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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
五章 スクランブル
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① 戦果と課題

 目を覚ますと、長くて美しい赤髪が目の前で揺れていて、その向こうに女性らしい緩やかな顎のラインが見えた。


「キール、起きたのね。……キール?」


 目が開いているのに反応のないキールにカリーリは二度名前を呼んだ。

 横たえられたまま傍らのカリーリをぼんやり眺めていたので、それも仕方ない。


「また俺は死んだ」


「わたしが死神にでも見えたというの?」


 漠然と心の内を言葉にするとカリーリは意地悪を言ってきたので、普段なら言わない本音を言ってやる。


「いや、いつも通りの女神様だよ」


「それは言いすぎよ」


 照れたような困ったような顔で笑ったカリーリは、キールの肩を軽く叩いて起きるように促した。


「……結局、訓練はどうなったんだ?」


 キールはアイガンを討ち取り、喜びのあまりに立ち上がったところまでは覚えている。


「わたしたちの勝ちよ。

 今は撃たれてデス状態の人が起きるのを待っているの」


 キールは、ゲンドウの指揮に従いパーティーが勝ったことは素直に嬉しかったが、撃ち殺されて擬似的な死亡(デス)状態の中に自分が含まれていることが情けなく悔しかった。


「キール、起きたか」


「ゲンドウ、すまない。

 援護してくれたのに、別の敵に狙われていることに気付かなかった」


 意識を取り戻したキールの元へゲンドウとゴルディとグァンダインが歩み寄ってきた。


 実戦訓練は勝ちを収めたとはいえ、真っ先にキールがデスしたことはコマンダーのミスと判断されかねない。

 キールはそのことを詫びたつもりだったが、ゲンドウは気にしたふうもなく違うことを言った。


「訓練なんだからデスは気にしなくていいだろ。

 そんなことより、カリーリ以外は初めての訓練でキルを取れた。

 そこを素直に喜ぼうぜ」


 体を起こしただけのキールに合わせるように、ゲンドウはその場に屈みこんでニヤリと笑って続ける。


「ただな。

 コマンダーをやってみて思ったのは、やっぱりしんどい役目だぜ。

 よくこんな疲れるポジションやってたよな。

 尊敬するぜ」


「我も同意する」

「認めざるを得ないな。パーティーメンバーの能力や思考を把握しておらねば成し得ぬ役目、だな」

「ね、キール。やっぱりあなたじゃなきゃ務まらないわ」


 ゲンドウのみならず、ゴルディ・グァンダイン・カリーリから称えられ、キールは気後れしてしまう。


「それは、そんなんじゃないんだ。

 なんとなく流れでいつの間にか俺が指示をしていたけれど、みんなが指示どおりにしてくれたし、これまで生き延びてこられたのはみんなの能力が秀でているからだよ。

 俺なんて、一歩離れたところから見れば、ただの威張りんぼうで無能な人間でしかない。

 勇者なんて、おだてられてただけだ」


 仲間に囲まれているのに卑屈な物言いをしたキールを見て、ゲンドウは確認せねばならなかった。


「じゃあ、コマンダーをやるつもりはないのか?」


「……実力とか自信がつくまでは」


「…………そうか、分かった」


 うつむいてしまったキールを見、ゲンドウは仲間たち一人一人と目を合わせてキールの気持ちを受け止めた。


 と、キールが顔を上げてゲンドウを見る。


「ゲンドウの指示は的確だと思った。

 分かりやすくて行動に移りやすかった。

 ただ、な。

 剣や魔法で戦っていた時なら長くて細かい指示は有効だと思うんだけど、銃を使った戦闘では時間がもったいないと思うんだ。

 指示を聞いて考えている間に敵は動いているわけだし、状況も変わってしまう気がする。

 だからもっと短く指示するべきかもしれない」


 キールの急な提案に仲間たちは互いを見合って判断が付きかねる表情になる。


「例えば、どうすれば良いと思いますか?」


 キールを中心にゲンドウたちが輪になってしゃがみこんでいるところへ、ニコライが顔を出して問うた。


「そ、そうだなぁ……。

 名前を短く呼ぶとか、番号にするとか。

 あとは、させたい行動やして欲しい行動を略したりとか」


 急な質問で慌てたが、キールは思い付いたものをとにかく口にしてみた。


