① ポジショニング
翌日からキールの心持ちは少し変わった。
『初心に帰る』
カリーリがかけてくれたその一言は、キールに色々なことを思い出させ、色々なことを考えさせてくれた。
アイルノン王国の騎士になりたくて、一人で棒切れを振り回していた少年時代。
騎士になるには家柄や金が必要だと知って絶望した日のこと。
それでも夢を諦めきれず、剣術道場に通い、傭兵に参加し、勇者隊の募集を聞きつけ希望を見い出した日のこと。
ゴルディ・ゲンドウ・グァンダイン・カリーリと出会ってパーティーを組み、旅の途中に彼らから教わった様々なこと。
そして一つの真実に行き着いた。
――キール勇者隊などと呼ばれていたけれど、『世界最強』という二つ名は五人揃ってのものじゃないか。
俺一人ではこんなにも無知で未熟なのだ。
俺は、カリーリやみんなのお陰で最強でいられただけなんだ――
そこまで自分の立ち位置が分かってしまえば、デニス少佐やユーゴ大尉、ニコライやイワンが、キールたちに対して高圧的であるのも理由が分かった気がした。
――無知で未熟な新人に優しくしてゆっくり育てている暇はないのだろう――
きっとそれが理解できていなかったから、イワンはキールに対して厳しく接していたのかもしれない。
「よろしくお願いします!」
それからのキールはニコライの講習も、イワンのトレーニングにも真摯に向き合うことができた。
仲間たちとも講習やトレーニングで理解しきれなかったことを互いに補い合うことができたし、また態度を変えれたことで講習もトレーニングも身が入るようになった気がした。
※
二週間が過ぎた頃、キールはトレーニング終わりにイワンに一つの頼み事をしてみた。
「このトレーニングルームを使わせて欲しいだと?」
「そうです。俺はもとの世界では剣を扱っていました。
この世界の戦闘では剣など使わないと教えられましたが、剣を振らぬ日は落ち着かないのです」
「なるほど。
トレーニングや精神集中のためであれば許可しよう。
この地下施設は、実戦を生き抜くための訓練を行う施設だ。
過去の栄光や感傷に浸るためならば許せるものではないが、トレーニングの一環であれば構わん。
なんなら射撃場の使用も許可してやろう」
意外にもあっさりと許可されたばかりか、イワンの立ち会いがなければ使用させてもらえなかった射撃場の使用まで許してくれた。
「良いんですか?」
「実戦に向けて真摯に学び、ひたむきに努力しようと言うのだろう?
鍛錬を積みたい者に制限をかける方が間違っている。
無論、使用できる銃はまだ制限させてもらうし、間違った撃ち方や誤った使用は論外だ。
いつでも撃てるからと夜通し入り浸って、次の日の講習に影響してしまうことも有り得ない。
誓えるな?」
「もちろんです!」
キールにとって願ってもないことだったので、胸を張り音がするほどの敬礼を向けると、イワンも楽しそうな笑顔で返礼してくれた。
初めてイワンの笑顔を見た気がした。
それからのキールは、食事と睡眠以外の時間の全てを、トレーニングルームで愛剣の素振りと射撃場でハンドガンを撃つ時間へあてていった。
そんなキールをそばで見ていた仲間たちにも変化があった。
キールの隣りでゴルディが戦斧を振り始め、ゲンドウとカリーリは器具を使った筋力トレーニングを始めた。
射撃場には五人全員で赴き、グァンダインがいつの間にかタブレットという情報集積機器の使い方を学び、みんなの成績をデータ化し始めた。
食事の時には射撃姿勢の見直しや、それぞれの課題や目標などの話題をするようになった。
そんな調子でさらに二週間が過ぎた頃。
「一通りの基礎知識はなぞることができました。
イワンからの了承もあって、あなた方に合った銃を選んでいこうと思います。
これは実戦での作戦において、小隊として任務遂行するために役割分担を担う必要があるからです」
穏やかな表情ながらニコライから切り出された講習内容に、キールたちは若干の緊張を感じた。
役割分担という言い回しは小難しくて分かりにくかったが、剣と魔法で戦っていた頃を思い出すと理解はできた。
キールとゴルディが前に立ってバスタードソードと戦斧で戦い、最後列からグァンダインが必要な魔法で援護する。
三人の中間にゲンドウとカリーリが入って、剣や祈りでより直接的で細かな援護を行う。
銃を用いた戦闘でもそれに近い陣形や役割があるということなのだろう。
「まずゲンドウさん。
あなたの機敏さや目の良さと耳の良さ、足音を消せる能力はタクティカルに向いています。
ただ筋力の面では平均的で、威力の強い銃や重い銃はあなたの特性を消してしまいます。
軽量で中・近距離に有用なサブマシンガンが良いでしょう」
「これは納得だねぇ。サブマシンガンなら二丁持ちでもいいんだろ?」
「……そうですね。
シミュレーションで慣れてくればそれも良いでしょう。
特性の違う銃を二丁持ちすることはメリットもありますあらね。
ただ、重量と体力のバランス、両手が塞がるデメリットもあります」
サブマシンガンは軽量で殺傷力が望めないぶん、取り回しと使い勝手に秀でている。
隠密行動や偵察などが得意なゲンドウには最適だろう。
ニコライの判断に全員が納得できた。
「続いてグァンダインさん。
あなたの場合、体力的な面で重くて強力な銃はおすすめできません。
しかし『動かない』という前提を付けてしまえば、これほどスナイパーに適した人材はいません。
中・近のみならず遠距離の射撃の精度が非常に高い!
