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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
五章 スクランブル
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④ 接敵

 暗視スコープの捉える夜の廃墟は、実際の目視より色彩が損なわれてバイザーに表示される。

 建物や破棄された自動車などの無機物は、全て青と緑のどちらかでバイザーの表面に描き出され、近いほど明るく遠いほど暗くなって一定の範囲を越えれば夜闇と同化した黒になる。


 その中で動物の反応は赤黒い影となって映るが、それも体温や熱があっての映像だということはニコライから教えられている。


 だから一定の距離を保ってキールの前方を移動しているのはゲンドウだと判断できるし、キールの真後ろを追ってきているのはカリーリだとの確信がある。


「ゲン。配置についた」


 短い無線でグァンダインの声が届いたが、マーカーはバイザーのマップには表示されていない。

 待機していた大型の建物から二百メートル以上離れてしまったから、グァンダインとゴルディはバイザーに表示されるマップの外に狙撃場所を陣取ったということだろう。


「キー、キャリー。カバーミー。

 タゲマーク」


 バイザーの表面でゲンドウのマーカーが止まり、同時に赤黒い影も止まる。

 どうやら敵の姿を発見したらしく、通信のあとに新しいマーカーが増えた。


 キールはすぐさま左手にあった路地へと身を隠し、カリーリを見る。


「俺は西に回り込む」


「東よりはマシね」


「ついてくる気か?」


 キールのすぐそばに膝を落としたカリーリがため息混じりに答える。


「連携するのだから当たり前じゃない?」


「それじゃゲンドウのカバーにならない。

 カリーリはこのままゲンドウの後ろを守れ。

 その間に俺が回り込む」


 言うが早いか、立ち上がったキールは路地の奥に向かおうとする。


「オーライ。

 でもこのまま直進は芸がないわ。

 私も回り込んでゲンドウの横につくわ」


「そうか」


 カリーリの行動を聞き流すような返事をし、キールはさっさと路地の奥へと走り出す。

 カリーリもすぐさまキールを追うように駆け出すが、ゲンドウへの通信も済ませておく。


「ゲン。回り込んで横につく。タイミングよろしく」


 コマンダーであるゲンドウはタクティカルとポイントマンを兼ねているが、その得物はサブマシンガンと火力が心もとない。

 キールが敵の横面に出るには時間がかかるにしても、せめてカリーリが回り込むまで攻撃を遅らせなければ、ゲンドウは一人で敵を迎え打たねばならなくなり囮以下に成り下がる。


「ラジャ」


 ゲンドウは我慢の時間が始まることを覚悟し、短い返事をよこした。


 カリーリは射撃の精度を保つために全力で走れない中、予定していた小路で方向転換の合間にキールの背中を見やる。

 バイザーの中で深い緑から闇色に溶け込んで見えなくなる瞬間だったが、魔物と戦っていた彼の背中ではないことに不安がよぎった。


 ――それでも勇者のはずだわ――


 キールへの信頼を心の支えにし、カリーリは身を低く沈めながらゲンドウの待つ大路へと向かう。


「ゲン! オーケーよ!」


 バイザーの表面で動く敵のマーカーを見ながらカリーリが呼びかけると、ゲンドウは返信しないままサブマシンガンの軽快な連射音を奏で始める。


 壁際から顔を出したカリーリには、ゲンドウの掃射で影が一つ倒れ、五つの影が散開するのか見えた。

 カリーリの場所からでもまだ三十メートルはある。


 なおも続くゲンドウの連射に混じるように敵からも発砲音がし始める。

 ただゲンドウのような連射ではなく重い発砲音を短く撃ってくる。


 ――アサルトかライトマシンガン!――


 銃撃の反響を抜きにしても、重々しい発砲音は強い威力と弾速を想像させ、カリーリに緊張を感じさせるには充分だった。


 と、ゲンドウの銃撃が止み、ベイザーに新しいマーカーが追加された。

 マガジンチェンジに合わせてゲンドウが追加したのだろう。


「グァン! 東のをスナイプ!

 キャリー! 西を!」


 その指示を受け、カリーリは大路の中央を歩む敵から、西側の自動車の影に潜んだ敵へと照準を変える。


 銃身を斜めに倒して突き出し、最小限の露出でエイムし、敵と同じように短い連射でプレッシャーを与える。


 カリーリの攻撃の合間に、大路の東側で着弾が起こり、コンクリートの壁で弾丸が跳ねた音がしたのはグァンダインの狙撃だろう。


 しかし、カリーリもゲンドウもグァンダインも残り五体の敵を仕留められぬまま、敵のゆっくりとした前進すら止められない。


「クソッ。マグチェンジ!」


「こっちもよ! グァン、お願い!」


 タイミング悪くゲンドウは二度目の、カリーリは一度目のマガジンチェンジに見舞われ、グァンダインにカバーを要請する。


 撃ちきって弾丸が空になったマガジンを抜き落とし、上半身にまとったベストか腰に巻いたベルトから次のマガジンを取って差し込むだけだが、それでも三秒から五秒の空白ができる。

