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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
六章 SB
22/39

① 帰還

 キール小隊は小休止をとり態勢を整えて任務に復帰したが、敵の掃討は完了しており、討伐に参加した訓練生一同は運ばれてきた輸送車に乗り込んで一旦廃墟にある拠点へと集められた。


 二十体と報告されていた敵は実は二十三体に及び、北から南下した本隊は十二体という手勢で、討伐にあたった部隊だけでは手に負えず拠点防衛部隊も投入したほどの激戦であったらしい。

 東にもキールたちがあたったのと同数の五体が回り込んでいて、こちらも相討ち同然の状況だったらしい。


 結果として二十二体のデ・ミニオンを討ったことになるが、討伐隊の被害は死者が三十名近くに上り、負傷者も同数が数えられた。


「――勝ちはしたが、手放しでは喜べない被害となった。

 しかし、訓練生でありながらこの戦果は誇りに思って良いものだ。

 同志を失ったことは悼むべきものであるが、まずは生き延びたという勝利を噛み締め、分かち合いたいと思う。

 特に、訓練期間の短さと訓練レベル以上の働きをしたキール小隊には、相応の賛辞を贈ろう。

 総員、警戒配置のまま半舷休息を取った後、無事に訓練施設へ帰投してもらいたい。

 以上、解散!」


 生き延びた訓練生の前で指揮者が訓示を述べて任務終了を告げ、キールたちは疲弊した体をとりあえず横たえることができた。


 半数が周辺の警戒と偵察をし、その間に半数が休むという半舷休息に一昼夜を設け、総員の回復を待ってまた輸送車で訓練施設へと戻った。



   ※



 地下訓練施設へと戻ったキールたちは、訓示で名前が上がったこともあってあこちこから称賛や激励を受けた。

 夕食時などはキールたちを囲んで祝勝会のようなドンチャン騒ぎも起こってしまったほどだが、訓練施設の全員がキールたちを称えたわけではない。


 訓練の成果を発揮できずに散った者が多く居たわけで、目の前で仲間を失った者たちも居る。

 実戦訓練を通して心を通わせた者たちや、男女の中に発展した者たちも、受け止め難い別れを突きつけられ、キールたちを称えられないケースもあったろう。


 反面、キールたちも上辺は喜んだり笑ったりしてはいたが、五人の心情は喜びよりもわだかまりの方が大きかった。


 そんな彼らの内情を見抜いているのか、訓練施設に戻ってきてすぐの講習でニコライとイワンが揃って教壇に立った。


「――正直なところ、今、あなた方は浮かれていますか?

 悩んでいますか?

 それとも、誰かに言いたいことがあるのではないですか?」


 ニコライの静かな問いに、教室の中は一気に張り詰めた空気になった。


 その沈黙を最初に破ったのはゲンドウ。


「……俺にゃコマンダーは務まらないと思った。

 その場で見えてる事には対処できるが、次の局面が見れねー。

 最後の一匹はゴルディが駆けつけてくれてなかったら危なかった。

 もうあんなギリギリの綱渡りは耐えられねー」


 ふむ、とニコライは鼻を鳴らし「他には?」と発言を促す。


「……私は、狙撃位置の選択の甘さを痛感した。

 単純に主戦場からの距離と高さを優先し、見通しの良さで判断してしまった。

 結果としてディフェンスが離れても立ちゆく位置取りだったのでゴルディを主戦場に向かわせられたが、スナイプの精度は低く牽制としての役目しか果たせなかった」


「わたしも、作戦前にアタッカーを入れ替わったとはいえ、きちんと連携が取れなかったわ。

 わたしの行動のせいで、キールとゲンドウに危険が迫った場面が何度もあったもの……」


「……我個人としては1キル取れたことで自信が付いたが、ディフェンダーの難しさを身を持って知った。

 前に出てはいけない忍耐と、警戒を怠れない辛さ、前に出なければならない時の遠さ。

 体ではなく心に重しを感じた一戦だった」


 ゲンドウ・グァンダイン・カリーリ・ゴルディがそれぞれの心の内を語ったので、自然とニコライとイワンの目はキールへと向く。


「……キールさんはどうでした?」


 教室にいる全員からの視線を受けても口を開かないキールに、業を煮やしたニコライが促す。

 と、キールはぽつりと答える。


「……全部、俺の手でやってしまいたかった」


 瞬間にイワンが一歩踏み出したブーツの音が教室に響いたが、ニコライが手で制した。


「それはどういう考えですか?」


 いつもの感情のないニコライの声が、さらに淡々として聞こえる。


 キールは答える。


「俺は勇者だ。

 もとの世界でも、ここに来てからも。

 勇者であれば勇ましく戦わなければならない。

 最後の一体は、俺が仕留めなければならなかった」


 悔しげに、やり残した後悔を語るように、些細なミスで任務が完遂しなかったかのようにこぼすキールに、ニコライは言い放つ。


「その考えは、勇者ではありませんよ」


「目的を失った殺戮者の言い分だ」


 ニコライに続きイワンの辛辣な言葉も飛んだ。


「なぜです?

 俺は誰よりも危険に飛び込み、命を賭けて敵を撃った。

 そして三体の敵を討ち倒した。

 この結果は勇者として値するものであるはずだ」


「仲間を危険にさらしても、それが勇気か?

 危険に飛び込めば、それが勇気か?

 勇者とはキルの数を気にして称えられる存在なのか?」


 キールの反論をイワンが即座に打ち消した。


 ニコライも続ける。


「剣と銃では戦い方が大きく異なります。

 しかしだからこそ、『勇者』と呼ぶにふさわしい行動はキルの数ではありませんし、危険に飛び込むというものでもありません。

 もちろん戦って勝てば良いというものでもないでしょう。

 仲間をかえりみない行動など、褒められるどころか罰を与えられるべき愚行です。

 あなた方の前にデ・ミニオンと戦ったAクラスの十二人は、負傷により後退を選択しましたが、彼らの方が勇気のある行動だと私は思いますよ。

 逃亡ではなく後退。

 『生き延びる』という勇気ですからね。

 その証拠に、この施設で彼らを悪く言うものは一人もいません。

 なぜなら、引き下がることの危険と怖さは誰にでも想像できるからです。

 そして彼らもリベンジを誓っているからです」


 長々と述べたニコライは一旦言葉を区切り、改めてキールに問う。


「あなたの思う勇気、勇者とは何なのでしょう?」


 キールは何も答えられなくなり、机に置かれた自分の両拳を見つめるしかできなかった。

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