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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
四章 実践訓練
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③ 不信

「さすが、グァンダインだな」


 キールはグァンダインの記憶力と知識の深さを手放しで褒め称えたが、グァンダインの顔は晴れやかではない。


「そのように大層なものではない。

 私も、スナイパーライフルとの相性に思い悩んだゆえ、銃火器の選択肢を調べただけに過ぎないのだよ」


 意外な答えにキールは驚いてしまった。


「そんなふうには見えなかったが……」


「あるのだよ。

 私は広範囲魔法や個別の魔法を行使してきたが、『魔法を唱える』という動作は言ってしまえばオートマチックなのだ。

 呪文を唱えて向かわせたい場所や相手を指し示せば、あとはそこに効果が表れるだけなのだから。

 しかしスナイピングはそうはいかない。

 しっかりと目で見て、狙い撃たねばならない。

 敵も動いているだろうし、私の身体も完全に静止するわけではない。

 ましてやアサルトライフルやマシンガンの様に連続射撃も適わない。

 ゴルディの悩みは、即ち私の悩みでもあったのだ」


「そうだったのか……」


 グァンダインの真剣な面持ちにキールは少なからずショックを受けた。


 カリーリに『初心に帰ろう』と言われて心を入れ替えたつもりだったが、ゴルディやグァンダインの悩みを聞いた今、覚悟が足りていないことを実感したからだ。


 ニコライの講習も、イワンの指導も、真剣に聞き真面目に取り組んでいる。

 しかしキールはアサルトライフルの扱いや戦場でどう活かせるかまで考えたことはなかった。


 ただ射撃制度が高くなり適応してきたという感覚を得て、この世界で通用するような過信を抱いてしまったのかもしれない。


「もう少し詰めておきたいことがあるので、失礼するよ」


「あ? ああ。分かった」


 いつも通りのゆったりとした足取りで射撃ブースへ入っていくグァンダインを見送り、キールも気後れしながらもブースへ向かう。


 ――ゴルディやグァンダインは、やはり一流の戦士で最高の魔導師だ。

 斧や魔法が通用しない世界に来ても、自分にできることを見付け、全力で取り組んでいる。

 俺にはそんなものがあるだろうか?

 講習やトレーニングに真面目に取り組むのは当たり前のことだ。

 そこから先。

 自分が生き延びるため……。

 仲間を守るため……。

 人類を救うために何かに取り組めているだろうか?――


 これを邪念と思ってはいけないのかもしれないが、キールは考え事をしながら射撃練習を行ったため、散々な結果になってしまった。


 的に当たらないばかりか、姿勢が崩れ体の随所に痛みや引きつれを感じる。


「……こんなんじゃアイガンには勝てない」


 いやらしい目で下品に笑う隣りの教室の男を思い出し、キールは今日の自主練習は切り上げることにした。





 スッキリとしない気分で宿舎まで戻ってくると、キールはゲンドウの部屋の前で足を止める。


 ――ゴルディやグァンダインが自分の主武装で悩んだり研究したりしているんだ。

 ゲンドウもきっと彼なりの研究や見解があるに違いない――


 アイルノン王国で勇者隊に参加し、初めて顔を合わせてパーティーを組んだ際、ゲンドウは過去に某国の密偵をしていたことがあると言っていた。

 一国の密偵となれば、身のこなしの良さや備えている技術の高さだけでなく、考えたり調べたりする能力も必要になる。


 事実、ゲンドウは文字を読むこともできたし、初めて訪れた国でも土地の人々とすぐに打ち解けたりしていた。

 キールが情報を欲した際には、ふらりと街へとでかけて行って必要な情報を持ち帰ってきてくれた。


 きっとこの世界でもその能力を最大限に活用しているはずだ。


「ゲンドウ、ちょっといいかい?」


 ノックの後に声をかけたが、返事はすぐに返ってこない。

 ――外出しているのか?――と思ったタイミングで返事があった。


「どうした? 急ぎじゃないなら後にしてもらいてーな」


 キールはおや?と思う。


「急ぎではないが……。

 ちょっと話をしようと思ったんだが。

 今、都合が悪いのか?」


 またゲンドウからの返事は間が空いた。


「……いや、いいぜ。入りな」


「そうか? 失礼するよ。

 ……カリーリ? なぜここに?」


 ドアを開けると、突き当りの壁に背をもたれさせたゲンドウと、ベッドに腰掛けたカリーリの姿が目に入った。

 まさかカリーリもゲンドウを訪ねてきているとは思わなかったので、その理由を問うてしまった。


「……ちょっと、わたしもゲンドウに話があったのよ」


「……そう、なのか……」


 困ったような戸惑ったような顔で答えたカリーリを見て、キールもなんとなく動揺した返事しか出てこない。


 今までに感じたことのないモヤモヤが胸の奥に生まれる。


「それならやはり今度にするよ」

「いえ大丈夫よ。もう話は終わったから」


 出直そうとしてドアを閉じかけたキールを、カリーリは慌てて引き止める。


「……でも、いいのか?」


「カリーリが終わったと言うんだから問題ないさ。

 そうだろ?」

「それは、そうよ」


「そうなのか?

