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ブレイブバレット ―決死の弾丸―  作者: 天野鉄心
四章 実践訓練
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② 適応

「……ふう」


 射撃訓練場の傍らにある休憩室のベンチで、キールはオレンジジュースを飲み干して大きく息を吐いた。


 さっそく午後のトレーニングでアサルトライフルを手にして試射し、イワンから注意やアドバイスをもらい、夕食の後にまた射撃訓練を自主的に行ったのだが、ハンドガンとの違いにやや苦戦を強いられた。


 何時間も撃ち続けたので今は休憩中だ。


「お疲れ様。調子はどう?」


「カリーリこそお疲れ様。

 ほどほど、というところかな。スコープでエイムとか、腰だめ撃ちとか、体を屈めてとか、全く勝手が違うものだから」


 アサルトライフルはハンドガンと違って長大で重く、発砲時の反動も大きい。

 そのためにワンハンドやツーハンドで固定できていたハンドガンとは異なり、グリップとは別に銃身の下に取り付けたアンダーグリップを掴んで安定させたり、肩や体に当てて反動を抑え込むためのストック(肩当て)で安定させる。

 またスコープを覗き込んで照準するエイムという動作は、銃を顔の高さまで持ち上げるために発砲の反動の抑え込み方が変わってくる。

 同様に腰の高さで撃ったりしゃがんで撃つ際も、力の入れ方や反動の逃し方が変わる。


「ふふ、そうね。

 スピアの取り回しみたいなものかしらね」


「そう。そのくらい違うな」


 他愛ない雑談ながら、カリーリの勤勉さと頭の良さにキールは感心してしまう。

 神官であるカリーリが槍を使うことは少ないのに、スピアの取り回しを知っていることや、その話をすることでキールにアドバイスを与えようとしていると分かるからだ。


 ゴルディやゲンドウ、グァンダインとも協力や助け合いや気遣いをしあっているが、やはりカリーリの女性らしい声や容姿は、キールを不思議な気持ちにさせてくれる。


「こんなところでイチャイチャするんじゃねーよ」


 突然、下卑た男の声がした。

 ベンチに腰掛けている二人にかけられたものだが、キールもカリーリもその声に聞き覚えはない。


 声の方を見ると、三十歳くらいのやせた男が斜に構えて立っていた。

 印象としてはゲンドウに似ているが、キールたちに向けている目は嫌らしさと下品さで汚れている。


「失礼。どなたでしたでしょう? 初めて顔を合わせると思いますが?」


「まあそうだな。

 この施設は人が多いし、接点なんてものは食堂か宿舎か通路しかないからな」


 男は「それは仕方ないよな」と続けたが、まるでチンピラのような言い回しにキールはムッとする。


「そちらから話しかけてきたのだから、名乗るくらいしたらどうだ」


「……俺はアイガン。教室はお前らの隣のCの6だ」


 アイガンと名乗った男が明かした教室の番号で、キールは一つ思い出したことがあった。

 今日のトレーニング中に、イワンが『新しい銃に慣れたら隣りの教室と実戦訓練を行う』と予告していた。


 そのためアイガンも教官から訓練のことを聞かされ、キールたちの様子を見に来たのだろうと想像できた。


「そうか、隣りの教室の人か。

 俺の名前はキール。

 もう少ししたらそちらと実戦訓練をやることは聞いている。

 よろしく」


 アイガンの態度の悪さから対等に話すことが馬鹿らしく思え、キールはベンチに腰掛けたまま右手を差し出して握手を求める。

 上辺だけでも人当たりよくしてしまうのは勇者としての癖かもしれない。


「へっ。よろしくじゃねーよ。

 訓練とはいえ実戦同然の訓練だ。

 いわばお前らは俺様の敵だ。

 握手なんかしてやらねーよ」


 気持ちが良いくらいやさぐれているアイガンの言葉に、キールは遠慮する必要がなくなってホッとした。


「確かにな。

 じゃあ何か他に用事があるのか?