 それは隙きとなって敵に攻撃されるがままになるため、チームやパーティーでフォローしあわねばならない。


 ゲンドウとカリーリの要請に則してグァンダインが精度の緩い狙撃で敵を牽制してくれるが、そのグァンダインも一射するごとにボルトレバーを引き、マガジンから弾丸を装填しなければ次が撃てない。

 五体の敵を五秒間足止めするのは酷でしかない。


「こっちだ!」


 歩みの止まらぬ敵の背後を、闇雲な乱射をしながらキールが駆け抜けた。


「無茶な!」


「ゲンドウ、撃って!」


 キールが大路を西から東へ駆け抜け、敵の注意がそれた一瞬に、ゲンドウは呆れかえったがカリーリはキールのフォローで盛大な連射を始める。


「命があったら説教だ!」


 キールに役割分担をめちゃくちゃにされたことを怒りながら、ゲンドウも西から東へと大路を横切りながらサブマシンガンを連射させ、ガラスのない窓枠から建物へと飛び込んでマガジンチェンジを行う。


「カリーリ!

 俺が引きつけてる間にポイント移動だ!

 グァンダイン!

 カリーリのカバーを!

 ゲンドウ!

 真ん中のに煙幕か目つぶしできないか?」


 物陰から高さを変えた射撃を行いつつ、キールは仲間たちに指示を飛ばす。


 その指示どおり、というわけではないが、カリーリは壁から大路へと姿を晒して、西から東へと五体の敵へ小刻みな連射を繰り返しながらゲンドウが最初に身を潜めていた物陰まで後退する。

 そのカリーリのフォローでグァンダインの牽制の狙撃が短い間隔で敵に降りかかる。


「ほらよっ! 光るぞ!」


 ゲンドウはやけくそ気味に窓枠から閃光を発する手榴弾を放り投げ、仲間への視界を保護するように注意する。


「マグチェンジ。

 ゴルディにフォローしに行ってもらう」


「おうよ!」


 ゴルディの戦士の血が騒いだことをグァンダインが察したのか、それともゴルディが願い出たのかは分からないが、ゴルディは気合いの声を発してすでにグァンダインの元から走り始めたようだ。


 そのタイミングでゲンドウの投げたフラッシュボムが起爆し、大路の中央で昼間の太陽のような眩しい閃光が瞬く。


「ブオッ!」


 気色の悪い鳴き声とも悲鳴ともつかない音を発しながら敵は闇雲な連射を始める。


「うおおおおおおおおおおっ!!」


「キール!?」


 フラッシュボムの残像に耐えるカリーリの耳に、無線ではなく肉声でキールの雄叫びが飛び込み、敵の乱射とは違う聞き慣れたアサルトライフルの連射が飛び込んできた。


「マジかよ」


「無茶よ!」


 ようやく残像が収まり視力が回復してきたゲンドウとカリーリの視野には、大路に倒れ込む三体の敵と、西側に居た敵に体当りする勢いで猪突するキールの姿が写った。


「しまっ――!!」


 だが運悪く四体目の敵に銃弾を浴びせる前にアサルトライフルは弾切れを起こし、キールは自分のミスを痛感するのと同時に、マガジンチェンジをするか副武装のハンドガンを抜くかを迷ってしまった。


「喰らえ!」


 聞き心地の悪いくぐもった声がしたあと、大路の西側に陣取っていた敵からの銃弾がキールへと向く。


「グァンダイン!」

「キールッ!」


 ゲンドウがグァンダインに狙撃を命じるのとカリーリがキールを援護したのは同時だった。


「うわっ」

「ぐおおぉ……」


 結果、カリーリの掃射とグァンダインの豪砲を受けて敵は横倒しになって動かなくなったが、キールも腹部と足に弾を受けて、たたらを踏んで大路に転がった。


「人間風情がっ!」


「カバーミー!」


 大路の中央の三体はキールが撃ち倒し、西側の一体はグァンダインとカリーリの銃弾に倒れた。


 しかし東側の残った一体が地に伏したキールへ怒りの言葉を発して銃を構えている。


 即座に飛び出したカリーリは自身とキールへの援護を仲間に頼み、キールの元へと駆け寄る。


「こっちだブサイク!」


 ターゲットに一番近いゲンドウが窓枠から飛び出し、サブマシンガンとハンドガンを二丁持ちにしてとにかく撃ちまくる。


 グァンダインからの狙撃もとにかくキールへ注意が向かないように精度を求めない連射を続く。


森神の息吹(ヒーリングブレス)


 キールに取り付いたカリーリは生命と植物の神に、キールの治癒を願った。

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