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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
五章 スクランブル
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③ 作戦行動

 もっともらしいキールの言葉に一応の同調をしてくれたのか、仲間たちは討伐任務への参加を了解してくれた。


 ある意味でニコライの狂気にあてられた感はあるが、この世界に来る前には魔王討伐を誓って勇者隊に参加した面々である。

 この世界での人類の未来がかかっているならば、その命を賭ける覚悟と信念があるのだろう。


 ただ、今のキールが同じ考えなのかとなると、仲間たちも半信半疑にならざるを得ないようだ。


 ニコライの指示でロッカーへ上がり、言われた通りの装備を揃えて地上へ出ると、実弾を渡されて輸送車に詰め込まれ、深夜の大地を運ばていく。


 その車中でカリーリが切り出した。


「ゲンドウ。

 今回はグァンダインのディフェンスをゴルディと代われないかしら」


 キールだけでなく、話しかけられたゲンドウも名前のあがったゴルディも驚きを隠せない。

 これまでにカリーリがこうした主張をすることは少なかった。


「別に構わねぇが……。

 ディフェンダーからアタッカーってのは全然違うぞ?

 ゴルの旦那はもとの世界でもキールと連携をやってた。

 いきなりそれをやろうってことだぞ」


「分かっているわ。

 わたしだってずっと後ろから見てきたのだもの。

 仲間がどんな動きをするのか、何を考えているのか分かるつもりよ」


 一歩も引く気配のないカリーリの言葉にゲンドウは言葉が継げなくなり、視線を彷徨わせた結果、キールに声をかけた。


「キール。

 カリーリはこう言ってるが、お前はどうだ?

 フロントで連携するのはお前なんだから、キールが決めてくれ」


 キールはじっとゲンドウとカリーリを見返していたが、視線を一旦手元に落とし、グローブに包まれた手を強く握ってから答える。


「誰とでも構わないさ。俺は前へ出て敵を撃つ。それだけだ」


 そこからはキールは目を閉じてしまい、ゲンドウは戸惑い混じりのため息をついてカリーリにささやく。


「……すまんが、キールを頼むぜ。アイツを死なせたくねーからな」


「わたしが望んだことよ。わたしだってキールには死んでほしくないもの」


 小さく微笑み返したカリーリの肩を叩き、ゲンドウはゴルディにも目配せをし、グァンダインを指差した。


 それだけでゴルディもグァンダインもゲンドウの気持ちを察したようで、神妙な面持ちでうなずく。


 それきり会話はなく、輸送車のエンジン音とタイヤが砂利を踏んで進む音、時折くぼちで車体が跳ねる音が続く。


「目的地に接近! 気を引き締めろ!」


 輸送車の速度が落ち始めると、無線を通して注意が促され、車内の緊張は高まる。

 キールらを含め十五人ほどが荷台に座っているが、全員が訓練生なのだから当然だろう。


 初めて戦場に立ち、初めてデ・ミニオンと戦うのだから。


「間もなく拠点がある市街地に入る!

 マップは頭に入っているな!

 討伐部隊と支援部隊、防衛隊と偵察部隊はそれぞれの役目を果たせ!

 総員、武装のチェック!

 銃の安全弁は降車と同時に外せ!」


 やたらと細かい注意が無線機から聞こえる中、輸送車の揺れが収まり始め、安定した走行になった。

 キールは初めて地道と舗装路の違いを体感したが、尻の痛みが簡単には引いてくれないことが気になった。


「拠点から一キロ離れたところで防衛線を張る。

 討伐部隊はそこから三方に別れて敵を囲む!

 ただし、敵が散開した場合は小隊ごとに各個撃破へと作戦が切り替わる!