 それならいいんだが……」


 カリーリとゲンドウの言葉に、キールの胸の内はやはり何かがわだかまるが、本人たちが良いというのならそれ以上は追求もできない。


「それより何の用なんだ?」


「ああ、うん――」


 ゲンドウに促される形であったが、キールは先程のゴルディやグァンダインとのやり取りを語って聞かせ、ゲンドウもそうした研究や模索をしているのかを問うてみた。


「――なるほどな。

 まあ確かにグァンダインほど突き詰めたりはしてないが、一応はやってるぜ。

 射撃訓練場で試せるサブマシンガンは一通り撃ってみた程度だけどな」


「わたしもそうよ。

 イワンに勧められた銃がしっくり来なかったから、ゲンドウと同じ様に試せるものは一度は試したわ」


 やはり、とキールはまたショックを受けた。


 ゲンドウのみならず、カリーリまで自分にマッチする主武装を研究し模索していた。


「みんな、色々と考えているんだな。

 俺は、恥ずかしい。

 イワンに勧められた銃を使いこなせていると思って、使いこなしていると過信して、自分に合う銃がどんなものかさえ考えようともしていなかった」


「それは違うわ」


 弱音を吐きうなだれるキールをカリーリが否定する。


「違う?」


「そうよ。

 上手く使えるようになれば誰だって自信を持つものよ。

 不満や違和感がないのならば、自分に合った銃を探す必要さえない。

 そうでしょう?

 だってその銃を使えているのだもの」


 カリーリに励まされてキールは一応の納得はした。

 確かに初めて使ったものが自分にとって最良のものであるなら、あえて別のものを使ってみる必要はないのだ。


「キール、自信を持っていいのよ」


「カリーリ……」


 カリーリがいつもの優しくて温かい笑顔を見せてくれたのでキールは胸が熱くなった。


「……ちょうどいい。

 実はカリーリとその話をしていたところなんだ」


「そうなのか?」


 黙って壁にもたれていたゲンドウがおもむろに口を開いた。


「ちょっとゲンドウ、その話はまだダメよ」


「いや、遅いか早いかの話じゃない。

 どのみちしなきゃいけない話なら、先にやっておくべきだ。

 間違いがあってからでは遅い」


「でも…………」


「何の話だ?」


 何かを打ち明けようとするゲンドウと、それを止めようとするカリーリのやり取りに、キールは疎外感を感じてしまう。


「……いいか、キール。

 簡単に言えばさっきの自信の話なんだがよ。

 今まで俺たちはお前を中心にして戦ってきた。

 魔物の討伐じゃ、お前の勇敢な戦い方と的確な判断力と自信に満ちた行動は、俺たちを束ねる勇者にふさわしいものだった。

 しかし、ここに来てからのお前はどうだ?

 高圧的な人々に苛立ち、気に食わないことは態度に出す。

 アイガンだったか?

 クソみたいなヘボ男に同等の態度を示したというじゃないか。

 あと、俺の勝手な想像だが、最近のお前は暗闇や影を恐れているような気がする。

 まあ、たぶんザリダンダリラリに殺されかけた影響なんだろうけどな。

 ……俺やカリーリもその節がないわけじゃないからな……。

 おっと、話がそれた。

 つまり、今のお前は俺たちパーティーメンバーを引っ張っていけるリーダーなのか? という話なんだ」


 壁から背を離し身振り手振りを交えて物申すゲンドウの表情は、普段のおどけたりニヤついたりしているムードメーカーとしての色はなく真剣だった。


 キールが気にしていることや図星の話もあった。

 だがキールはゲンドウになんと答えていいのかが分からない。


 いつの頃からか、仲間たちと旅をしている間に、自然といつのまにかキールがリーダーシップをとっていた。

 誰かに頼まれたわけじゃなく、キールが宣言してリーダーになったわけでもない。

 そしてこの世界に来てからも当たり前のようにキールがリーダーシップをとるものだと思っていた。


「……今度の訓練、俺がコマンダーをやる」


 黙ってしまったキールに追い打ちをかけるように、ゲンドウは低い声で宣言した。


 キールは黙ったままカリーリを見やったが、カリーリは申し訳なさそうにキールから顔をそむけた。

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