「素晴らしい!」


 キールの回答を聞いたニコライは嬉しそうに笑い、拍手をして称えてくれた。

 逆に、キールはほめられるほどのことをしたつもりがなく、照れくさくて頭をかいた。


 キールとの温度差をものともせず、拍手をやめたニコライはなおも嬉しそうな表情で続ける。


「本来、この実戦訓練は勝敗にこだわるものではなく、戦術や作戦の進め方を学ぶために行われた訓練でした。

 その目的の一つに、訓練を通して『指示・命令の簡略化』というものを解説する予定でいたのですが、自らの体験を通してその解に至ったことはとても素晴らしいことです。

 単純にゲンドウさんの2キルとグァンダインさんの2キルも実戦訓練では素晴らしい戦果ですし、キールさんとゴルディさんの1キルも胸を張って良い戦果です。

 それよりも敵小隊の殲滅という結果は、なかなか短時間では行えない。

 初戦からこんなにまとまりの良い小隊は珍しいですよ」


 感情を隠さずに称賛を続けるニコライに、キールたちはどう対応していいか分からなくなり、とりあえず礼を述べておく。


「ありがとう、ございます」


「いやいや。

 大抵、最初に行った実戦訓練は勝手がわからずに右往左往して、とてつもなく無様な泥試合が長々と続くのです。

 皆さんの快挙に私も興奮してしまいましたよ」


 確かに、今までこんなに表情豊かに話すニコライは見たことがない。


「おっと、時間がないので簡単に略称を示しておきます。

 まずスナイパーはSP。

 ポイントマンはPT。

 アタッカーとディフェンダーは見た目では分かりませんから、総じてエネミーとしています。

 またこれも見た目では分かりませんが、装備や身振りで隊長格を見抜けることがあります。

 その際はコマンダーを略してCDと呼びます」


 腕時計で時間を気にしながらニコライは早口で解説をすすめる。

 彼の教え方として大事なことほどメモを取らせない。

 戦場では射撃中で両手がふさがっていても指示命令が飛んでくるからという理由だ。


「ここからは行動の略し方です。

 援護して欲しい時はカバー。

 連携したい時はフォロー。

 様子を見たり待機の時はステイ。

 個人を前進させる時はゴー。

 全体を進める時はアップ。

 逆に後退する時はバック。

 当座必要なのはこのあたりでしょうか。

 もうすぐ二度目の訓練を始めます。

 これらの符号を使って戦ってみてください」


 許された時間を全て使ったのか、ニコライはキールたちの返事を聞かずに足早に立ち去った。


「……大丈夫か?」

「俺ぁ覚えた。みんなは?」

「もちろん」

「大丈夫よ」

「無論、記憶した」


 キールの確認にパーティーメンバーそれぞれが答え、立ち上がって各々の銃を構えた。


「よし! 次も勝とう!」


 キールの発した気合に全員が「オウ」と答え、第二戦のスタート位置に着いた。





 結局この日は、C6との実戦訓練を四度行いその全てにキールたちが勝利した。


 合間にニコライからの追加のアドバイスもあったが、それはC6のメンバーも同じだ。


 ただ一点、夕食後に一人で射撃訓練場に赴いたキールは、常用しているアサルトライフルを撃ちながら実戦訓練の反省を繰り返す。


 ――ニコライさんは、初めてにしてはキルを取れているとほめてくれていた。

 確かに初戦は1キル。

 続く二戦目三戦目は2キル。

 最後の四戦目は1キルだった。

 けれど、四度ともキルをとった後にはデスを取られた。

 つまり、討ち取った後にボケッと突っ立ってる所を狙われたということだろう。

 これはきっと剣で魔物を切り倒したあと、息の根を確かめたり次の敵を探すために周囲を見回す癖ができてしまってるからじゃないだろうか?

 ゲンドウの指示の仕方や、指示の長さのせいじゃない。

 事実、二戦目からのゲンドウはニコライさんから教わった略称や符号を使っていたからな。

 …………。

 ということは、やっぱり俺の癖や突っ込んでいく勇気の問題だ――


 自分が思い通りに立ち回れない原因は自分にある。

 そう結論づけたキールは、今セットされているマガジンを撃ち切るまでトリガーを引いたままにして連射し、ブースに備え付けられている台に銃を置いた。


「クソッ!! 勇気って、勇者って、こんなんじゃないだろう!!」


 密閉され遮音されたブースで、キールは自分自身へ怒りをぶつけた。

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