 無線の指示を聞き漏らすな!」


 付け加えられた注意のあと、輸送車はゆっくりと停止し、車内の雰囲気は一気に変化する。


「降車! 各小隊はポイントへゴー!」


 輸送車の停止から間を開けずに短い指示が出て、小隊ごとに輸送車後部から車外へと出ていく。


 キール小隊はゲンドウ・グァンダイン・ゴルディ・カリーリ・キールの順に降車し、五人が揃ったことを確かめて、あらかじめ示されているポイントへと駆け出す。


 辺りは夜闇で真っ暗だが、事前に覚え込まされた地図とバイザーに投射される待機場所の印に従って走れば迷うことはない。

 昼間ほどの色彩は無くとも暗視スコープで建物や障害物は視認できる。


「次の指示まで待機だ」


 もとの世界では見たこともない背の高い建物が建ち並ぶ中、ゲンドウは道路に面した壁一面が大きな窓枠の店舗らしき場所を待機場所に選び、その奥のカウンターに身を潜めた。


 キールたちが訪れたことのある王都や街よりも広大で発展した都市だが、デ・ミニオンとの攻防が続くうちに廃墟となって久しいらしく、キールらが身を潜めた店舗も朽ちて落下した装飾品や風雨で腐った構造材が床に散乱している。

 それでいて食べ物や水の腐敗臭や動物の匂いや気配がしないということは、グァンダインの年齢よりも長い期間放置されていると想像できた。


「――敵は三方に分かれた。

 C7は西へ移動し、A3・A4のフォロー」


「ラジャー」


 全体への無線ではなくキール小隊個別への無線連絡が入り、新しいポイント指示がバイザーに投射される。

 即座にゲンドウは了解の旨を返し、仲間にうなずきかける。


 カウンターから道路側の窓枠まで進み出て辺りを警戒し、ゲンドウ・グァンダイン・ゴルディ・カリーリ・キールの順で道路を横切って建物の隙間へ入り込む。


 時折ゲンドウが周囲と上空を警戒して立ち止まれば、最後尾のキールも後方と上空を見回して危険の芽を潰していく。

 敵がもとの世界にも居た魔物と類似した存在であるならば、こうした建物に囲まれた場所では上方も意識しなければならない。

 少なくともゲンドウやキールは、高所から襲いかかってきたり飛行能力のある魔物を知っているのだから。


 いくつかの路地を忍び足で駆け抜けたり、穴の開いた壁を通り抜けたりを繰り返して、ゲンドウは屋内に市場を模した大型の建物を待機場所に選んだ。

 何層にも店舗跡らしきものがあることから、ニコライに教えられたデパートの跡地だと思われる。


「キール小隊、ポイント到着。

 ……グァンダイン、狙撃場所を探しておいてくれ。

 キールとカリーリとゴルの旦那はマップのおさらいだ」


 ゲンドウは指揮者に状況を知らせたあと、次の行動を見越して仲間に指示を出した。

 すぐさまゲンドウの指示の通りに四人はマップ上の検索にかかる。


 キールらは三つに分かれた敵部隊の西側の一つを担当するが、あくまで前に出て対峙するのは自分たちよりも訓練された教室であって、キールらはその支援になる。

 それでも準備を怠れば、討伐部隊のみならず周辺の偵察や一キロ後方で拠点を守る防衛部隊への負担になってしまう。


 ニコライの講義でも個人のミスが全体に影響することは口酸っぱく繰り返されている。


「狙撃ポイントの目星はつけ終えた。あとは敵の動向次第というところだ」


「……だな。

 ま、先輩方が片付けてくれりゃ出番なしで気張らなくてすむんだがなぁ」


「楽観と油断は禁物だ」


「これは実戦よ。訓練以上の訓練と思わなければね」


 気の緩みではないが思わず他愛ない会話が仲間の間で続いた。

 ただキールだけは外の様子に意識を向け、この会話には関わろうとしなかった。


 コマンダーやリーダーを担っていないとしても、やはりどこかが今までのキールとは違い、カリーリを心配顔にさせてしまう。


 そんなカリーリの肩をゲンドウが叩いた時、無線がキール小隊に呼びかけた。


「西の討伐隊の応援に向かえ。

 現在地より北北西に五〇〇」


「ラジャー。

 グァン、ゴル、狙撃位置へ。

 キールとキャリーは俺の五十メートル後ろからフォロー」


 指示を端的に済ませるために全員で決めた愛称でゲンドウが指示を出すと、グァンダインは即座に狙撃位置にマーカーを打ち込み、ゴルディとともに移動を開始する。


「頼んだぜ」


 二人が闇に紛れてすぐゲンドウはキールとカリーリに一声かけて夜闇に走っていく。


「……行くぞ」


 バイザーの表面でゲンドウのマーカーがきっかり五十メートル離れるのを見届け、キールはカリーリを見ずに呟いて夜闇に飛び出した。

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