚えている。


「もう一つ、この話に根拠として明らかな物がある」


「それはなんだい?」


「デ・ミニオンと魔物との共通点だよ」


「なんだって!」


 グァンダインの即答に、キールを驚きの声を上げた。


 確かに、ニコライがキールたちにデ・ミニオンの存在を明かした際、肌の色や強靭な身体などの特徴が合致してはいた。

 だからこそキールたちはこの世界の人類の危機を救わねばと思うことができたし、デ・ミニオンを討ち倒すためには銃の扱いに精通しなければと思えた。


 しかしもとの世界の魔物と、この世界のデ・ミニオンに共通点があるからといって、それが同一であるなどとは考えもしなかった。


「どういうことだ?

 同じ物だと言うのか?

 もとの世界とこの世界の関係性とは、そういうことなのか?」


「それはまだ分からない。

 しかし、カリーリが備えている『祈り』というものは、『神』という存在があってこそのもの。

 世界が複数あるという考え方はもとの世界にはなかったものだが、では二つの世界が存在しているとして、片方の世界の神がもう片方の世界へも影響を与えることができるだろうか?」


 グァンダインの示した疑問を、キールは考えてみたが想像すらできず、肩をすくめてグァンダインに話の続きを促す。


「私にもその答えは分かり兼ねた。

 カリーリは、神の偉大さゆえ影響しうると考えている。

 神を信じ仕えている者なのだから当たり前だがね」


 グァンダインの言葉に今度はカリーリが肩をすくめる。

 異なった世界へ来ても聖印を手放さないのだから、その信心は二つの世界という違いさえも飛び越えられると考えているのだろう。


「しかし私は知識として有している法則というものから考えてしまうのでね。

 世界が異なるということは、存在する神も万事を従属させる法則も異なるであろうと考えるのだよ。

 例えば、水を冷やせば凍って固まり、熱すれば湯気になって蒸発する。

 これが別世界であれば、湯気の状態が見知った姿で、水や氷は別の物質と捉えられている場合があり得る。

 我々は肉や穀物を食べて生きているが、世界が違えば石や鉄を食べるやもしれん。

 それほどに違った世界ではやはり『神』は両方の世界に等しく影響しないだろうと思うのだ」


 グァンダインの少し難解な説明は、キールにはすんなりと入ってこず首をかしげてしまう。

 しかし動物の肉や穀物を食べる世界と、金属や石を食べる世界とがあって、それぞれを造り給うた『神』がいるならば、もう一方に干渉することはないだろうと想像することはできた。


 しかし可能性はそれだけだろうか?


「俺にはよく分からないが、もし一つの神が二つの世界を創造したのだとしたら、どうなるだろう?」

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