これは安全な物陰や高所から、前に出ている仲間を支援するのにぴったりです」
「一手の精度を高め必中を誓うは射手の極み。
私の性分に合っているように思う」
望遠のスコープを用いて遠距離の射撃を可能としたスナイパーライフルは、威力の強い銃だが重くて長大だ。
グァンダインの体力や筋力を考えれば、そんな物を抱えて戦場を走り回るなどデメリットしかない。
しかし射撃を行うポイントさえ安全であれば、体力のないグァンダインが動き回らずとも良く、離れた場所から一撃必中させるためには高い射撃精度が求められ、グァンダインはこれをクリアーしている。
もっといえば、もといた世界ではゲンドウやキールから情報をもらい、最後方から戦闘に効果的な魔法を使っていたグァンダインからすれば、やり慣れたポジションといえる。
これも仲間全員がニコライの判断に納得した。
「残った三人がアタッカーとディフェンダーを兼ねる形が良いかなと考えます。
これは『余り物』的な考え方ではなく、アタッカーもディフェンダーも、臨機応変な対応と遠距離射撃も中距離も近距離もこなせる万能タイプでなければならないからです。
なので、三人には一旦アサルトライフルをおすすめします」
ニコライの判断に一瞬キールは肩透かしを感じたが、よくよく考えれば剣で戦っていた頃と変わらないので、一応の納得はした。
しかしニコライの使った『一旦』という言葉が引っかかる。
「ニコライさん。一旦アサルトライフルを、というのはどういうことでしょう?」
キールの質問にニコライは一つうなずいて答える。
「それは『ディフェンダーを兼ねる』からです。
アタッカーが前に出て攻撃を仕掛ける専任であるように、ディフェンダーは防衛が専任であるからです。
しかしただボンヤリと一箇所にとどまって何かを守るという役割ではありません。
デ・ミニオンとの戦いにおいて守るべきは、スナイパーや囮となって突出するポイントマンや拠点や陣地ですが、逆を言えば突出してきた敵を迎え撃つ役割でもあります。
敵のアタッカーやタクティカルを崩すことで勝機を得る場合もあるということです。
そうなった場合、アサルトライフル以外にもライトマシンガンやショットガンやサブマシンガンなどの選択肢があるからです。
アタッカーかディフェンダーに専念するかで変わりますし、両者を兼ねるならばなおさら主武装は慎重に選ばねばならない。
そういう意味です」
「……分かりました」
もとの世界で考えた場合、攻撃に出る前衛は決して剣だけではない。
それこそゴルディは戦斧を使っていたし、スピアやハルバートといった長槍を使っている戦士もいた。
キールは両手持ち出来るバスタードソードを使っていたが、その理由は両手持ちにすることで攻撃力を上げたり、左手に盾を持っても右手だけで剣を振れるからだ。
「役割が決まったので、これからは午後のトレーニングには各々の主武装に合わせたトレーニングをするようにイワンに伝えておきます。
また次の講習からは役割や目的を身につけるため、作戦や立ち回りについて教えていきます。
小隊やもっと人数を動かせる中隊や大隊には、コマンダーというリーダーや指揮官が必要になります。
そういった役割は戦術と作戦を理解して立ち回ってもらわねばなりませんからね」
次の講習の予告をしてニコライは退室していった。
キールは午後から触れることになる初めての武器、アサルトライフルへの緊張と期待で少し興奮し始めていた。




