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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
五章 スクランブル
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② 決断

 キールは日付けが変わるまで弾丸を撃ちまくったが、自分の無力さと情けなさを痛感し、虚しい気持ちから銃を撃つ気力もなくなり宿舎へと戻った。


 部屋に備え付けてあるバケツほどに小さい冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出して一気に飲み干し、シャワーを浴びた。


 体に湯を浴びせることで少しだけ前向きになり、今まで使っていたアサルトライフルとは別のものを試してみようとか、次の実戦訓練では積極的にアップしてみようと考えていた。


 もといた世界では湯船に浸かる文化がないためか、シャワーで湯を浴びただけでもずいぶんと気分転換できた気がして、ベッドに入ったキールはすぐに眠りに落ちた。





 どのくらい眠ったころだろうか……。


 違和感を感じて目を覚ましたキールは、室内が赤く明滅していることに驚き、続いて聞き心地の悪いブザーが鳴り響いていることに慌てた。


「何事だ!」


 ベッドから飛び起きて通路へ出ようとしたキールだが、肌着だけであることを思い出して急いで制服を身に着ける。

 と、その間に入り口付近に取り付けられているスピーカーから放送が始まった。


《スクランブル! スクランブル!

 総員起こし!!

 戦闘員は所定の持ち場へ付け!!

 訓練生は直ちに教室に集合!!

 繰り返す!

 スクランブル! スクランブル!》


 キールが制服を着終わるまでに何度も繰り返された放送から、キールに必要な情報と指示を聞き取る。


「キール!」


 キールが部屋を出ると、同じタイミングで仲間たちも通路に飛び出したところだった。


「……教室に急ごう!」


 ゴルディの部屋からカリーリが出てきたことが気になったが、今そのことを追求している場合ではない。

 仲間に声をかけ地下六階のC7教室へ向かって走り出す。


 全ての通路、全ての部屋に非常事態を知らせる赤い明滅が起こっていて、スクランブルを告げる放送は繰り返し流れていた。

 さすがに地下訓練施設の全員がいっせいに起き出して行動しているのでエレベーターを使うわけにゆかず、キールたちはエレベーター横の階段を駆け上がって上階へ向かう。


「全員揃っていますね?」


 飛び込むようにして教室に入るとすでにニコライが待ち受けていて、緊迫した表情で人数の確認をとった。


「五人全員揃っています。何があったんですか?」


「説明します」


 短く答えたニコライは、いつものホワイトボードに地図らしき画像を写し出した。


「この黒い点がこの地下訓練施設の位置です。

 こちらの白い点が我々の同志の拠点です。

 そこから伸びている矢印は、現在、同志が敵の拠点に攻めこもうと向かっている経路です。

 そして、その矢印と逆行するように伸びている矢印。

 これは先ほど報告されたデ・ミニオンの偵察部隊です」


 説明するニコライの声色のせいか、淡々とした説明は分かり易かったが緊迫感は乏しい。


「危険が迫っている、ということか?」


「我々にではなく、同志の拠点に、ですがね。

 しかしこれを放ったらかしにはできません。

 なぜならこの矢印が示す通り、この拠点は今、敵の拠点に攻め込むために大多数の戦闘員が出払っているのです。

 また同志の居る拠点が壊滅した場合、この地下訓練施設の近くに敵の拠点が生まれることになります。

 同志を助ける意味でも、我々の使命を果たすためにも、対処せねばなりません」


 静かで淡々とした口調に忘れてしまいそうになるが、依然室内は非常時を知らせる赤色灯が明滅したままだ。


 ようやっと実戦訓練を受けられるまでになったばかりのキールからすれば、息を飲むような危険度は理解できたが、これから何をしなければならないか、何を命じられるかの想像がつかない。


「……我々は何をすれば良い?」


 一番最初に業を煮やしたのはゴルディで、押し黙ったニコライの口を開かせるために重々しく問うた。


 ニコライは答える。


「この施設の正規の戦闘員を動かすことはできません。

 しつこいようですが、この施設は人類の最後の砦なのです。

 結果、実戦に耐えうると思える者を差し向ける、という判断になりました。

 あなた方より訓練を積み成績優秀な方々から選抜して、同志の援護に向かってもらいます。

 幸いなことに敵は偵察を主とした小部隊ですから、数を頼りに上手く攻めれば打たれ強いデ・ミニオンといえど、勝機は多分にあります」


「……無茶苦茶な判断だ!」


 キールが心の中で呟いたセリフをゲンドウは容赦なく吐き捨てた。

 正規の戦闘員を温存して訓練生をいきなり実戦に放り込むのだ。

 ヤクザの抗争に少年を巻き込むに等しい。

 まともな指揮官の判断ではない。


「敵の数は二十というところです。

 訓練生百人では勝てませんか?」


 顎を上げ、ニコライはキールたち五人を挑発するように見る。


「練度によって勝算は変動する。

 ……煮えきらぬ水ではスープの味を落とすのみだ」


「グァンダインさん、あなたらしくありませんね。

 あなた方はぬるま湯に浸かっていたとでも?

 ならばこそ、これから業火にかけて煮詰めていきましょう。

 戦場を知らずして戦場を生き抜く戦士にはなれません。

 あなた方には周辺の警戒任務が当てられていましたが、私の権限でデ・ミニオン討伐部隊に加えさせていただきます。

 もっとも、これは私の勝手や過大評価で行っているわけではありません。

 あなた方を正しく評価しているからこそです」


 平坦なニコライの顔が狂気じみたものへと変質し、まっすぐにキールたちを指して悦に入った笑顔で顔を歪めている。

 その変容は普段が平坦であればあるほど不気味で、ゴルディやグァンダインが息を飲む音がした。


 カリーリに至っては「無茶よ」と呟き、信奉する神の御名を口にしたほどだ。


「…………みんな、行こう」


 キールの決断に全員の目がキールへと向く。

 ゴルディが不安げに問う。


「正気か?」


 キールはみんなを振り返って答えた。


「もちろんだ。

 俺たちは充分な訓練を積んだとは言えないかもしれない。

 しかし、そんなのはちょっとの差でしかない。

 そう、早いか、遅いか。

 ……きっとそれっぽっちの差しかないはずなんだ。

 俺たちが世界最強なんて呼ばれる前は、ただの勇者隊の一員でしかなかった。

 たぶんそれはここでも同じじゃないか?

 実戦に出なければ、勇者を夢見ている子供と一緒だよ。

 行こう。

 俺たちはもう人類を救うために学んでいる。

 ここでも勇者にならなきゃいけない」



 だがその目は赤色灯の明滅の中でさえ分かるほど勇気とは違う色をしていた。

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