 声をかけてきたということはそういうことだろう?」


 握手を拒まれた右手を下ろし、めあげるように聞いたキールに、アイガンは腕組みをして答える。


「用事ってほどじゃぁない。

 だた単純にアイルノンの坊やには負けないと言ってやりたかっただけさ。

 訓練で吠え面かかせてやるから、首を洗って待っとけ。

 あばよ」


 腕組みを解き、不敵な笑みを浮かべながらアイガンは首を掻き切る仕草をして喫煙所へと歩み去っていった。


「嫌な奴だ」


「けれど、アイルノン王国を知っているふうだったわ。

 何者かしら……」


 確かに、カリーリの指摘の通りアイガンは『アイルノン』とハッキリ口にしていた。


 この施設には何百・何千と人が集まっていて、未だにキールたちはその全容を知らずにいる。

 デニスやユーゴ、ニコライやイワンもそのあたりは教えてくれないし、アイルノン王国は別世界のようにしか話さない。


 しかしキールたち以外にもアイルノン王国を知る人物がいるということは、キールたちにとって何かしらの情報が得られるのではないかと期待が生まれた。


「分からない。

 だがこれで奴との実戦訓練は負けられなくなった。

 というより、あんな奴には負けたくない」


 少し低俗で感情的な言い方をしたキールを、カリーリは困ったような顔で見つめていたが、「そうね」とだけ返事をした。






 その二日後、いつものように夕食後に射撃訓練場に足を向けたキールは、一人用のブースから出てきたゴルディを見つけた。


「ゴルディ。どうかしたのか?」


 ガッシリとした体格だがキールより少し背の低いゴルディが、物憂げに背中を丸めている様を見て心配になった。


「ああ、キールか。

 いやなに、どうもアサルトライフルが扱い難くて難儀をしておる。

 機敏さや正確さを要求されるのも我の性分には合致しないのだ」


 ヒョイと持ち上げて見せてきたアサルトライフルは、平均的で扱い易いからとイワンがみんなに勧めてくれたものだ。


「そうなのか?

 横で見ているぶんには上手に扱えているように思うんだが」


 実際、ゴルディの射撃の精度は悪くはない。


「ここでの成績は、な。

 しかし実戦となれば走り回ったり物陰に身を寄せたりと、必ずしも正しい姿勢を取れるものではなかろう?

 そもそも我は、剣を器用に扱えぬから騎士の道を諦めて斧を極めんとしたのだ。

 もっと力強く、しかし精度に拘らなくても戦える武器にしたいのだ」


 確かにゴルディの戦い方は巨大な戦斧を大きく振り回す戦い方で、急所を狙ったりフェイントを駆使するような繊細な戦い方ではなかった。

 むしろ魔物の体を力強く両断することしか考えていないような戦い方だ。


 キールは顎に手を当てて少し考える。


「ゴルディ。

 それなら銃を変えてみてはどうだろう?

 ライトマシンガンやショットガンならアサルトライフルとは違った扱いのはずだ。

 戦場での立ち回りはニコライさんに教わらなければならないけど、悩むくらいなら思い切ってみていいんじゃないか?」


「しかし、我は手先が器用とは言えん。

 一発ずつ弾を込めるというのが苦手でな」


 どうやらゴルディは弾丸を一発ずつ弾倉に込め、ポンプ動作で弾丸を発射位置に装填するショットガンは使いたくないようだ。


 ニコライの解説とイワンの実演で見たことがあるが、キールはフロントグリップの付いたポンプを前後させるアクションは格好いいと思っているので、ゴルディの苦手意識は少々残念だった。


「……確か、カートリッジ式の弾倉――マガジンといったか?

 マガジンを有するショットガンも存在するはずだ」


「本当か、グァンダイン!」


 いつの間にか近寄ってきていたグァンダインの言葉に、ゴルディは明るい笑顔を見せる。


「私の記憶が衰えていなければ、カートリッジ式に加えてポンプで送るタイプや、フルオートメーションでバレットをチェンバーに装填するタイプもあったはずだ」


 グァンダインの補足にゴルディは飛び上がらんばかりに喜んだ。


 弾丸が詰め込まれたマガジンと呼ばれる弾倉は、弾切れの際に空のマガジンを抜き落として新しいマガジンを差し込むだけで即座に撃てるというメリットがある。

 これがフルオートであれば、いちいちポンプ動作でチェンバーに弾を送ってやらなくても、トリガーを引くだけで次の弾が発射位置に送られてくる。


 まさにゴルディの理想と合致した銃だろう。


「感謝する!」


 グァンダインへの感謝の言葉は、ゴルディがとっくに走り出してから聞こえてきた。

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